第31話 地球 石切場の賢人

 青木ヶ原樹海。見渡す限り樹木ばかりで他には何もない。自殺志願者ですらたどり着かない樹海の深層部にそれはあった。自動車道どころか人の通う道も見いだせない。どうやってここに建物を建てたのか?建築資材や建築機械をどう運び、労働者の生活をどう保ったのか、想像がつかなかった。そこにあったのは人工物ではあったが特殊な形状をしていた。溶岩でできた山から人工物が生えてきたような奇妙な形をしていた。

その人工物もギリシアのパルテノン神殿を思わせる部分もあれば、立方体の巨石を組み合わせエジプトのピラミッドを創造させる部分もあれば木造の部分もあった。文章で表現すれば、およそ美的感覚からは遠く離れているが実際に目にすれば、それは樹海の暗鬱とした雰囲気とマッチしており美麗とさえ言えた。そこに一機のティルトローター機がやってきた。

ローターの起こす風が貧栄養で細く伸びる樹木をなぎ倒しそうになりながら、その建造物の溶岩天面部分の平面に着陸した。その平面は人工的に研磨され凹凸は見られなかった。

滑らない程度の面租度を保ちつつ摩擦を意識させないほどに研磨された床はティルトローター機が二機や三機が同時に着陸するに十分な広さを有していた。空母と同等の広さと言って良かった。そこに米軍や自衛隊の運用するものと同じタイプだが所属の未記入の機体が着陸した。その着陸を確認すると天井の一部にエレベーターがせり上がってきた。航空機が一機十分乗る大きさだった。それを見ればその広さだけではなく機能も空母に等しいと言ってよかった。

ティルトローター機はそのエレベーターに物資を積み込むと飛び立っていった。

直後にエレベーターは下降を開始し岩盤の中に吸い込まれていった。

その不可解な構造をした建造物の一角で動きを見せるものがあった。

建造物の木造部分、その最深部で一人の男がモニターに向き合っていた。500インチはあろうかという有機ELのモニターである。

その前にいる男は車いすに乗っていた。右腕のアームレストに設置されたレバーを操作し室内を自由自在に動き回り書棚に手を伸ばし、あるいは生け花の香りを楽しみ、数分の時間を費やしていた。

「時間だな」

独りごちて男はモニターの前に移動した。

そしてモニターに映し出されたのは一人の男だった。オーブリオン財団現当主にして国際的秘密結社「石切場の賢人」の総裁、そして人類の前に姿を見せたアトランティス人の代表、アルヌー・ラショーその人だった。

「総裁は変わらずの様子で何よりです。マドモアゼル元子様はご健勝でありましょうか?」

「健在だが、すでに人前に出られるような体力は残っていないよ。彼女はアトランティス人の血が入っているとはいえ薄すぎる。命の木の実を食したアトランティス人のようにはいかない。悲しい話だがね。君も70年前とあまり変わらないね、和摩浄雲君」

「私も命の木の実を身に取り入れた者ですから」

和摩の言葉の指すところはアポロ20号のプログラム・メギド阻止作戦の時のことである。

敵巨人兵器を屠った際、敵の装甲の破片、すなわち「ヒヒイロカネ」の微細な破片が彼の体内に侵入したのである。そのヒヒイロカネのことを彼は「命の木の実」と表現していたのである。

「ああ、そうだったね。あれがあったからこそ、君は生きて帰れたのだったね」

「ええ、おかげで、ひ孫の顔をおがめています。

さて、本題に移ります。アトランティスの遺産群の復旧計画ですが進捗があります。

まず、星を征く船、淡路アイランド級の修復が終わり、偽装が始まっております。人員も配置し訓練も始まっております。責任者は田代となります」

「今回の出兵には間に合わないかな」

「正直に言えば無理です。十分な攻撃能力を付与出来ません。米中露の今後の出方を鑑みれば、アイランド級を使わずに火星の侵略を終え、極秘の戦力として秘匿しておきたいところです」

「ダイモス級の中に火星人の存在どころか死体さえ無かったと報告を受けているが、事実かな。事実とすればどこに火星人は消えたのか?」

「ダイモス級に火星人の存在も遺体も発見出来ておりません。敵巨人兵器に搭載された生物燃料は全て人間でして、遺伝子検査の結果は全て人間、現生人類とアトランティス人だったということです。火星人の確保は地上に揚陸する部隊の活躍を願うほかないでしょう」

そう言いながら和摩は空中をなでるような仕草を見せた。すると指先の空間に空気に投影されたような画像とキーボードが現れた。

画像はパワーポイントで作成された第1次火星侵略艦隊のデータであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る