番を認識できなくなった相手の言動が酷すぎてお別れすることにしました〜妹が勝手に飲んだ薬は失敗作……だけど感謝はしています〜

リーシャ

前編暴言を吐かれるとは夢にも思わなかった

番とは。


本をぺらりと捲る。


番とは。


そこにはこう記されていた。


番システムについて。


自身の頭が勝手に言葉を変換する。


「番とは、運命の魂で結ばれた者達のこと」


指先で文字をなぞる。


ルシアはテーブルにおいてある薬を目にやる。


その色はピンク色で、飲むものに不安を与えるだろう色彩をしていた。


「番とは」


さらに読み進めれば、番として結ばれると永遠の愛が約束される。


「フィクションよね、これ」


テーブルに重みのあるものが落ちる音と共に、その物体Rは言葉を発する。


『出来上がったのか』


「ふふ。おかげさまで。そっちの地方にある薬草があって、取りに行くのが大変だったから助かったわ。お礼は振り込んでおくから」


重みのある物体は伝書スライム。


スライムを遠くに飛ばして、スライムを通じて連絡出来るようにするもの。


こちらの地方ではあまり普及してないので、あちらの地方のスライムを貸してもらっている。


『人間には番という概念も、それを感じるものもない。それを擬似的に作るという試みは、おれも気になるからな』


「ありがとう。その好奇心を糧に手伝ってもらえるんなら、なんでもいいのよ」


『お前に番が見つかるとはな』


男の言葉に、回想が頭を過ぎる。


ルシアは転生者だ。


家族も転生者と知っている。


転生者を判断するものがこの世にあるので誤魔化すことはできない。


その代わり、転生者を受け入れられる教育をこの世界は取り入れた。


おかげで、ルシアの生きやすい世界だと感謝している。


前世は有名な魔女であり、現代人の記憶もあるという稀有な存在だったので馴染むのに時間が経った。


亡くなると、魂に訪問者が現れその世界を統治している存在にうちに来てくれと頼まれて、依頼を受けること数回。


今回は珍しく、この世界の統治者はなにも言わなかったので、この世界にするりと入っただけで終わった。


もしかして、統治者が不在ということも考えられる。


本を閉じたまま、薬を完成させる。


この薬を作る理由は、この世界にあるつがいというもののことを研究するためである。


ルシアにも番は居たらしく、二年前にワニ獣人である男が自分がつがいだと言いつのる出来事を思い出す。


初めは、いたんだなぁ、と不思議に思った。


が、ここで困ったのはルシアには番を感じとる五感がないこと。


人間に生まれて、人族は基本的に番を感じ取れないことを習った。


だからこそ、相手がこんなに愛してくれているのに、こちらは同じだけ愛せないと思ったので。


実験用に人間でも番を感じ取れる薬を作成することにした。


なかなか会心のできだと己を褒める。


感じ取れるようにしたのだ。


いざ、飲もうとするとノックなしに扉が開く。


「おねえちゃん。なにか作ってたよね。あ、それ?ちょーだい!」


十五才になった妹が猛進で、薬を奪い取ると、すぐに喉に流し込んだ。


止める暇もない。


びっくりしていると、妹はご馳走様と言って去る。


あの子は動物みたいだ。


驚いて嵐がさるのを眺めてから、ゆっくりと薬を再度作るために移動する。


妹になにかあっても妹の責任だ。


ルシアはそう結論付けた。


問題は二日もせずに訪れた。


ワニ獣人のルシアの番が、ルシアの妹を見て「おれの番!」と飛びついたのだ。


突然、妹は驚き叫び、気持ち悪いと逃げる。


両親は何事かと様子を見に行き、ルシアも説明をするために広間へ行く。


ワニ獣人、短略し、ワニと呼ぼう。


ワニは妹を追いかけ回す。


「いつまでも続くから、止めるわよ。ウィップ」


指を振ってムチを出し、ワニに引っ掛けて、転ばせる。


「ぐわ!誰だ、おれと番の邪魔をするのは」


怒りに染まる顔でこちらを向く。


こちらを認識すると、嫌悪が相手に浮かぶ。


「おれを騙したな!魔女め!」


確かにルシアは魔女だ。


そんなの全員知っている。


やっと暴走が止まったので、昨日の出来事を最初から最後までていねいに教える。


全部妹が悪い、に変わる瞬間。


「えー!あれ、番を認識する薬だったの?でもなんでおねぇちゃんの番に追いかけ回されてるの?」


「それは、まだ途中のものだから思ってもみない効果が出てしまっただけ」


試しに、妹の番であるツバメ獣人のツバメを呼び寄せる。


同じく状況を説明していく。


この薬は、いつまで効果があるのかと聞かれるので、試薬だったから三ヶ月程だと言い終える。


長いと、面倒そうに呟く妹の頬を引き伸ばす。


「いひゃひゃひゃ」


さすがの暴走に、ツバメも止めない。


ワニとの態度の差に、ワニへの失望が蓄積されていく。


例え薬がきれても、もうワニを番として受け入れることもなさそうだ。


この薬が完成しても、次に作るのは番を感じ取れなくなる薬になるだろう。


いや、もう感じ取れなくしておけばいいか。


ルシアは今も、頬を抓るだけでこちらを番を害するものと、敵意を向けるワニに、侮蔑の瞳を向ける。


「ひぐ」


ワニは、魔女の殺意の気配に背筋へ冷や汗を流していた。


彼は魔女が、圧倒的に上位者であることをすっかり忘れていたのだ。


「彼女を、は、放せっ!バケモノ!」


「な、なんてことを!」


両親は怒り心頭で、ワニに目を向ける。


両親の彼への印象も地に落ちた。


彼が二人を懐柔して、ルシアと復縁する繋がりも切れたわけだ。


「君、いくら番の姉妹を注意しているからといって、無関係のつがいという肩書きを盾になんでも言って良いわけじゃないんだよ」


ツバメは冷静にワニを叱る。


「うるさい!彼女はおれの番だ。いままでそこのルシアとかいう女の番と思わされていたおれは被害者なんだぞ!」


「少しフェロモンを身にまとっただけで、ここまで酷いなんて」


妹は姉の番を認識する、体内にある匂いをさせているだけだ。

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