第17話 地上戦-中華連邦軍VS火星軍-2

「全ミサイル発射!」

人型重機と楼蘭のVLSから発射された全ミサイルは各敵に向けて飛行を開始した。VLSの多弾頭ミサイルは先端のカバーを分離し12発の小型ミサイルに分裂した。

それが一斉に敵に向かった。その様子を確認するまもなく丁は次の命令を下していた。

「次弾装填急げ!VLSの弾頭は核」

核という言葉に艦橋にいたもの全てが丁を振り向いた。状況の深刻さに改めて気づいたのだ。

「提督、本艦搭載の核ミサイルはそれが全てとなりますがよろしいので」

「かまわん、通常兵器で片付けられるとは限らん。まずは我々は生き残らねばならん」

丁は叫ぶように命令し、艦橋各員はその様子に改めて状況の深刻さを悟った。

「敵詳細を報告します。土偶級巨人兵器345両、大蛇(おろち)級多砲塔戦車3両。距離325キロ」

「爆発を確認。敵上空です。ミサイルは撃墜されています。敵への直撃弾ありません」

丁は自分の予想通りの結果に眉をしかめた。

「VLSの核を1発だけ発射する。爆発のタイミングはこちらでする」

VLSの扉が開き猛煙を引きながら核ミサイルは発射された。

そして数秒後敵上空に到達する寸前ミサイルは自爆した。その瞬間丁は残りのミサイル全弾の発射を命じた。爆発した核ミサイルは、最初は小さな火の玉だったが刹那のうちに巨大な炎の塊となり火星の薄い空気を燃やし尽くし圧力となって周囲の空間を圧迫し、地面を削り取った。しかし、この攻撃は敵巨人兵器を破壊するには遠すぎた。ただ敵の目をくらまし、EMP効果で敵の動きを止める程度の威力しか無かった。しかしそれが丁の狙いだった。敵がわずかでも混乱している間に大量の核ミサイルを至近に撃ち込み、壊滅的な打撃を与える作戦だった。

爆発直後に発射されたミサイルは、核の爆発が収まった直後に敵上空に達した。そして丁の狙い通り敵に接近し爆発するかに見えた。しかし、敵もそれほど甘くはなかった。

大蛇級多砲塔戦車はその八つのレーザー砲塔を駆使し瞬殺でミサイルが爆発する前に撃墜していった。結果敵に被害を与えられたのは核ミサイル2発、通常弾頭ミサイル17発だけだった。この攻撃で破壊出来たのは、大蛇級1両、土偶級巨人兵器47両に過ぎなかった。

「戦果はたったこれだけか。やはりこれは勝てない戦か」

丁は少し考え込み、改めて指示を出した。

「人型重機は各個戦闘用意。主砲は多砲塔戦車を狙う。上陸用舟艇には何人乗れる?打ち上げ準備にどれくらいの時間が必要か?」

丁の命令で楼蘭の艦橋は蜂の巣をつつく騒ぎとなった。各自自分の担当部署に指示を出しつつ、腹の中ではどうやって脱出する上陸用舟艇に乗り組むかを考えていた。

「打ち上げ準備に1時間35分。48名が乗船可能です」

丁は報告に頷くだけで具体的に誰を脱出させるかを指示しなかった。かわりに具体的な攻撃方法を指示した。

「人型重機は塹壕から接近する敵を狙い撃て。レーザードガンと対巨人兵器用ライフルを装備しろ。主砲のレールガン二門と対空レーザー砲は多砲塔戦車を撃つ。VLSには多弾頭ミサイル、標的は土偶級。主砲の射程に入り次第攻撃を開始するぞ」

楼蘭は攻撃に備え砲撃観測用のドローンを打ち上げた。先ほどの轍を踏まないように多砲塔戦車からは距離をとり上空高くへと向かった。

空気の薄い火星では地球よりも遙かに鮮明に遠くを見渡すことが出来た。

ドローンから送られてくる映像は鮮明であったがさらにデジタルで補正され敵の姿がはっきりと見て取れた。台形のボディに八門のレーザー砲を積み六本の足を器用に動かし前進する、戦車というよりも自走砲に近い姿の大蛇級を囲むように多数の土偶級が歩行していた。

