第五章 アンニュイなオレの葛藤 1


「・・・う・・・ん、痛ぇ!?」


   意識が戻って来た途端に感じた激痛。

 その理由はすぐにわかった。

 オレの右腕がなくなってた。

 幸い血は止まってるし、右腕がなくなってる以外、致命傷になるような傷はなさそうだから、それはよかったが・・・。


「ぐぅ・・・痛ぇ・・・」


 尻尾だったら切れてもそのうち生えてくるから良いが、さすがに腕までは生えてこねえからなぁ。


「あ、そうだみんなは? あれからどうなっ――」


 周りを見渡して・・・すぐに絶望の波が襲って来た。

 完全に戦いは終わっていて、合成モンスターはもう1匹もいない。

 ただ、辺りはめちゃくちゃで、そこには無数の死体が無造作に転がり、オレ以外に動いてる奴はおらず、何の音もしなかった。


「み、みんな何処だ!? フォーテル!! ニャン吉!! レオン!! ミノ!! 返事してくれ!!」


 オレが生きてるなら、他の連中だって生きてるはず。

 そう考えて、そう信じてオレは必死に声を出し続けた。

 ・・・だが、どれだけ呼び続けても、オレ以外の声が聞こえることはなかった。


「・・・あれからどうなったんだ。どれぐらい経ったんだ?」


 強制契約執行をくらってから、一体どれぐらい経ったのか。

 その間に何があったのか。

 おぼろげな意識を必死でかき集め、何があったのか必死で思い出す。

 オレらじゃ中型の合成モンスター1匹に勝つのがやっとなのに、合成モンスターの群れになんて勝てるわけがない。

 それでも、ミシェリアの命令を聞くだけの人形となったオレらには、ミシェリアが出す無謀な特攻命令に逆らうことは出来なかった。

 そして本来の意識とは無関係に合成モンスターに突撃させられて・・・オレはガッツリ返り討ちにあって、腕をすっ飛ばされて、気を失ったのか・・・。


「オレの腕がなくなった経緯は思い出せたが、肝心の仲間がどうなったのかはさっぱりだ。仲間がどうなったのか、オレの視界には映りこんでなかったってことか・・・」


 ただ、合成モンスターに突っ込まされたのはオレだけじゃねえ。

 あの状況で無事で済むとは・・・。


「いやまだだ! まだみんな死んだと決まったわけじゃねえ!! そうだ、オレだけが死んだと思われて放置されただけで、レオンたちは先に帰されただけかも知れねえ。そうだそうに違い・・・あ・・・」


 ・・・・・・見つけた。

 ・・・・・・見つけちまった。

 無造作に転がる死体の山の中、仲間を探して彷徨ってた、オレの視線の先に。

 地面に、まるで捨てられたゴミみたいに、無造作に・・・ニャン吉が、倒れてた・・・上半身だけで・・・。


「・・・ハハハ。おいニャン吉。オレを驚かせたいんなら、もうちょい可愛い感じでやってくれねえと笑えねえぜ?」


 オレは、そう軽口を言いながら、ニャン吉に近付いた。


「そんなところで寝てると風邪ひくぜ? なあ、ここにいるのはお前だけか? 他の連中はどうしたんだ? フォーテルは? ミノは? レオンはどうした?」


 オレが話しかけてるってのに、ニャン吉は返事どころか、ピクリともしやしねえ・・・。


「・・・なあ、無視しねえで答えてくれよ・・・またお前のノーテンキな声を聞かせてくれよ・・・」


 なんで自分が震えてるのかはわからねえが、オレは震える手でニャン吉に触れた。


「・・・おいおい、どんだけ前からここで寝てたんだよ・・・もう冷え切ってんじゃねえか・・・もう良いから起きろって・・・」


 ニャン吉に話しかける声が震える。

 ・・・認めたくない・・・認められるはずがないだろ、こんなの・・・。


「・・・なんで・・・なんで・・・なんでお前が死んでんだよ・・・なんでお前が死んでんだよ!! 答えろよニャン吉!!!」


 ・・・今までも、仲間が死ぬのはたくさん見てきた。

 戦場で殺し合いをしてる以上、いつ誰が、何処で死んでもおかしくねえってのはわかってる。

 けどこいつは、ニャン吉は、こんなところで、こんな風に死んでいい奴じゃねえんだ。

 無邪気で、明るくて、ひなたぼっこが好きで、マタタビが大好きで、ちょっと頭が悪くて、でもマジで優しい良い奴だったんだ!。

 こんな無惨な死に方をしていい奴じゃねえんだよ!!。


「ニャン吉!! 返事しろよ!! ニャン吉!!!」

「・・・リ、リザド・・・」

「!?」


 ニャン吉からじゃない、何処か別の場所から、確かにオレを呼ぶ声が聞こえた!!。

 今にも消えてしまいそうな、か細い声だったが確かに聞こえた!!。


「何処だ!? オレはここにいるぞ!!」


 誰でもいい! 生き残ってる奴がいてくれればそれでいい!。


「・・・リザ・・・ド・・・」

「何処だ!? 何処に・・・あっ、レオン!!」


 ニャン吉を抱きしめたまま声の出所を辿って着いた場所には、瓦礫に半分埋まり、今にも力尽きそうなレオンが横たわっていた。


「おい大丈・・・ぶには見えねえな。とにかくちょっと待ってろ!! 今出してやる!!」

「わ、わしはもうダメじゃ・・・じゃが、死ぬ前に、リザドに頼みたいことがある・・・」

「弱気なこと言ってんじゃねえ!! オレに頼まねえで自分でやれ!!」

「お、お嬢が・・・お嬢が、あやつに、連れ去られた・・・お嬢を、助けてやってくれ・・・」

「はぁ!? ふざけんな! 誰のせいでこうなったと思ってる!?」


 そうだ。オレの腕がなくなったのも、ニャン吉がこんな目に遭ったのも、今レオンが死にかけてるのも、元はと言えば全部あいつのせいだ!!。

 なのになんであんな奴を助けなけりゃいけねえんだ!!。

 むしろさっさと死んじまえば――。


「わかっておる。償っても償いきれん・・・。じゃが、それでも、幼い頃からお嬢を見てきたわしには、あの子が可哀相で仕方ないんじゃ。あの子とて、家族を殺され、人生をめちゃくちゃにされた、被害者なんじゃ・・・」

「だ、だからって――」

「わしは、もう限界じゃ・・・ここから、北に向かうと、敵側の、拠点が、ある・・・あやつは、そこに、向かうはず、じゃ・・・も、もう、おぬししか、いないんじゃ・・・頼む・・・」

「お、おいレオン!! 死ぬな!! レオン!!!」

「・・・たの・・・む・・・」


 最後の最後にやっかいな頼みごとだけを残して、レオンはそのまま力尽きてしまった・・・。


「・・・勘弁してくれよ・・・」


 その後も生き残ってる奴がいないかと探したが、結局見つかったのは、ズタボロになった味方勢の遺体だけだった。

 そして・・・フォーテルとミノの死体も見つけた・・・。

 2体ともズタボロで、特にフォーテルは・・・体がバラバラな有様だった・・・。

 いったい、どれだけ凄絶にやられたら、こんなになるのか・・・。

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