第37話 火星侵攻Ⅰ-1
マザーアースでの会議から2ヶ月が経過した。多国籍軍はその軍備を再編し火星侵攻の準備を終えていた。先の会議での通り当初の作戦担当区域は整理され、全軍がその情報を共有し、独断専行をする国家がないように手配された。しかし、それでも状況が変化すれば指示系統を無視して暴走する部隊が出るであろう事を黒葉は想定していた。
この間火星側からの攻撃は一切無かった。偵察を受けているだろうという兆候があった程度である。この不気味な静けさについて、各国の大まかな見方は「敵が決戦の準備をしている」という事だった。これは的確な判断だったが、これに加えてもう一つの理由があることを黒葉は感づいていた。すなわち「火星側の戦力はすでに底をついている」ということである。
彼がマザーアースの指揮官に任じられ多国籍軍の指揮を執ることが決定した折、地球と火星との関係をレクチャーされている。今回の計画のスポンサー「石切場の賢人」の実質的なオーナー「オーブリオン財閥」から徹底的に教育を受けさせられていた。
彼が自身の女と評した「ミシェル・オーブリオン」に伴われ、フランスのボルドーの地下空間に設置されていたメモリアルも訪れている。そこには火星と地球の戦争の歴史がヴィジュアルとして記録されていた。その映像も見ている。また同地の深層部にあった残存アトランティス人の居住地跡も訪れている。
石切場の賢人が彼をそこまで熱心に教育したのは、火星に取り残されたアトランティス人をなんとしても救い出すために強力な指揮官が必要だったと言うことが理由の一つ。
さらにもう一つ、現生人類に溶け込み、現生人類との間に子孫を残すという選択をしたアトランティス人を差別から守ることを国連にさせるため、今後失われてゆくであろうアトランティスの記録、記憶を残すため、という目的があったためである。
当然黒葉もその事は理解して教育に望んでいる。国連職員という彼の職業意識もあるが、彼の人となりによるところもあった。つまり興味である。諜報機関「百目」の黎明期を形作った諜報に特化した職能集団「風魔」の子孫で、かつ百目でも諜報の教育を受けている彼にとっては「知識を得る」という行為は日常的なものであったし、アトランティスの歴史は知的好奇心をくすぐることでもあったのである。
その彼は第二次世界大戦頃から再開された地球火星間戦争の史実を紐解くだけでも火星の戦力はほとんどない、ということが推測出来た。さらにアトランティスの記録もそれを裏付けるものであった。それ故に彼は「火星に兵なし」と判断したのである。
敵に兵がないと判断した上で、自分が相手であったなら、どう考えどう行動するか、それを常に頭の中に入れて行動する。
そして、敵がどのようにこちらの攻撃を防ぐかを考えそれに対処する方法も同時に考える。
そのシミュレーションの結果の中から最も適した案を選択し最も高い効果を上げる、それを彼はやる。彼は各国を誘導し、力をそぎたい国家の部隊を敵の勢力の厚いところへと当てる。各国もそれと知らずに自ずからその地域を希望する。黒葉の人心掌握術のなせる技だった。
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