第三部

昇格

第1話 九日目―初心者講習&昇級試験&ギルマスとの面会


 前世の記憶。

 それは、に関する記憶だけ不確かだった。でも、そこで生活した色々な記憶はちゃんと残っている。

 自分の名前や年齢・いつ死んだか?友達の顔・名前があやふやなのだ。

 会社の名前も思い出せないが、ブラックな会社だったことは覚えている。


 ♢


「おはよう、ルイ!よく眠れたかい!?」

「はい。おはようございます、タバサさん」


 毎朝恒例の元気な挨拶を受け、俺も挨拶を返した。


 一階には、セッティングされた机たちがある。それらの椅子に腰を降ろせば、彼女が元気よく配膳してくれる。


「今日は、実習と昇格試験なんだろう?たっぷりお食べ!」

「はい」


 (逆に眠くなってしまうな…)と曖昧に流しながらも、出された朝食は残さず食べた。

 体調も悪くないし、食べ物を粗末に出来ないもんな。

 なにより調理してくれたのが、あのブレイドさんだ。旨いんだよな、あの人の料理。 


 (今後再訪する場合の定宿決定だな…)

 と、足取り軽く「行ってきま〜す!」と声を掛け、元気よく宿を出たのだった。


 ♢


「……そこまで!」


 昇級試験の監督官の声が響き、俺はうつ伏せの姿勢を解いた。


「ぐぁ〜〜!?」

「落ちた…」

「やれば出来るぜ!?俺!」

 と、俺以外の受験者が、自身の試験の出来を想像して騒いでいた。


 (急遽、初心者講習&試験の予定を入れたから、俺だけかと思ってたけど……)


 (あっ!?講習は勿論、俺一人でしたよ?)(←心の声)


 初心者講習は、メリダ婆さんに教わった内容と変わりなかった。なんなら、鳥の狩りなど有用なやり方を教わったルイは、ラッキーだったと思う。


 昇級試験は、一ヶ月に一度と決められている。今回の騒ぎは、昇級試験の前だったようだ。後なら、こんなハードスケジュールを組まずに済んだが、こんな結末が待っているとは知らなかったんだ。

 誰にも止めようがないよな、うん。


 俺は静かに自問自答をして答えを出すと、未だ騒ぎが収まらない部屋を後にした。


 因みに、試験の結果は、ギルマスとの面会時間同時の発表となる……ギルマスなら結果を知ってるだろ。そっちで聞くか。


 (それまでに、一階の食堂で飯を済ませてしまおう)


 俺が一階に降りれば、時間帯のせいなのか、ギルドのホールには、数名の冒険者たちが食事や依頼を見ていただけだった。



「……ルイ君。お待たせ!」


 食堂で痺れを切らす前にやってきたバレンを一瞥し、俺はカウンターへ声を掛ける。


「やっと来たか……すみません。一時に面会予定のルイと申します」

「僕に対する態度と、違い過ぎない?」

 と、隣でごちゃごちゃ抜かす時間ギリギリ野郎は、無視である。


 勿論、誰と…とは言わない。

 こんな閑散とした静かなホールでは、個人の会話など筒抜けである。


「………あぁ、お待ちしておりましたよ。バレン様も、ご連絡を頂いております。わたくし、スズナがご案内致します」

「ありがとうございます。宜しくお願いします」


 ギルマスが『通達を出しておく』と言っていたからな。俺のギルドカードを見て察したのだろう。

 彼女も、『誰が』とは言わなかった。実に気が利くスズナさんである。

 俺とバレンがお礼を言えば、彼女は立ち上がる。


 背が高い。スラリとスタイルが良さそうだ。あっという間に、カウンターの端にある板を上げ、こちらへやってきた。

 カウンターから出てきた彼女は、とても綺麗だった。直視出来ない。


 身長は、170を超えているだろう。

 ウエストはキュッと締まり、その分、上と下が映えるのだ。なにがとは言わないが。例に洩れず、お御足も見事である。

 

 誰もいなかったら、絶対に拝んでいた。


 そんな事を考えているとバレる訳にはいかない。そんなことになれば、俺は恥か死ぬ。必死にポーカーフェイスを意識して繕った。


 しかし、内心で指を咥えた俺のことなど関せず。バレンは、隠しもせずに見惚れていた。実に堂々たる覚悟である。


「こちらへどうぞ」 


 彼女の黒髪に親近感が湧くが、紅の瞳は、何故か俺をソワソワとさせた。彼女に導かれた俺たちは、ギルマスの執務室へ向かった。


 (案内なんていらないけど、ギルマスの立場なら、仕方ないのかね?)

