第22話

「——では、それぞれの場所で待機」


 二人一組に分けられた訓練生達は、数キロずつ間隔をとり、西門を扇状に囲うようにそれぞれ配置された。そして、最後の砦となる門の付近には、四人二組の召喚士が待機した。

 要となるこの場所の警備には『熟練の召喚士』が配置されているからか、門の周辺に豪然たるものを感じる。


 この訓練所は外部から一切見えない造りになっていて、外壁は数十メートルの高さとなる。この西門も同等の高さで設計されていて、左右の巨大な鉄柱に、赤褐色の鉄扉が二重に取り付けられている。かなり重厚感ある門構えだ。

 そこに門番の如く、訓練所でも指折りのあの二人が立っていた。右手の鉄柱には政府からの召喚士とミリヤのペア、左手の鉄柱には政府からの召喚士とヴェルナ姉さんのペアがそれぞれ配置についていた。


 門から数キロ離れたここからでも、二人の圧が感じられる……。

 

 私とイマリは、門からさらに西側に向かったポイントで警備に当たることになった。二人一組の配置ということで、もちろん私にもペアになる召喚士がいるわけだけど……なんとその相手がエニマ先輩だなんて、こんな奇天烈なことは無い。


「よりによってエニマ先輩と……」


 おなじみの独り言は、しっかりエニマ先輩の耳にも届いていた。


「あはは、聞こえてるよスクナちゃん。そんな怒ってないで、仲良くしようよ」


 エニマ先輩はなんてない感じに話し掛けてくる。そして私は怒ってなどいないし、仲違いしたいわけでもない。むしろエニマ先輩は私の中で、気軽に話せる数少ない人だったから、むしろ仲良くしてほしいと思う人物だった。


 ただ、この『三人』という状況に耐えられない。あの時、固有名詞を避けたとはいえ、私が話した『ある人』の存在がイマリなんだという事に、賢いエニマ先輩ならすぐに気付いてしまうはず。そうなれば、私はもう警備どころじゃない。


 私はエニマ先輩に悟られないように、極力会話を控えて警備に集中した。


「君は昨日の……? 改めまして、俺はエニマ。よろしくね」


「わたしはイマリっ よろしくーっ」


「俺達だけ三人一組ってなんでだろうね?」 


 ……それは、イマリが私の召喚獣で、ここでは召喚士としてカウントされていないからです、とは言えない。機密事項とも言われてはいないから、三人である事情を気にせずエニマ先輩に話してしまえばいいんだけど……事情ひとつ話してしまうと、芋づる式に私の心情まで露見して、最終的にイマリにそれがばれてしまうのが怖い。

 

 そもそも恋煩いだと決まったわけじゃないから、取り越し苦労な気もするけど……。

 

「そういえばイマリちゃんって、前に東門に向かう部隊に居なかった?」


「うんっ たまーにみんなと警備してるよーっ」


「たまに? じゃあ普段は何処の警備してるの? イマリちゃん西門では見かけないからさ」

 

「んーっ ここにきてからはどっちかの門が多いよっ? それまでは東門のもっとさきが多かったけどーっ」


「東門のさらに先って……もしかして退廃地区のこと……?」


 イマリの言葉に、驚きを隠せないエニマ先輩は怯えにも似た面持ちで聞いていた。


「そーだよーっ あっちはねーっ空気わるいしご飯まずいっ」


 エニマ先輩は私のほうを向いて、戸惑いを見せていた。


 『退廃地区』。私も聞いたことしかないこの地区は、国を管理しているはずの政府ですら、手を出しきれない無法の地とされていた。

 政府に言われるがまま、非現実的な事がそこらじゅうに転がっているそんな場所へ、イマリはいつも連れて行かれていたんだ……

 そう思うと、いい知れない感情が湧いてくる。


「ご飯? え、っと……任務中にご飯食べてる余裕あるの?」


「んっ? あーっそれはあっちに住んでたときのはなしだよーっ」


 エニマ先輩と私は、同時に顔を見合わせる——。


 イマリの口から出た真実は、簡単に触れていいことでは無い。……と、暗黙の了解で私達は互いに口をつむぐ。


 『北国出身で退廃地区で住んでいた』


 ……それは、イマリに壮絶な過去があったことを裏付けた。


 イマリが歩んできた世界は

 イマリから色んなものを奪っている。


 心だけじゃない。

 私達が当たり前とした安全も

 イマリはここで奪われたんだ。


 ……ひとつでもいいから

 イマリに与えた恩恵があってほしい。


 そしてもう、

 イマリから何も奪わないでほしい……。

 

 願っても、祈っても

 何も変わらないこの世界は


 ……やっぱり絶対狂ってる。

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