第27話 火星圏3

「第三小隊の最大の欠点は優しすぎるところだ。まあ、それだからこそ41式改との親和性が高いのだが。第一小隊、第二小隊では41式改は第三小隊ほど親和性は高くない。

それゆえ、作戦の成功確率は下がる。米中露を出し抜くことすら困難だ」

「以前から気になっていたのですが、41式改との親和性とは何です?たんに操縦能力のことを言っているわけではないようですが」

「その通り。親和性とは操縦者が41式改に好かれるかどうかと言うことだ。かつて米軍の特殊部隊は41式改をテストしようとしてまともに動かすことが出来なかった。41式に好かれなかったのさ」

「好かれる、好かれないの問題ですか?生物だとでも言うのですか?なぜ米軍は動かせなかったのです?」

「おそらく、米軍特殊部隊はいじられた人間だったからだ。41式改、正確には41式改を構成する主たる金属ヒヒイロカネは人工的にいじられた人間を嫌い、素直な人間を好むのだろうと考えられている」

上泉はあっけにとられた。

「そんな訳のわからないものを運用しているわけですか、我々は」

「そうだ、そんなものに頼らざるを得ないほど我が国は衰退しているのだ。それを少しでも回復させるためにあれが必要なのだ」

「しかし、相手は知的生命体ですよ。それを捕虜にするならともかくエネルギーにするなど人のとっていい行動とは思えない」

上泉はあからさまに不快感を口にした。

「火星人はさらった地球人を巨人兵器の電池代わりにしている。それに比べればまだましだ。それに政府も官僚も馬鹿ではない。後々批判を受けるような方法は採らない。火星人の生体から細胞を採取しそれを培養すれば事は済むはずだからな」

「そんな都合良くいきますか?」

「いくさ。すでに実証されている。41式改でな」

「どういう意味です?」

帯刀が漏らす機密を上泉は一言も聞き逃すまい、得られる情報はすべて引き出そうと注意深く言葉を選んだ。

「人型重機41式改、あれの動力がなんだかわかるか?」

何を今更という顔をして上泉は帯刀の問いに答えた。

「血液を燃料としていると聞いております。そのため血液を浄化するために臓器が搭載されているはずです」

帯刀は声を潜めた。

「そうだ。ヒヒイロカネは血液中の物質を燃料として発電する。しかし直接血液に触れる必要は無い。肉体が一部でもヒヒイロカネに触れていればそこから生気を吸い取るようにエネルギーを取り出す。だからかつての人型重機は稼働時間が極端に短く、かつ搭乗中の操縦者の死亡事故も相次いだ。それを防ぐために血液を操縦者から切り離して直接ヒヒイロカネに流す仕組みを作った。しかしそれはどんな血液でも良いわけではない。操縦者と同等の血液でなければならない。ヒヒイロカネは血液から操縦者の意思、意図、思考を感じ取り起動するからだ。だから搭載されている臓器も血液も搭乗者のクローンだ」

この帯刀の説明を上泉は無言で聞いた。帯刀はさらに続けた。

「血液の持ち主ではない人間が乗ってもヒヒイロカネはまともに反応しない。そして人工的に強化された細胞を好まない。DNAを操作されて強化された人間のアメリカ軍が乗りこなせなかったわけがここにある。そしてもう一つ。バイオコンピュータと言われるあれは人間の脳だ。意味するところはわかるな?」

「当然その脳も搭乗者のクローンということですか。それでは人間がもう一人乗っているのと同じではないですか!しかも搭乗者自身が」

「そうだ、だが法律上は人間ではない。ただの臓器だ。生きてはいない。倫理上はともかくな。兵器としては極めて優秀で問題は無い」

上泉に返す言葉が思い浮かばなかった。さらに帯刀は言葉を続けた。

「ヒヒイロカネには好みがある。人が人に恋するようにヒヒイロカネも好む人間と好まない人間がある。好む人間が搭乗した場合、その者が得意とすること、長く訓練したことを非常に上手く再現する。再現どころか搭乗者の能力以上に高い効果を引き出す。

空挺部隊全員の中でそのヒヒイロカネとの相性が最も高かったものが君たち第三小隊である。だから君たちには特別な任務が与えられ、この機密も今君に話した。

41式改にはほとんど知られていない機能が隠されている。いざという時はそれを使え。その機能はな・・・」

上泉は帯刀の説明を聞き、瞬時に頭の中でシミュレーションを繰り返した。使うべき時、使い方、そして使って良いのか、ということを。

帯刀は続けた。

「火星人に対しても同じ事が行われるだけだ。生体はおそらく大事に保護されるだろう。資源とされるのはクローンだけだ。だからあまり気に病むことは無い。とはいっても今の話を聞いたばかりでは納得しがたいところはあるだろう。しかし、これだけは間違いないことをいっておく。米中露に奪われるより日本に来た方が遙かにましな扱いになると言うことだ。コーヒーが冷めた。熱いのを買いに行く。おまえはいるか?」

「いえ、自分はここのコーヒーは好みません。苦すぎます」

帯刀は上泉の返答に頷いただけでブルーフィングルームを後にした。

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