 と呑気に思っていた俺だったが……俺たちを案内してくれたスズナさんが、この冒険者ギルドの【サブマスター】だと紹介されるまで、後数分。


 ✠ ✠ ✠ ✠


「やぁ!ルイ君も、バレン君もいらっしゃい!この時を、首を長〜くして待ってたよ!さぁ、座ってくれ」

「左様で…ウレシイカギリデス」

「バレンと申します。失礼致します」

「どうぞどうぞ!それにしても、ルイ君は、なぜ片言なのかな?」


 俺と会えたのが、そんなに嬉しいのか?

 蒼の瞳と金の髪に、麗しいお顔。今の彼に華が飛んでいるのは、気の所為ではないだろう。


 ギルマスに勧められた応接ソファに、バレンと一緒に腰掛ける。バレンは、恐る恐るといった感じだ。


「そう言うギルマスこそ、とても幸せそうですね?」

 と俺が言えば、我が意を得たり!と言わんばかりに、更に瞳が輝き、表情が映える。彼の周囲には、間違いなく華が咲き残っている。


「そりゃ、そうでしょう!?あの爆風だよ!?魔法の訓練所の結界は無事だったけど、的などの備品類は全損!」 


 それを聞いたバレンは、(なにやってるのさ!?)という責めの視線を、俺に飛ばしてくる。だがこれも、さっくり無視である。


「それに!これはこの間も言ったけど!実験と称した、あの爆風!それに加えて、無詠唱!高ランク冒険者が、やっと身につける事が出来る技能スキルの秘密!それに君の属性は、無属性でスキルは申告なしだよ?興味深いことしかないじゃないか!?逆に、何故興味を惹かれた?と疑問に思うことが、不思議でならない……」


 よく息つく暇もなく、そんなに喋れますね?それにしても……心底不思議そうに真顔で迫らないでもらえます?ギルマスのような美人が真顔で迫ると、心底怖い。


「俺も、日々勉強の最中さいちゅうなんですよ。今日は、俺の中で分かっていることしか話せませんからね」


 (一昨日も思ったが、これはヤべぇ。この人、バレンと同タイプだ。気になることは、とことん突き詰める奴だ)


「…まぁ、それは後でたっぷり聞こう。では改めて、ここにいるサブマスのスズナと一緒に、私の紹介もしておこう。私の正式な名は、ドーザ・メルオレン。君の愛読書・・・【生活魔法のススメ】の著者で、生活魔法の第一研究者でもある」

「……スズナさんが、サブマスですか?」


 なにか訂正が必要な言葉が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。


「驚いた?」

「はい。こちらのゼント支部でサブマスを勤めさせもらっています。スズナと申します。改めて、宜しくお願い致します」 

「痛い…そこは、私に驚く所だろう?」


 とぶすっと膨れるドーザの頬を、サブマスがもう一度、指でぶっ刺した。


「ぶふっ!?いったいなぁ!君の爪は綺麗だけど、少しは手加減してよね!?」


 抗議ぶーたれ中の頰をぶっ刺したり、ギルマスの扱いに容赦ないサブマスだな。


 頰を押さえながら、ブツブツと文句を言うギルマスに、『お褒めに預かり光栄です』と微笑む強いサブマス。


「綺麗な華には、棘があるのですよ。お気をつけ下さい。それよりも、私は業務の途中ですので、これで失礼しますね。ルイさん、これは貴方の試験結果です。ギルマスの面会と同時刻でしたので、特別に別紙案内という扱いになりました」


 俺に封筒を差し出しながら、説明をするサブマス。


「あっ、ギルマスに聞けば分かると思ってたので……ありがとうございます」


 ここまで丁寧に扱われると、逆に恐縮してしまうな。俺は素直に頭を下げ、お礼を言った。


「気になさる必要はありません。これも仕事のうちですので。これからの活躍を、応援しております」

「ありがとうございます」


 昨日判明した必要な勉学に、冒険者稼業。両立は大変だろうが、頑張ろう。 


「それで、結果はどうなの?」


 サブマスが退室するなり、隣に座るバレンは、ズイッと顔を寄せてきた。

 ギルマスはこちらに構わず、未だ不機嫌そうに呟いている。恐らく、サブマスへの恨み言だな。


「だから、近いって言ってるだろ?一度、目の検査に行ったらどうだ?」


 コイツのパーソナルスペースは、一体どうなってるんだ?横に座っているから、彼の薄い胸板が肩に当たって、地味に痛い。


「酷い……」

 

 恭しく眼鏡を取り、鳴き真似をするバレンに、怪訝な視線を投げ掛けた俺は、ひっそりとため息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る