第5話 九日目―危険な魔法文字?


「……暴風を目にしたわけじゃないけど、一体どんな改良を加えたの?」


(おっ?少し回復したか?)


 バレンの質問に、前世の文字の意味と、現在の魔法文字の使用で感じた違和感について、俺は話した。


「例えば、 灯火トーチライトだけでも、火や明かりを意味しているんだ。ライトは、明かりの装置の意味が一般的で……しかもファイアも、そのまま火の意味なんだ。だけどこちらでは、小さな火だ」


 俺は、バレンに説明をする。魔法具師なら、いつか問題にぶち当たる部類かもしれんしな。


「魔法はイメージが大事なんですよね?」

「あぁ、そうだね」


 次に、ギルマスへ話を振れば、彼は俺の実験を見ているから、問題の大きさも理解している。かなり真剣な顔つきだ。


「ならば、火は温度差も幅広く、規模も思いのままに操作出来るのが、容易く想像出来るでしょう?勿論、魔力量・熟練な経験などの課題はあります。でも、熱さも大きさも、想像イメージで変えられるんです。鍛冶場の火を想像してみて下さい。あれも立派な『ファイア』なんですよ。それで思ったんです。これ……『ライト』と『ファイア』で、魔法文字コード重複ちょうふくしているんじゃないかって?試していませんが、魔法具の灯台は『ライト』だけでも点くと思います。ただ……その実験が成功してしまえば、俺の言っている『ファイア』の意味が、実証されるんじゃないか?って、もっと危険な問題に発展する気がして……」


「魔法の真髄は、操者のイメージにある。攻撃魔法と信じて撃っていた魔法の常識が覆るとしたら、世界はどうなると思う?」

「「………」」


 俺の懸念に、ギルマスも問題を提起した。

  

 簡単に想像出来る未来に、3人は神妙な顔つきで見つめ、頷き合う。


「危険極まりないな。この件に限り、私の信用出来る人物に、話してみよう。勿論、誓約書通り、それに伴う責任は、私が全て持つと約束するよ!」

「宜しくお願いします」


 専門家にでも相談するつもりなのだろうか?ギルマスからの申し出に、俺は『是非!』と快諾した。 


「その彼女から、問い合わせが来るかもしれないが、その時は頼むよ」

「分かりました」 


 専門家は女性か。

 研究者とかか?

