第5話 九日目―危険な魔法文字?
「……暴風を目にしたわけじゃないけど、一体どんな改良を加えたの?」
(おっ?少し回復したか?)
バレンの質問に、前世の文字の意味と、現在の魔法文字の使用で感じた違和感について、俺は話した。
「例えば、
俺は、バレンに説明をする。魔法具師なら、いつか問題にぶち当たる部類かもしれんしな。
「魔法はイメージが大事なんですよね?」
「あぁ、そうだね」
次に、ギルマスへ話を振れば、彼は俺の実験を見ているから、問題の大きさも理解している。かなり真剣な顔つきだ。
「ならば、火は温度差も幅広く、規模も思いのままに操作出来るのが、容易く想像出来るでしょう?勿論、魔力量・熟練な経験などの課題はあります。でも、熱さも大きさも、
「魔法の真髄は、操者のイメージにある。攻撃魔法と信じて撃っていた魔法の常識が覆るとしたら、世界はどうなると思う?」
「「………」」
俺の懸念に、ギルマスも問題を提起した。
簡単に想像出来る未来に、3人は神妙な顔つきで見つめ、頷き合う。
「危険極まりないな。この件に限り、私の信用出来る人物に、話してみよう。勿論、誓約書通り、それに伴う責任は、私が全て持つと約束するよ!」
「宜しくお願いします」
専門家にでも相談するつもりなのだろうか?ギルマスからの申し出に、俺は『是非!』と快諾した。
「その彼女から、問い合わせが来るかもしれないが、その時は頼むよ」
「分かりました」
専門家は女性か。
研究者とかか?
それなら、話を聞くだけでは不確かだし、当事者の俺に質問がしたくなるのかもしれないのは、当たり前だな。
♢
「今日はもうおしまい?」
「…そうだな?」
バレンの意図を得ない質問に、俺は怪訝な表情で、疑問のまま返事をしてしまった。
「じゃあ、協会の解析図に協力してくれるよね!?」
俺の返事を聞いたバレンは、途端に明るくなる。まるで、お預けを食らっていた犬のよう。
「待て待て!?今日は、もう遅い。明日からでどうだ?この前、宿を三日延泊したんだ」
「え!?ルイ君、三日後にこの街を出ていく気なの!?僕、まだまだ見てもらいたい解析図が沢山あるし!さっきの
「三日じゃない。四日か、五日後だ」
「見て欲しい解析図もあるんだ!」
「足りなければ、宿を延泊するさ。ストレージはともかく、一度約束した解析図は、しっかり約束を果たすぞ」
俺が、「約束を違えることはしない」と言えば、どこか安心した表情へ変わるバレン。それを見た俺は、(やれやれだな…)と独り言ちた。
♢
そんな一時の麗らかな午後。
いや、外はもう日が沈みかけているが……そんな生温い空気が漂う空間に、無責任な声が響いた。
「あっ!階下に降りるなら、新記録樹立の掲示をしてあると思うから、無粋な奴には注意するんだよ?」
「ん?新記録樹立?昇格の件ですか?」
落ち着いたギルマスが、そんな事を言い出すものだから、俺は眉を顰める。
俺とは対照的に、手で口を覆っているギルマスが、「くふふ…」と笑い声が漏らしている。
「登録から昇格までの最速の日数は勿論だけど、1日で稼いだ依頼料!それら2つが冒険者ギルドの【青少年部門】の記録を塗り替え、新記録を樹立したんだよ!」
「……」
「ルイ君……君は、草原の採取に半日出かけただけで、
「ぇ"!?」
それでも、依頼は10件だ。
ここでは知らないが、他の支部では、やり手の若い冒険者もいるに違いない。
バレンは、ギルマスの暴露に驚きの声を上げるが、ルイは首を傾げた。
「そうですが、常設依頼の各5種類を2束ずつ納品しただけですよ?」
俺の言葉を聞いたギルマスは、キッと眦を上げ、立ち上った。
「本気で言ってる!?納品の薬草には、様々な評価が付くことは知ってるよね?」
「勿論。ギルドの取扱説明書に書いてありましたから」
『常設依頼の納品の際に、お支払いする依頼料の目安』だったか?
確か、品質において等級があり、それ以外の項目にも沿った依頼料が支払われる。
薬草の品質は、高品質から低級や粗悪品まで様々で、鮮度や痛み具合も同等だ。
俺は、メリダ婆さんから教わった方法を実践した上で、鮮度維持を施し、浮遊で傷を付けぬよう細心の注意を払った。
その結果が、あの高額報酬だったと言うだけだ。なにも特別なことはしていない。薬草採取で当たり前のやり方である。
「鮮度維持や浮遊で丁寧な取扱いはしたが、採取の保存のやり方は、初心者講習で習う範囲でしょう?」
「確かに君の言う通りだ。でもな!?君のあの納品のレベルは、異次元なんだよ!新記録樹立も、不思議ではないんだ。あの街での騒ぎは、いまだ語り継がれているし。新記録樹立しちゃったし、このまま街の伝説になりそ」
「止めて下さい」
ギルマスの言葉に、俺は即座に、中断を強く求めた。
「……だったら、ちゃんと自分を自覚して、行動してね?」
「分かりました」
俺は強く頷き、返事を返す。
俺は、ラノベでいう『俺、なにかやっちゃいましたか?』を、素でやってしまったんだな……フルコンボだ、ドン!
「それにしても、掲示はいつ?」
「スズナは仕事が早い。君が午前の昇格試験に合格した時点で、全冒険者ギルドに通達され、既に掲示されてるだろうね」
「ということは、俺の案内が終わった後に?」
「いや、その足で貼りに行った可能性ありだね」
「……そうですか」
ギルマスは首を左右に振り、言外に『手遅れ』だと告げた。しかし、こちらがなんともない風を装っていれば、皆も拍子抜けするものだ。いいな?
「そんなもんかな?僕は半日で、
俺の説明に、バレンは首を傾げる。だが、彼の喜ぶ姿は、容易に目に浮かぶな。
「その3割は、監督役のウルディン行きだぞ?俺が手にしたのは、その7割だ」
「う〜ん」
悩むバレンを置き、俺は魔法文字を考える。
「……取り敢えず、気配を希薄にするか」
「え!?そんなことが出来るの?」
「付焼き刃だけどな。自分より強い相手には、普通に認識されやすい」
「…そうなんだ」
なぁんだ…と拍子抜けするバレンに、俺は苦笑いだ。調子がいいのか悪いのか。
「階下は、時間帯的にもごった返してるだろ?だから逆に、今がチャンスにもなる。ギルマス」
木の葉を隠すには、森の中。人を隠すのも、人の中。
「なんだい?」
「サブマスに、ランクの変更手続きは後日って、伝えといて下さい」
「…仕方ないね。了解したよ」
俺のお願いに、眉尻を下げるギルマス。多分、サブマスにお小言を言われるな。
だが仕方ない。今はバレンも連れているし、絡まれたりするのは極力避けたい。
「今日は、ありがとうございました!専門家の件は、宜しくお願いしますね?」
「任せて!気をつけて帰るんだよ?」
「それを言うなら、掲示はパスしてくれりゃいいのに…」
どの口が言うのか?と思い呟けば、「規定だから駄目」とスッパリと切られた。
「それじゃあ、僕も…」
「あぁ。また今度、お店にお邪魔するよ」
「お待ちしています」
俺とは逆に、丁寧に会釈をして退室の挨拶をするバレン。彼は、ギルマスの言葉に笑顔を浮かべ、応えていた。
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