第二章 アンニュイなオレの仲間たち 1


「・・・何処だここ?」


 ねぐらで川面を眺めながら、穏やかなひと時を過ごしていた途中。

 いつものように突然召喚されたオレを待っていたのは、どうやら戦場ではなく、何処かの森の入口。

 そこにはオレ以外にいつもの面子。レオンとフォーテルとニャン吉もいた。

 まさかのピクニックか? なんて一瞬血迷っちまったが、


「これからこの森にいるミノタウロスと召喚契約しに行く。間違いなく抵抗して来るだろうから、てめえらは奴を殺さないように痛めつけろ」


 オレたちの前に立つミシェリアが、簡潔に今回の目的を告げた。

 ま、そうだよな。

 この暴君が、ピクニックとか、そういう平和的なことをするわけがねえ。

 とにかく、ミノタウロスって言えば、オレよりでかくてゴツイ、頭が牛でそれ以外は筋骨隆々の人種のような、牛鬼とも呼ばれてる奴だ。

 今回はミシェリアの戦力増強ってことか。

 仲間が増えるのはオレらとしてもありがたいが、ミシェリアが言ったようにほぼ間違いなく抵抗される。

 つまり無理やり召喚奴隷にさせるってことだから、はっきり言って気は進まねぇ。

 ・・・なんて、ミシェリアの命令に逆らえんオレが、そんなこと思ったところでどうしようもねえ。

 結局、オレは何も言わず、言えず、ミノタウロスを探して森の中をウロウロ探し回ることになった。


 ・・・約1時間後・・・  


「そういや、フォーテルの住処も、ここみたいな自然の多い山の中なんだよな?」


 しばらく探し回っても、ミノタウロスが見つからず休憩してる時。

 ふと前に聞いた話しを思い出したオレは、フォーテルに聞いてみた。


「確かにそうだが、どうしたんだ急に?」

「いや特に理由はないんだが、前にそんな話してたなって、この森を見て思い出してさ」

「ボクも聞きたいにゃ~」


 沢で水を飲んでたニャン吉も興味深そうに近付いてきた。

 ちなみにミシェリアはレオンの体を枕にして、目を閉じて休んでる。

 この隙にミシェリアを・・・と言いたいところだが、無念だがそれは出来ねえ。

 ミシェリアをヤること自体は何の心苦しさも感じねえけど、召喚契約の呪いや、レオンは召喚奴隷としてでなく、レオン本人の意思でミシェリアを守ってる。

 なんでかは知らねえし、オレには信じられねえけど、とにかくそんなわけだから、ミシェリアをヤるとなると、レオンと事を構えることになっちまう。

 ミシェリアは気に入らねえが、仲間であるレオンと戦うことは出来ねえからな。


「・・・難しそうな顔をしてるが、何か俺の故郷で気になることがあるのか?」

「は? ああ、いやなんでもねえよ」


 オレのささやかな葛藤なんて知る由もないフォーテルは不思議そうな顔だ。


「ならいいが・・・。まあ隠すようなことはないから聞きたいなら話すが、面白い話しを期待しても無駄だぞ?」

「別にそんなもん期待してねえって。ただお前の住んでるところの話しを聞いてみたかっただけさ」

「・・・俺が住んでるのは、温暖な気候の山の中で、木や植物が豊かな場所だ。だから静かに暮らすには絶好の場所・・・だったんだがな」

「何かあったのか?」

「以前からちょくちょく来てはいたが、ミシェリアのように召喚奴隷を探す奴。自然の恵みを独占しようとする奴。自然を破壊しに来る奴。そしてただ俺たちを殺そうとする奴。そんな連中が増えたせいで、今じゃそいつらと戦う日々だ」

「・・・何処も似たようなもんだな」

「家族はいるにゃ?」

「何処かにいるだろうが行方は知らない。もともと俺の種族は群れでは生活せず、子の時は親と一緒にいるが、親離れしてから再会することはまずないからな」

「嫁さんや子供は?」

「幸運にも独り身だ」

「幸運なのか?」

「俺の種族はオスが子を育てる。子が小さい時から獲物の取り方などを教えながらな。だから今の状態で、もし俺に子がいれば、まともな子育てなど出来ない」

「なるほど。そういう意味で幸運か」

「リザドはどうなんだ? お前を召喚奴隷にする時に水辺に行ったが、あの辺りで暮らしてたんだろう?」

「ああ。あの近くの何の変哲もない湖畔に住んでるよ。ただリザードマンは基本的に群れで行動するが、オレはそいつらとはちょっと離れた場所に住んでるけどな」

「言われてみれば、確かにリザドは群れから離れた場所にいたな。ミシェリアは丁度いいと思ってリザドに狙いを定めたみたいだが」


 そんな理由でオレが狙われたのか・・・ま、今更言っても仕方ねえけどよ。


「どうして一緒に暮らさないにゃ?」

「オレが元々暮らしてたのはもっと南の場所だったんだが、前の召喚術者の時に、オレを召喚しておきながら勝手に前線に出て勝手に死んだ奴がいてな。そのせいで元いた場所には帰れず、しばらく放浪して、何とか別のリザードマンの集落に辿りつけたんだが・・・」

「イジメられたにゃ?」

「いや、集落の連中はオレを迎え入れてくれた良い連中だよ。けどそこには以前、敵味方に分かれて戦ったリザードマンがいてな。向こうは気付いてないみたいだったが、気まずくてよ」

「召喚奴隷あるあるだな」


 あるあるって・・・フォーテルも意外と俗っぽい言葉を使うな。


「じゃあ、リザドの家族がどうしてるかわからにゃいにゃぁ」

「古巣の連中がどうなってるかはわからないが、オレの親はもうニンゲンに殺されてる」

「あぅ・・・ごめんにゃ・・・」


 別にオレはなんてことない感じで答えたんだが、ニャン吉はオレを傷つけたと思ったのか、逆にニャン吉の方が悲しそうな表情だ。

 モンスターの中でも猫又は感情が豊かな方だが、その中でもニャン吉は感情が特に豊かな気がする。


「そんな顔すんなって。別に気にしてねえからよ。それに、オレみたいに家族や仲間をニンゲンに殺されてる連中は大勢いるんだ。さして珍しいことでもねぇ」

「奴らは何処にでも現れては、手当たり次第に戦いをしかけてくるからな」

「そういうこった」

「ふにぃ・・・」

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