第10話

深夜、敵船からの魚雷に被弾し、

燃え盛る船から僚友が待つ海に飛び込まずに、

船とともに沈んだ



級友でもあった少年たちは皆、口々に声をかけた



「飛び込めーっ」


「勝二、飛び込めよ!」


「飛び込んでくれぇっ」




足がすくんで

飛び込めなかったのかも知れない

パニックだったのかも知れない

もしくは爆発で吹き飛んできた船用品の

下敷きになっていたのかも知れない



「どれもこれも、よくあることです」



と、彼はうなだれた



ただ、暗がりの中、船のへさきにしがみつきながら


「母ちゃん!!」


と絶叫する兄ちゃんの最期の声を

海中で重油だらけになりながら、確かに聞いたと

その同級生だった復員兵は、涙ながらに語ってくれた




母ちゃんは泣き崩れた




俺は、あの夏の日の笑顔を忘れない



兄ちゃんは弱虫なんかじゃない



誰よりもあの川で勇敢だったじゃないか



兄ちゃんを笑うヤツは、この俺が許さない


誰であろうと!

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