第10章

訪問者

第1話

テーブルの上に置いていた携帯がウ゛ーウ゛ーっと鈍く音をたてる。



布団から顔を出してチラ、とそれを確認するも、すぐにそれから背を向けるように壁と向き合った。




朝から携帯が鳴る。鳴り止まない。


1時間ごとに鳴る。いい加減うるさくて、うざったくて。



チッ、と舌打ちを落として布団の中にもぐりこんだ。



その中でギュッと強く瞼を閉じれば少しは気が紛れるだろうと思ったのに、今度は息苦しさを感じて、思い出したくないことまで甦ってくる。




…なんだ。なんだよ、もう。



苦しんでるのに、これ以上苦しめてどうする。



十分傷付いてんだ。深い傷は中々治りそうにもない。



完全に完治するには、あと数年かかりそうだからそれまで俺は布団の中で冬眠していようと本気で思ってる。



だから誰も俺に干渉してこないでほしい。



メールもいらない。電話もいらない。



ましてや会って話すとかもいらない。




いいでしょ。裕哉。


簡潔にまとめたメール送ったでしょ。


俺が伝えたいのはただそれだけだっていうのに、どうして何度もメールしてくんだよ。


そっちは聞きたいことがあったとしても、俺はもう話すことなんてないから、マジほっといてほしいな。






俺の傷をえぐるようなことしないでほしいな。

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