第10話 十三日目〜十四日目―愉快神、死す!


 長く響き続けるコール呼出音。神界には、愉快神ローリスの笑い声と、コール呼出音だけが響いていた。


『…………はい、もしもし』


 腹を括ったアルダメスが、遂に応答を決意した。長い沈黙の後に、アルダメスの掠れた声が漏れ出た。


「創造神のアルダメス様でしょうか?」

『………はい』


 ルイの質問に、間の長さはありつつも、自分が創造神アルダメスだと認める。


「お分かりだと思いますが、ルイと申します」


 暗に、“遠見の泉で見ていたんだから、分かるだろ?”と言っているルイ。


『………はい。今世では、大変お世話になっております』

『ひぃっ!?…ぶふっ!?』

「…?アルダメス様以外に、誰かいるんですか?」

『………』


 アルダメスの口から、滅多に聞くことが出来ないビジネス用語が繰り出される。


 覚悟を決めた創造神アルダメスの後ろで、それを聞いていたローリス。


 元々悶えていた彼の肉体は、追加攻撃を食らい、瀕死の身となった。身体全体を痙攣させ、「ひぃっ!ひぃっ!」とうわ言のように繰り返している。


『……ふぅ、気にせんで良い。あれは、ルイに迷惑をかけた奴の成れの果てだ』


 ローリスの無様な様子を見て、少しだけ落ち着きを取り戻したアルダメスは、普段の口調に戻り、声の主をバラす。


「…?よく分かりませんが、気にしなくていのなら……それより、アルダメス様は、私に言いたいことがありますよね?」

『そうだな。だが、こうやって連絡を取ろうとするとは思わんから、少し慌てたぞ。前代未聞だ』

「そうですか?まぁ、いいじゃないですか。そういうチートな能力を授けたのは、アルダメス様ですよ?無限の可能性のある魔法……使い手によっては、怖ろしいことになりますよね?」

『……そうだな』


 最初の声にはない凄味を感じさせる圧が、ルイの声音に篭められていた。アルダメスは、背中に冷や汗を感じながら、ルイの次の言葉を待つ。


「人に頼む時は、事情説明と取り扱いの説明をして頂いても、いいと思うんですよ」

『……はい。まったくその通りで、面目次第もございません』

「それで、アルダメス様はじめ、この世界の神々は、私になにを望むんですか?」

『なにも望まん……というのは違うが、お主はそのままの飾らぬ、自由な人生を生きればよい。運命が、自ずとルイを導くだろう。数多の縁と出会い、更に縁を紡ぐ。ルイの今世は、賑やかなものになるだろう』

「予言ですか…」

『すまんな。儂の都合上、はっきりと運命さだめを告げることが出来んのだ。何故なら、儂が口にした時点で、それが運命として固定されてしまうのだ』

「固定……ということは、アルダメス様が、俺の運命を口に出せば、それが俺の意思関係なく、作用してしまうということですか」

『そうだ。縁とは、不思議なものでな。蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸のように、幾つもの選択肢を孕んだものを言うのだ。それをどう選び、学び、人生に活かすのか。それらは、全て自分次第。自身の選択が、人生を作っていく。それが運命……だが、儂がそれに口に出せば、それはもはや、定められたルートを進む人形と化してしまう。それは、嫌じゃろう?』

「勿論!」

『ならば、儂の想いは、鑑定で察してくれると助かる。もやもやを抱えてしまうとは思うが、神も色々と制約があってな。なんでも出来る自由な存在というわけでもないのだ』

「……分かりました。では貴方の想いは、ステータスで、逐一確認させてもらいます」


 てっきり創造神といえば、全能を司る神と思っていたが、彼からすると、そうでもないらしい。人間社会のように、神々の世界も色々あるのかもしれないな。


『そうして貰えると助かる。ただ一つ言えることは……』

「なんですか?」


 通話を切ろうとしていたルイに、アルダメスは最後の望みを口にする。


『必ずしも、儂の想いを汲んで行動することはない…ということだ。勿論、そう動いて貰えれば嬉しいが、これは君の人生だ。儂は、その君の人生に、ちょっとだけ頼みをしたに過ぎない』

「つまり、アルダメス様の想いを汲んだ上で、どう選択し動くかは、私が決めていいということですね?」

『そうだ。その褒美というわけではないが、儂の想いに応える選択肢を得る為にも必要なスキル【生活魔法 Lv.∞】と、称号【呼び起こされし者】をプレゼントさせてもらったのだ』

「アルダメス様のお考えは分かりました。では、そろそろ通話を切らせて頂きます」

『あぁ……久しぶりに下界の者と話せた。楽しかったぞ。またな』


 右往左往と慌てふためいていた人物からは、想像もつかない感想である。


「はい。それでは、失礼致します」


 そんなことになっていたとは知らないルイは、それを素直に受け取り、通話を終えた。


「ふぅ……やはり、無限に魔法文字を組み立て使用出来るとはいえ、初めては疲れるな……」


 そう言いながら、ベッドに倒れ込むルイ。


 創造神アルダメスは、ルイの判断に委ねると断言した。アルダメスの言葉の裏に隠れた期待も感じ取っていたルイだが……身体と精神の疲労が大きく、迫りくる睡魔に抗うことは出来なかった。


 因みに、愉快神ローリスだが、えらい静かだったと思わないか?

 奴はな……笑い過ぎによる痙攣の過呼吸で、密かに救護室へ搬送されたんじゃ。無事、回復することを祈ってくれたまえ。 by アルダメス。


♢  


 次の日、ぐっすりと眠ったルイは、体調万全で目が覚める。朝食を取るために階下へ行くと、俺に声を掛ける人がいた。


「ルイ様ですか?」

「はい、そうです」

「冒険者ギルドマスターからの手紙をお持ちしました」

「ギルマス?……確かに受け取りました。ありがとうございます」


 封筒を手渡された俺は、裏を確認する。

 そこには、開封防止の蝋が垂らされていた。

 冒険者ギルドの証である印を確認した俺は、手紙を配達してくれた彼にお礼を言って受け取った。


 部屋に戻った俺は、手紙を開封する。

 パリッと鳴る蝋の音を堪能し、手紙を開くと、便箋が一枚が入っていた。


『結果の報せと、依頼の返事アリ。

 至急、ギルドまで。 ドーザ』 


 そこには、簡潔に纏められた呼び出しの文面が記されていた。


(これは、朝飯抜きだな)


 俺は鞄に手紙を仕舞うと、手早く扉の鍵を掛け、女将のタバサさんに鍵を預ける。


「ルイ!パンサンドを持っていきな!」


 タバサさんは、鍵を受け取った反対の手で、布に包まれたパンを渡してくれた。


「え!?いいんですか?」

「ルイ宛ての手紙なんざ、初めてだったからね。きっと急用だと思ったのさ」


 ふふんっ…と腰に手を当て、得意げに告げた彼女に、俺は軽く会釈をする。その際に、パンを落とさないように気をつけながら。


「流石、タバサさん!有り難く頂きます!」

「褒めてもなにも出ないよ!それより、気を付けて行きなよ!」

「はい、行ってきます!」


 タバサさんの激励を受け、俺は宿を飛び出した。ここの宿屋とも、明日でお別れか……と、少しの哀愁を抱きながら。

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