紅貴楼~桜艶舞~

雨音亨

プロローグ


まだ寒さの残る春先。

初めてその人を見た時、桜の花びらが舞っていたのを覚えている。

ほつれた後れ毛がうなじに垂れて、色っぽい目尻に紅の色。

綺麗な着物を纏ったその人は、とても柔らかな声をしていた。

「あんた、今日来た子か?」

人買いに連れて来られた鮮やかな場所。

待つように言われた小さな部屋は怖くて、ただ不安で。

部屋を抜け出して、裏にある小さな庭の片隅で泣いていたお菊の頬を撫でた、細く綺麗な指。

「ここは寒いやろ?うちの部屋においで」

あでやかに桜を纏ったその人は、暖かな春の日差しの様に、穏やかに笑った。

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