量産機ばかりが求められる世界で専用機を乗り回す

銀猫

1話

 ――今から150年前、人類の約8割が虐殺された。


『こちらγ小隊、敵機確認。予定通り交戦に入る』

『α小隊、同じく敵機確認。こちらも交戦に入ります』

 

 かつて多くの人が住んでいた街は破壊され、文明があったのだと微かに知れる程度の面影しか残していない。

 今にも崩れそうな建物の間を、四本足の鋼鉄が駆けまわる。全長4メートルの巨体と背中に取り付けられた二本の砲台。何より異質なのが頭部に付けられた赤いモノアイ。ギョロギョロと辺りを見渡す姿は、まさに獲物を探す化け物。

 鋼の獣が群れを成し、赤い眼光をこれでもかと発光させて周囲をギョロギョロと見渡す。


 向かう先は、人類の生存圏。


――機械の名はサイクロプス。人類の8割を滅ぼした人喰いの化け物。

 

『限界まで引き付けろ』


 群れの先頭、リーダーがまた一歩地面を踏みしめようとした瞬間、廃墟の影に隠れていた巨人が飛び出し、構えた銃口が獣達を狙う。


『FIRE!!』


 BANG!!

 巨人がトリガーを引き、弾丸が放たれる。

 銃弾は獣の頭部に直撃し、装甲に大きな凹みを作り出して大きくのけぞらせた。

 最初の銃声を皮切りに、銃弾の雨が獣たちを襲う。ガリガリと銃弾が装甲を削り、ついに鋼の体に風穴を開け、回路に致命的な欠損を生み出す。

 赤い眼光が最後に記録したのは、緑に光る二つの瞳。人より大きく、金属の体に分厚い装甲を身に纏った5メートルほどの巨人達。


――これこそ人類が最後に見出した希望。サイクロプスに対抗するために開発された魔導式人型決戦兵器、通称マギアギア。


『クタバレこの化け物がァ!』

『ここから出ていけ!!』


 廃墟の各地から数えきれない銃撃が鳴り響く。

 廃墟に溶け込むように迷彩を纏った機体が、サイクロプス達を次々と蜂の巣にしていく。


 幾度も襲いかかってくるサイクロプス達。

 ここの襲撃も一度や二度ではない。人類も研鑽された戦術で迎え撃つ。

 かつて蹂躙された人達の報復だと、サイクロプスの体に風穴を開けていく。また一体、更に一体と倒れる怪物達。


 先制攻撃によるアドバンテージで着々と数を減らしていくが、この程度で掃討できるほど甘い相手ではない。

 

 また一体のサイクロプスを破壊した兵士は、次の獲物へと標準を合わせる。

 銃口を向けると同時に、赤いモノアイがこちらを見ていた。

 ズドン、と怒号が鳴り響く。

 青い稲妻が光ったと思えば、機体の右腕部分が吹き飛んだ。衝撃が機体全体に響き、大きく後ろに倒れる。


 サイクロプスの砲撃だ。

 彼らの回路が襲撃により生じていた混乱から、反撃へとシフトする。

 ズドン、ズドン、ズドン。砲撃音が幾度と重なり破壊音が木霊する。負けじと兵士たちもトリガーを引き、弾幕を張って迎え撃つ。


 銃声と砲撃、破壊と破壊による混沌とした戦場を、この街で一番高い建物の屋上から見下ろす機体がいた。


「ターゲットいたか?」

『うーん、まだ見えないね』

 

 地上で銃撃戦を繰り広げている機体達は装甲で膨れ、攻撃を受ける事を前提とした設計をしている。対して、ここにいる機体はスラっとした流線形の細身で、最低限の装甲しかつけていない。

 戦場での迷彩色とかけ離れた白と金色の機体は、純白の騎士を連想させる。


「また待機かねこりゃ」

『ボク達の出番がない事は良い事だけどね』

「まったくだ」


 通信相手の言葉に、退屈そうに返事をする。

 コックピットに映る戦場を眺めていると、一応繋いでいた回線から通信が入る。


『こちらΔ小隊!予想より敵の数が多すぎる!直ちに応援を…!!うわぁぁー!?』

『Δ小隊応答を!救援可能な部隊はいますか!?』

『無理だ!!どこも手が離せねぇ!!!!』


 戦場の一角が落ちそうだ。仮にここが落ちれば敵が流れ込み去らなく混戦が予想されるだろう。

 装甲の厚い機体達は見た目通りに機動力は高くない。俊敏な獣たちに近寄られれば、戦場は狩場に早変わりするだろう。


「ルナ、Δ小隊の交戦場所分かる?」

『ちょっと待ってね、うん、ここだ』


 ディスプレイに表示された場所は、ここから少し離れた場所。装甲で膨れ上がったノロマ達では到着するのに時間がかかるだろう。


「ちょっと行ってくるわ」

『司令からはターゲットが出てくるまで待機って命じられてるはずだけど?』

「人命第一でしょ」

『暇してるだけなクセに』


 操縦レバーを握り、魔力を込める。

 大量の魔力が機体全体に流れ込み、隅々まで満ちていく。

 全身に満ちた魔力が機体に力を与え、暗い両目に青い輝きが宿る。


『ボクは止めたからね、怒られる時は1人でよろしく』

「おーけー!!」

『はぁ、またタダ働きかぁ……』


 背中のブースターにエネルギーが集まり、推進力に変えて大きく一歩を踏み出して建物から飛び降りた。

 戦場を見渡せるほどに高い建物は100メートルを超えている。

 推進力を得た白い機体は建物の表面滑るように落下し、激突寸前で足場を蹴り上げ空中で一回転する。ブースターを地面に吹かせて勢いを殺し、衝撃を極限まで殺す華麗な着地を決めた。


『目的地までの最短距離をマッピングしておいたよ』

「サンキュールナ、愛してるぜ」

『はいはい、さっさと終わらせてね』


 機体によって削られた建物から、ガラスと瓦礫が雨の様に降り注ぐ。


「レイン・ライズハート、セイヴァー出撃≪で≫る!」


 ガラスや瓦礫が機体に降りかかるよりも早く、白い流星が戦場を駆ける。

 

 



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