第6話
差出人 [syuri-294]
件名 294
画面に表示されたその名前と件名を見た瞬間、心臓が強く脈打つ。
頭では“開けるな”と警告が鳴っているのに、指は勝手に動いた。
俺は、震える手でスマホをスワイプする。
見たらヤバいと分かっている。
けれど、見ずにはいられなかった。
動画が再生される。
画面いっぱいに映し出されたのは、家の近くにあるコンビニの光景だった。
手ぶれの激しい映像。
まるで誰かが歩きながら撮影しているようだ。
それも、早足で……いや、走っているようにも見える。
やがてカメラはコンビニを素通りし、角を勢いよく曲がった。
映像が揺れる。風を切るような音と、衣擦れのような雑音が混じる。
次の瞬間、俺の住んでいるマンションの全景が画面に映し出された。
薄暗い街灯の下にそびえる、見慣れた建物。
けれど、その光景が今は異様に思える。
まるで“そこに何かが近づいている”とでも告げるように、不気味な圧が画面越しに伝わってきた。
これはもう、偶然なんかじゃない。
胸の奥がギュッとつかまれるように苦しくなる。
「うっ……まじかっ……なんなんだよ……!」
思わず情けない声が漏れ、慌てて動画をタップして停止した。
画面が暗くなり、室内の静けさが戻ってくる。
だが、安堵は一瞬だった。
……カツーン。
……カツーン。
突然、耳元で硬質な足音が響いた。
それは“音”というより、“空気の震え”のように伝わってきた。
明らかに玄関の外、廊下から聞こえてくる。
俺の住む7階に、この深夜の時間帯に、誰かが来た。
カツーン、カツーン。
足音がゆっくりと近づいてくる。
廊下を歩くそのリズムは、機械のように規則的で、ひどく冷たい響きだった。
そして——
その音は、俺の部屋の前で止まった。
心臓が激しく鼓動を打ち、全身の毛穴が総立ちになる。
喉が渇き、息が浅くなる。
「やばい……。本当に、来てる……」
誰なんだ……誰が……。
ガチャッ。
ガチャッ。
玄関のドアノブが、ゆっくりと回される音が響いた。
まるで中の気配を確かめるように、何度も、静かに、じわじわと。
その不気味な音の中——
スマホが、また震えた。
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