第12話 東条全(とうじようぜん)2

 翌日、各員は東条が乗車したシミュレーターのモニターを注視していた。上泉がシミュレーションの状況を説明する。シミュレーターの中の東条にも無線を通じて聞こえている。

「状況を説明する。敵巨人兵器に奇襲を受けキャンプは壊滅。東条三尉以外の人型重機は破壊された。戦闘指揮車も然り。貴官は単独で状況を脱出し回収予定地点へたどり着け。以上、状況開始」

シミュレーションの舞台は火星に設置された使い捨てキャンプである。圧縮ガスで膨らませたバルーンに地球の標高0メートル地点と同等の酸素密度の空気を封入する。

これで地球のエベレスト山頂同等の空気密度の火星でも快適に休憩をとることが可能となる。火星進行の行程で1泊を要するという設定である。

モニターには東条三尉がシミュレーター内で見ているのと同じ風景とともに各種データが表示されている。パイロットには知らされない細かいデータまでが表示されている。

「供給される電力量が通常の3倍出ている。オーバーヒートするぞ」

「いえ、見て。ラジエーターもスペック以上に作動している。おそらく全ての回路がスペックを超える性能を発揮しているんだわ」

モニター上の数字に各隊員が反応した。

東条の車両は銃を構え立ち上がった。東条は10mmレーザードガンのモードを三点バーストから単発モードに切り替える。三点バーストモードは一度撃鉄を引けば三発のレーザーを発射するモードである。遠距離での射撃には意味はないが、近距離では有効な攻撃法である。

東条の視界には燃え上がる戦闘指揮車と転がる隊員の死体が広がっている。

被害の状況から見て遠方からのミサイル飽和攻撃と東条は判断した。

戦闘指揮車から上がる炎の熱で41式の赤外線センサーが役に立たなくなっている。そして常時上空監視しているはずのドローンからの情報も入ってきていなかった。

カメラがキャッチする動体センサーと東条の目だけが頼りとなった。

不利な条件だったが東条はすぐに動き出す。敵の気配を探りながら生存者を探す。

その時警戒音が鳴り響いた。敵にロックオンされたことを知らせる音だった。

「また、ミサイル?どこから撃ってきているんだ?」

その疑問にAI天神は答えを出した。

モニター上にミサイルの情報が表示される。全てのセンサーにミサイルの位置表示はない。だが天神だけがそれを示していた。東条はその方向に銃口を向ける。

ある位置からは天神が標準を司る。火器管制をコンピュータが全て制御する。人間がすることは撃とうという意思を示すことだけである。銃口を目標の付近に向けるだけでAIが勝手に照準し射撃する。的中精度は人間のそれを遙かに凌駕する。

迫るミサイルは防がれた。続いて天神は敵の位置予測を指し示す。しかし東条はそれを無視し生存者を探す道を選んだ。敵を警戒しながら振動センサーを使用し人の歩行音に近い物を探す。それで見つからなければ目視で探す。死体を目視したのは2体のみ。他に3名の生存の可能性が有る。生存者を探して連れて帰る。それを東条はやろうとしていた。

「なかなかやるな」

東条の思惑を察した上泉はつぶやいた。

東条は破壊された戦闘指揮車、人型重機の内部を一つ一つ確認して回った。そして2体の死体を確認した。残るは一人。死者のデータを確認すれば、生存の可能性が有るのは橘二尉である。AI天神に橘の位置を予測させ、同時にどこにいるか自分の頭でも考える。

答えは一致する。ベッドルームである。敵の気配を探りながら移動する。炎上音と自車の移動音に邪魔され音感センサーは当てにならない。赤外線感知の赤外線捜索追尾システムIRSTも同様、アクティブ電子走査アレイ・レーダーが頼りだが、その性能は高くない。メインの情報は戦闘指揮車からの情報転送だからである。

「レーダーに反応はないが気配は感じる。2いや3か?」

東条は敵の気配を探りながらベッドルームに重機を進ませた。

すでにバルーンには穴が開き、中の酸素密度の濃い空気が漏れ出している。生存者はすぐには死なないにせよ酸欠状態になり高山病にかかるのは時間の問題である。一刻も早く救助し酸素密度の高いところへ運ぶ必要があった。

東条は41式重機の背部ウエポンラックに装備された軍刀を使用しバルーンを切り裂いた。果たしてその中には橘二尉が倒れていた。モニターを通しての目視では大きな怪我はないようだったが、熱センサーを使用して体をスキャンすると複数箇所に熱を持っていることが確認出来た。打撲を負っているのである。

