4話 マドンナも認める文学少女

「読んで」


美咲から渡されたのは、

1冊の本だった。


表紙を見ると、

マンガのようなイラストが描かれている。


「これ―――なら読みやすいと思う」


「えーっ。

ホントに読まなきゃダメですか?」


―――なんでしょ?」


「そ、それは・・・」


ウソをホントにすることが、

ウソをウソのままでいさせてくれる条件だった。


「努力は必要」


美咲が悪代官のような笑みを浮かべる。


「その間に私―――は作文を書いておくから。

期限は1週―――間だったわよね」


「はい・・・。

よろしくお願いします」


帰宅すると、

幸子は仕方なく本の表紙をめくった。


ペラペラとめくってみると、

20ページに1回くらいのペースでイラストがあった。


これは、どんなシーンなのだろう。


気になって読み始めると、

今度は次のイラストを見たくなった。


自然とページが進んでいく。


「ふむふむ」


いままで本の1冊すらまともに読み切ったコトのない幸子だったが、

夢中になっているうちに、わずか1時間足らずで読み終えてしまう。


「・・・ゼンブ読んじゃった」


自分でも信じられなかった。

それほどに読みやすかったのだ。


幸子は約束の1週間を待たず、

美咲のトコロへ報告に行った。


「すごく面白かったです!!」


幸子がさけぶと、

美咲が涙を浮かべて笑った。


「そんなに―――気に入ったのね」


「はいっ。すっごく面白くて。

読書ってこんなに楽しいんだなって!」


「ゲンキンな子ねぇ―――じゃあ、次はコレ」


美咲が棚に視線をやる。

そこには3冊の本が置いてあった。


次の本を準備をしてくれていたのだ。


「ありがとうございますっ。

大切に読みます」


「いいのよ―――本ならクサるほどあるから。

それより―――感想を教えてほしいな」


翌日には3冊を読んでしまい、

幸子は次の本を借りに行った。


そんなこんなで、作文が出来るまでの1週間で、

幸子はなんと10冊もの本を読み終えていた。


「もう―――りっぱな、ね」


そう美咲に言われて、

幸子はとびあがるくらいうれしかった。


私って、文学少女になれたのかなぁ。


しかし、

ちょっとした不安もあった。


「うーん。

でもカンタンな本しか読んでないし」


幸子は、美咲がカンタンでページ数の少ない本を

選んでくれているのに気付いていた。


こんなことでは、

まだまだ文学少女には遠い気がする。


「そんなことはないけれど―――でも、

まぁ、そうね―――次はコレ読んでみる?」


美咲が用意していたのは、

分厚いハードカバーの本だった。


表紙はマンガみたいなイラストではなく、

水彩画で描かれたものだ。


おおー。

これはホンカクテキなカンジ。


「うーん。

これはこれでムズそうだなぁ」


「まぁまぁ―――そういわず。

読みやすく―――てイイ本だから」


仕方なく幸子はページをめくってみた。

確かに読みやすいかも。


美咲がいるにも関わらず、

幸子は読む手が止まらなくなった。


「・・・あっ。すみません。

私ったら」


我に返って顔を上げると、

美咲は静かに眠っていた。


彼女は一日中寝てばかりいるので、

あまり体力がないのかもしれない。


「持って帰って読もうっと」


次の日に作文は出来上がり、

幸子はそれを受け取った。

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