第5話物理学者の妄想
早速本を漁り、魔法について調べ始める。ここで気づいたことは大半の本が日本語で書かれていたのだ。正直違和感がなかったが、日本語で会話もしていたな…。理由がわかるわけはないので勝手な妄想だが、何者かが日本を模してつくった世界の可能性がある。あくまで可能性の話だ、好き勝手言えてしまう。ただ、日本人を知らない人間が日本語と全く同じ言語を作る可能性よりは高いと思う。
魔法について調べてみて分かったが、物理も魔法もこの世界には存在している。前世での俺の予想は、物理と魔法は真反対的な位置に存在していると思っていた。とはいえ本を読まずとも、エネルギーと重さに関係はありそうだしな。
そんなことよりもわからない単語が多すぎる…。この本はやっぱ初心者向けではなさそうだな。
「村長さん」
「なんじゃ」
「この魔獣ってなんですか?」
「ふむ、いい疑問じゃな。魔獣というのは意思を持たない存在のことじゃよ」
「意思を持たない…?」
「そうじゃ、ただ暴れるために生まれてきた存在。空中にある魔素が多くなりすぎると魔獣になると言われておる」
「魔素…、魔力の素になるものですか?」
「そうじゃ。魔力は大まかに分けて三つの状態があるんじゃ。一つは我々生物の中にある状態を魔力、もう一つは魔法として使われている状態。これをそのまま魔法と呼び、空中に留まっている状態のことを魔素と呼ぶ。簡単な話、人間の中にある魔力を使い魔法の状態にし、その魔法に使われた魔力が空中で分解され最終的に魔素になるというわけじゃな」
「じゃあ人が魔法を使うたびに魔獣が生まれてしまうのですか?」
「リスクが高くなるだけじゃ、人間程度の魔力じゃ大した影響はでんがのう」
人間程度の魔力じゃ影響が出ないということは、ある一定数の人間が一斉に魔法を売った時どうなるんだろうか…。例えば…戦争の時とか。
「例えば魔法を使う戦争が起きた場合どうなるんですか?」
「…これは驚いた」
言葉にしている通り、村長は驚きの顔を浮かべ何か悩むそぶりを見せた。まさか実際に昔あったとかじゃないだろうな…?
「その昔、この世界は魔族と人族で戦争をしておったんじゃ」
「魔族?」
「魔獣を糧に生きるものを魔族、動植物を糧に生きるものを人族と分類するんじゃ」
「それでその戦争は…?」
「今を見て分かる通り、その戦争はすでに終わっておる。おおよそ五十年前の話じゃが…未だにその戦争の負の遺産は残っておるがのう」
五十年前…、村長の見た目からの年齢的に戦争を経験していそうだな。村長は少し黙ってからまた口を開いた。
「戦争は途中で終わった。魔族は魔獣を生み出すために戦争を起こしていたんじゃよ。魔族自身の魔力で魔獣を作ったところで意味がないからのう」
「自分の血でのどを潤すみたいなものですもんね」
「そうじゃ、だから魔族は我々に戦争を仕掛け魔法を打つ状況を作ったのじゃ」
「じゃ、じゃあなんで戦争が終わったんですか…」
「戦争自体は何百年と続いておった…、そして魔族は途中で気付いたのじゃ。人間の死体から強力な魔素を持った魔獣が生まれていることにのう。それで魔族は人間を一か所に集め、一気に殺したんじゃ。そこで生まれたのがエンド…最悪の魔獣じゃ」
「強すぎたということですか?」
「そうじゃのう…、その時の魔族の王が自身の命と引き換えにしてやっと封印しかできなかった程度には強い」
「封印…」
「あと五百年は解けない封印と言われておるが、そんなものは不確かなもので…今は魔族も人族も協定を結び、エンドに対抗するための魔法を研究しておるんじゃ」
「なるほど…」
でもそれじゃ、魔族が人族よりも強いことは変わりないはずじゃ…。人族の命を何とも思ってないような連中が、急におとなしくなる気もしない。
「魔族は…、魔族はどうして人族を襲わなくなったんですか?エンドが生まれたとしても、魔獣を生み出すために人と戦争は続けそうじゃないですか」
「ふむ、察しがいいのう。エンドが生まれたときに、この世界の神であるドール・エターニア様が人族を憐れんで女神の遣いを与えてくださったんじゃ」
「女神の遣い?」
「人族の中から無作為に人を選び、強い力を与えてくださるのじゃ。その者を女神の遣いと言い、魔族と人族を対等にしてくれる存在なのじゃ」
「はぁ…、すごいこと考えますね。その…神様も」
「ほほほ、女神の遣いには同じ特徴があってのう。そのすべてが前世の記憶を持っておるんじゃ…そして最初に全員が必ず言う言葉は『ここはどこだ、二ホンじゃないのか?』じゃ。ある種の女神の遣いを判別する言葉になっておるのう」
「なるほど…、だから今は戦争もなくなって一時の平和な世になっているのですね」
「そうじゃよ…、まぁこれからどうなるかはエターニア様のみ知るのじゃろう」
何か思うところがあったのか、少し席を外す旨を俺に伝えてから家の奥へと向かった。まだ聞きたいことはあったが、おとなしく本を読まさせてもらうことにした。本を読まさせてもらってるだけでも十分魔法の勉強になるしね。
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