 それなら、話を聞くだけでは不確かだし、当事者の俺に質問がしたくなるのかもしれないのは、当たり前だな。



「今日はもうおしまい?」

「…そうだな?」


 バレンの意図を得ない質問に、俺は怪訝な表情で、疑問のまま返事をしてしまった。


「じゃあ、協会の解析図に協力してくれるよね!?」


 俺の返事を聞いたバレンは、途端に明るくなる。まるで、お預けを食らっていた犬のよう。


「待て待て!?今日は、もう遅い。明日からでどうだ?この前、宿を三日延泊したんだ」

「え!?ルイ君、三日後にこの街を出ていく気なの!?僕、まだまだ見てもらいたい解析図が沢山あるし!さっきの収納ストレージだって!」


 収納ストレージの件は勿体ないけど、聞いてない!と焦るバレンに、俺は宥める為に口を開いた。


「三日じゃない。四日か、五日後だ」

「見て欲しい解析図もあるんだ!」

「足りなければ、宿を延泊するさ。ストレージはともかく、一度約束した解析図は、しっかり約束を果たすぞ」


 俺が、「約束を違えることはしない」と言えば、どこか安心した表情へ変わるバレン。それを見た俺は、(やれやれだな…)と独り言ちた。



 そんな一時の麗らかな午後。

 いや、外はもう日が沈みかけているが……そんな生温い空気が漂う空間に、無責任な声が響いた。


「あっ!階下に降りるなら、新記録樹立の掲示をしてあると思うから、無粋な奴には注意するんだよ?」

「ん?新記録樹立?昇格の件ですか?」


 落ち着いたギルマスが、そんな事を言い出すものだから、俺は眉を顰める。

 俺とは対照的に、手で口を覆っているギルマスが、「くふふ…」と笑い声が漏らしている。


「登録から昇格までの最速の日数は勿論だけど、1日で稼いだ依頼料!それら2つが冒険者ギルドの【青少年部門】の記録を塗り替え、新記録を樹立したんだよ!」

「……」

「ルイ君……君は、草原の採取に半日出かけただけで、大銀貨2枚銀貨7枚大銅貨5枚銅貨8枚¥275,800を稼いだんだよ?」

「ぇ"!?」


 それでも、依頼は10件だ。

 ここでは知らないが、他の支部では、やり手の若い冒険者もいるに違いない。

 バレンは、ギルマスの暴露に驚きの声を上げるが、ルイは首を傾げた。


「そうですが、常設依頼の各5種類を2束ずつ納品しただけですよ?」


 俺の言葉を聞いたギルマスは、キッと眦を上げ、立ち上った。


「本気で言ってる!?納品の薬草には、様々な評価が付くことは知ってるよね?」

「勿論。ギルドの取扱説明書に書いてありましたから」


『常設依頼の納品の際に、お支払いする依頼料の目安』だったか? 


 確か、品質において等級があり、それ以外の項目にも沿った依頼料が支払われる。

 薬草の品質は、高品質から低級や粗悪品まで様々で、鮮度や痛み具合も同等だ。


 俺は、メリダ婆さんから教わった方法を実践した上で、鮮度維持を施し、浮遊で傷を付けぬよう細心の注意を払った。


 その結果が、あの高額報酬だったと言うだけだ。なにも特別なことはしていない。薬草採取で当たり前のやり方である。


「鮮度維持や浮遊で丁寧な取扱いはしたが、採取の保存のやり方は、初心者講習で習う範囲でしょう?」

「確かに君の言う通りだ。でもな!?君のあの納品のレベルは、異次元なんだよ!新記録樹立も、不思議ではないんだ。あの街での騒ぎは、いまだ語り継がれているし。新記録樹立しちゃったし、このまま街の伝説になりそ」

「止めて下さい」


 ギルマスの言葉に、俺は即座に、中断を強く求めた。


「……だったら、ちゃんと自分を自覚して、行動してね?」

「分かりました」


 俺は強く頷き、返事を返す。

 俺は、ラノベでいう『俺、なにかやっちゃいましたか?』を、素でやってしまったんだな……フルコンボだ、ドン!


「それにしても、掲示はいつ?」

「スズナは仕事が早い。君が午前の昇格試験に合格した時点で、全冒険者ギルドに通達され、既に掲示されてるだろうね」

「ということは、俺の案内が終わった後に?」

「いや、その足で貼りに行った可能性ありだね」

「……そうですか」


 ギルマスは首を左右に振り、言外に『手遅れ』だと告げた。しかし、こちらがなんともない風を装っていれば、皆も拍子抜けするものだ。いいな?


「そんなもんかな?僕は半日で、大銀貨2枚銀貨7枚大銅貨5枚銅貨8枚¥275,800も稼げれば、大喜びするけどな……」


 俺の説明に、バレンは首を傾げる。だが、彼の喜ぶ姿は、容易に目に浮かぶな。


「その3割は、監督役のウルディン行きだぞ?俺が手にしたのは、その7割だ」

「う〜ん」


 悩むバレンを置き、俺は魔法文字を考える。


「……取り敢えず、気配を希薄にするか」

「え!?そんなことが出来るの?」

「付焼き刃だけどな。自分より強い相手には、普通に認識されやすい」


 気配プレセンス希薄スパース……気配を薄める事が出来る。相手が認識しにくくなる。注意が必要なのは、自分より強い相手には、あまり効果無し。


「…そうなんだ」


 なぁんだ…と拍子抜けするバレンに、俺は苦笑いだ。調子がいいのか悪いのか。


「階下は、時間帯的にもごった返してるだろ?だから逆に、今がチャンスにもなる。ギルマス」


 木の葉を隠すには、森の中。人を隠すのも、人の中。


「なんだい?」

「サブマスに、ランクの変更手続きは後日って、伝えといて下さい」

「…仕方ないね。了解したよ」


 俺のお願いに、眉尻を下げるギルマス。多分、サブマスにお小言を言われるな。

 だが仕方ない。今はバレンも連れているし、絡まれたりするのは極力避けたい。


「今日は、ありがとうございました!専門家の件は、宜しくお願いしますね?」

「任せて!気をつけて帰るんだよ?」

「それを言うなら、掲示はパスしてくれりゃいいのに…」


 どの口が言うのか?と思い呟けば、「規定だから駄目」とスッパリと切られた。


「それじゃあ、僕も…」

「あぁ。また今度、お店にお邪魔するよ」

「お待ちしています」


 俺とは逆に、丁寧に会釈をして退室の挨拶をするバレン。彼は、ギルマスの言葉に笑顔を浮かべ、応えていた。


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