「レールガンの射程まで17分20秒。いえ、敵の巡航速度あがりました。14分10秒で射程に入ります」

丁は考えた。

「レーザー砲をあれだけ積み込んでいるということは、射程距離はそれほどあるとは思えない。数で対抗するという発想の兵器のはずだ。先制攻撃出来れば大蛇級はなんとかできるだろう。問題は土偶級の数だ。あの数は防ぎきれないだろう。脱出までの時間を稼げるかどうかが鍵だな」

そして14分後。

「左舷大蛇級にレールガン二門照準。撃て!」

空気を切り裂くぱりぱりという音を立て電磁をまとって二門のレールガンから放たれた砲弾は一発は大蛇級に突き刺さった。一発は傾斜装甲にはじかれた。それでも大蛇級の動きを止めるには十分だった。弾薬を積んでいないため誘爆こそしなかったものの装甲を突き破り戦車室内でレールガンの弾丸は跳ね回り、内部のメカを破壊した。

「レールガン次弾装填、次の大蛇級を狙え。撃て!」

だがレールガンの射撃は大蛇級をとらえられなかった。移動速度が上がり、砲弾が届く前に移動を終えていたのである。同時に土偶級も移動速度を上げていた。

「敵移動速力増。人型重機の有効射程まで4分の予測」

しかし、その4分に達するまでに敵の攻撃は始まっていた。有効射程は敵の方が優勢だったのである。土偶級の腕部に仕込まれた光学兵器は一斉に発射され塹壕に隠れる人型重機に襲いかかった。この攻撃はほとんどが塹壕の土に打ち消されたがそれでも数両の人型重機が破壊された。

「敵、接近速度さらに上がります。東アフリカ会戦時のデータを凌駕しています。射程距離も同様です。データリンクの変更が必要です」

「よし、全車両、データリンク一部解除。データリンクは攻撃先の分配まで。攻撃のタイミングは各車のコンピュータと乗員の判断に一任!」

叫びながら丁はなぜ過去のデータと実際のデータに食い違いが出るのか考えていた。

出した答えは「地球と火星の環境の違い」ということだった。具体的には空気密度と温度である。気温が低いためエンジンが過熱せずリミッターの発動温度に達することなく速度を上げることが出来、空気密度の薄さが光学兵器のエネルギーの分散を押さえ、結果的に射程距離を伸ばしていたのである。

楼蘭地上部隊の射程に入るまでの間、主砲のレールガン、艦体各所に配置された対空レーザー砲が敵に応戦した。レールガンもレーザー砲も狙われれば避けきれない高速であったが、敵の速度に砲塔の旋回が追いつかなかった。

それでも幾ばくかの巨人兵器を破壊することは出来たが、敵の攻撃による損害の方が遙かに大きかった。土偶級巨人兵器の光学兵器が塹壕に隠れた人型重機を屠り、大蛇級の複数のレーザー砲による砲撃が楼蘭の装甲を溶かし、その熱は着弾点付近の乗員を焼き殺した。

そしてついには対空砲座まで貫かれるに至った。

着実に楼蘭の戦力は落ち続けていた。そして最大の攻撃兵器であるレールガンの一基が破壊されたときついに丁は決断した。

「若年者を脱出させる。上陸用舟艇はオートで発艦。残るものは白兵戦の用意」

そういう指示を出しながらほとんどのものが脱出出来ない艦橋員に「すまんな」、と告げた。

丁の指示は即座に全乗員に飛んだ。各個の戦闘服に搭載されたパーソナルデバイスに楼蘭のメインコンピュータから指示が送信される。脱出の指示が出されたものは上陸用舟艇へ向かう地図が示され、そうでないものへは白兵戦準備の指示が下された。

上陸用舟艇に搭乗予定者が乗り込んで3分後、発艦シークエンスが発動した。

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