軍刀をラックに戻し右腕でレーザー銃を持ち左腕で橘を抱え込んだ。

「なかなか感動的な光景ね」

シミュレーション上では腕に抱えられている橘二尉が、自分が救われている姿を眺めつぶやいた。

「自分が救われる姿を見るのは女心がゆさぶられるわね」

と上泉に聞こえるように言葉を続けた。上泉はそれを聞いて苦笑いを浮かべた。

「貴様はこのプログラム何点だった?」

帯刀が橘の恋人軒隊長の上泉にこっそり聞いた。

「78点です。敵を2両撃破しましたが、橘もろとも討ち死にしました。そういう先輩こそ何点でした?」

「俺は81点だ。これでもコース記録所持者だぜ、俺は」

帯刀は笑顔で答えた。

「東条もここまでは及第点だ。だが敵巨人兵器の猛攻を押さえきれるかな?」

帯刀は指揮官らしく冷静にシミュレーションの状況を分析し始めた。

「一刻も早く橘二尉を生存可能な場所へ運ばなければ。天神、二尉が生存可能な場所を検索せよ」

戦闘指揮車に搭載されたAIの母胎が破壊されても各人型重機に搭載された端末は機能し東条の指示を受け入れた。

「10時方向、上泉一尉の車両コクピットは人体の生存保護が可能」

即座に返答があった。

このAIの回答にはすぐに東条は従った。人型重機のコクピットに橘を収容し生命維持装置を作動、コクピットを閉じる。少なくともこれで酸欠状態を防ぐことは出来る。

東条はすぐにきびすを返し敵が接近すると推測される方向へ向かった。

レーザーの照準を前方に向ける。敵の姿は見えない。だがその見えない先に向けて撃つ。

東条は照射された光を横になぐ。ないだ光で敵巨人兵器の一両が胴を切断された。

それは視界の外の出来事である。AIの予測と東条の勘を組み合わせ思考し、その思考を人型重機が感知し射撃する。つまり感性を利用するという今までにない攻撃手法である。

そしてすぐに東条は身を翻した。一秒でも早く敵を討ち取るためである。

レーザードガンを構えつつ走行する。そして撃つ。光軸が一直線に飛んでいく。しかしその先には敵は存在しなかった。敵が移動したのである。東条は車両を走らせながらレーザードガンの光軸をずらす。射撃。AIは光軸が敵にあたらなかったことを示す。そして敵の移動先も指し示すと同時に敵の攻撃を示唆する。東条は車両の軌道をわずかに変える。

その途端先ほどまで車両を走らせた位置をオーロラのように輝く光軸が走り抜ける。

その光軸の出力先に向けて東条はレーザードガンの撃鉄を引く。

「東条は意外と攻撃的な性格ですね。先日の消極的な態度とは裏腹ですね、どちらが彼の本質ですかね。しかし、そろそろレーザードガンが加熱してくる頃ですが」

「いや、データをよく見てみろ。ラジエーターが性能以上に働いている。バレルはまだまだ持ちそうだ」

「東条に対する41式改の反応はどうしたことですか?全てのデータの最高記録を更新しています、東条とはいったい何者ですか?あの東条の資料も二佐の仕業でしょう?」

「東条か。いうなれば、知恵の木の実も命の木の実も両方食べた人類の末裔かな」

「なんです、そりゃ?」

「世界は謎にあふれていると言うことさ」

「わかりませんね。百目所属の先輩ならいろいろ知ってるんでしょうが、我々ただの自衛官にはわからない事が多すぎですよ。先輩そろそろ本当のことを教えていただけませんか?」

東条のシミュレーションを見ながら帯刀二佐と上泉一尉は語り合っていた。しかし帯刀は上泉の問いかけをはぐらかした。

「そろそろ決着がつくぞ」

東条はレーザードガンを三点バーストモードに切り替えた。

そして撃つ。

三つの光が虚空に飲み込まれたかと思われた瞬間爆発音が広がった。

一弾が敵巨人兵器を貫いたのだ。

「やりますね。自分はここで外しました。結果二両に挟撃され戦死でした」

「俺も大して変わらん、さて東条がこの先どう切り抜けるか」

東条は撃破を確認することもせず車両を前に進めたジグザグに走り始めた。敵に照準されることを避けるためである。走行も緩急をつけAIに微調整をさせる。敵の思考とAIの騙し合いである。

41式改のモニターには敵の予測位置が表示されている。

走行しつつその位置にレーザーを打ち込むが今度はあたらない。逆に敵から東条が狙い撃たれる。車両のわずか前方わずか後方を光の束が走り抜けていく。

「当たらなければ問題ない、が、当てなければ俺は終わりだ」

東条は誰に聞かせるわけでもなくコクピットで叫び次の攻撃に移った。

背中のウエポンラックに接続されたミサイルポッドを全弾発射した。

これは前回のシミュレーションで上泉が使った手であったがこの先が異なった。

ミサイルに搭載された自動誘導装置に組み込まれたレーダーのデータを人型重機に転送させたのである。ミサイルを偵察用ドローンの代用としたのである。

その転送されたデータには上空から放たれたレーダー派でくっきりと敵の位置がモニターに表示された。東条は続けざまにレーザードガンの撃鉄を引き、敵巨人兵器二両をほぼ同時に撃破した。

「驚いたな。このシミュレーションをクリアしましたよ。恐るべき戦闘センスだ」

上泉が素直に驚いて見せた。

「全てのデータが最高値だ。やはり血のなせる技か」

「血のなせる技?東条に何があるんです?」

帯刀の独り言に上泉は反応した。しかし帯刀はそれに答えなかった。

「さて、そろそろ始まる頃だな。俺は行かなければならない」

「何が始まるんです?」

「開戦だ。人類史上初の宇宙艦隊戦が火星軌道上で始まる」

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