〜猫と神隠し〜ACT9

「源之助」



先を歩く私の後ろで、内山莉乃が声をかけてきた。私と健吾の歩くスピードについていけないのだろう。



助けを求めるために呼んだのである。まあ、猫である私に助けを求めるのも、どうかと思うが。



「大丈夫ですか?すいません、速かったですね」

健吾が歩くペースが速すぎた事に気付き、莉乃に謝りながら駆け寄っていた。



私達は、夜の森を歩いていた。森と言ったが、それ程険しい訳ではなく、昼間ならハイキングができる程度の木々でしかない。



私達がこうして歩いているのは、湖の反対側に行くためである。湖沿いを歩きながら、キャンプ場とは反対側に向かっている。



「もうすぐ着くので、頑張って下さい!」

健吾が莉乃を励ましていた。



私達が目指している湖の反対側には、小さな小屋があった。一時、薪などのキャンプ用品を保管しておくためである。



「そう言えば、なんで湖の反対側に保管庫があるんですか?」

「こちら側の方が県道が近くて、納品しやすいからみたいです」



健吾の質問に莉乃が息を切らしながら答えた。キャンプ場の方まで来るには、車では時間がかかるらしい。



そのため、湖の反対側に保管して、必要な分をボートで運ぶのが効率的なのだそうだ。私達は、今その保管庫となっている小屋を目指していた。



「ここで少し待ちましょう」

「え?何を待つんですか?」

健吾のセリフに、莉乃が疑問を口にした。



「しーっ!」

健吾は、口の前に人差し指を立てながら、莉乃に向かって言う。そうして、私達は暗闇の中で、じっと黙って待つ事になった。






少しして、小屋の前に人影が見えた。どうやら、小屋に入ろうとしているらしい。入口に付けてある南京錠をガチャガチャと外している。そうして、人影は小屋の中に入って行った。



「行きましょう!内山さん」

健吾が、私を抱きかかえている莉乃に声をかけた。



「はい!」

莉乃は、健吾の後について小屋へと向かう。中ではゴソゴソと何かを開けしめする音が聞こえていた。



「その中に何があるんですか?」

健吾は、勢いよく小屋の扉を開き、小屋の中の人物に声をかけた。その人物は、小屋の奥にある、業務用の冷蔵庫を開けていた。



私達のいる場所からは中が見えないが、中に何が入っているかを、私達は気付いていた。



「その中に、行方不明になった女性が入っているんですね」

健吾が静かに言った。



「え!あの中に女性が?」

健吾の言葉に、莉乃は驚いて目を見開いていた。



「何を言ってるんだ!」

そう言って振り返ったのは、キャンプ場の管理人である青木卓也だった。



「あなたが、行方不明になった女性を拐って、殺しのでしょう!」

健吾は、冷蔵庫に向かって指を指し、さらに続ける。



「そして、遺体をその冷蔵庫の中に隠した」

健吾がそう言った瞬間、青木は健吾に突進してきた。私達を押しのけて、小屋の入口から出て逃げるつもりだろう。



「おっと!」

健吾は、そう言いながら横にその突進をかわし、青木の側面に体当たりでぶつかる。



八極拳の「貼山靠」である。健吾の体当たりをくらった青木は、小屋の奥まで吹き飛んでいた。



「クソ!クソ!」

そう言ってゆっくりと立ち上がった青木の雰囲気が変わっていた。周りの空間全ての雰囲気も変わりつつある。



「健吾!いったん小屋から出るぞ!」

私は、莉乃に抱かれていた腕から飛び降りつつ、そう声をかけた。



「ああ!わかった!」

健吾は、そう言って莉乃を連れて小屋を出る。私もそれに連れて小屋を出た。小屋の入口から少し離れたところに来た私達は、ゆっくりと小屋から出てくる青木を見ていた。



「イーーーーーーー!」

そう叫んだ青木からは、黒いモヤが噴き出ている。そして、そのモヤは一つの形をとり始めた。



「アレが悪霊の本体か」

そう言った健吾は、戦闘態勢に入っていた。そう、フドウを呼び出す態勢である。



「ノウマクサマンダバサラダンセンダマカロシャダソバタヤウンタラタカンマン…」

そう言いながら、いつものように不動明王の印を結び真言を唱える。



「フドウ!」

そう健吾が叫ぶと、分身である人型(ヒトガタ)が姿を現した。



「ニャー!」

同時に私も、鳴き声と共にヒョウのような分身を出現させた。



「イーーーーー!」

青木は、叫び声をあげる。それに合わせて黒いモヤは人の形に変わっていった。その姿は、着物を着た女の形であった。悪霊が姿を現したのだ。



「ハァー!」

健吾は息を吐き出しながら、フドウを動かす。フドウは、左腕の縄のような炎を、ヘビが獲物に飛びつくように伸ばした。そして、女の悪霊に巻きつかせた。



私は、それと同時に、自らの分身の尻尾の一つから炎を打ち出す。同時に、フドウも炎の縄から炎を吹き出させた。二つの炎を受けた女の悪霊は、身体全体を焼かれ消えていった。



「うわー!」

叫び声を上げながら、青木は力なく倒れ、気を失っていた。



「これで解決です」

健吾は振り返り、後ろに立って私達を見守っていた莉乃に、そう静かに言っていた。私達の周りは、静けさに包まれていた。ただ湖の波の音だけがこだましているようであった。




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