〜猫と神隠し〜ACT7

その人物は、急いでこの場所に来ていた。後から聞いた話では、その人物が昔働いていた会社の倉庫だったらしい。



今は使われていない場所だ。当時作っていた合鍵を使って出入りしていたようだ。



「そこに三番目の神隠しにあった女性がいるんだな」

オレは、その人物の後ろから声をかけた。その人物の目の前には、ドラム缶がならんでいる。その中に、その女性がいるという事は、おそらく生きてはいないだろう。



「なっ!なんでお前達が!」

そう言って、その人物はオレ達の方を振り向いた。



「まさか、こんな単純な方法に引っかかるとは思わなかったよ」

この時、オレはそう言っていたが、内心では引っかかってくれて、よかったと思っていた。



実際、あからさまで単純な方法だったので、うまくいかない可能性が高いと考えていたのは事実だ。



「まさか、だましたのか?」

「ああ、そうだよ!管理人の森下亮二さん」

オレは、その人物を名前で呼んだ。



「なんで森下さんが犯人だってわかったんですか?」

黒猫を抱いて、オレの後ろに立っていた内山莉乃が聞いてくる。



「神隠しにあった女性は、マンションの部屋から消えました」

「ええ、そうですね」

内山莉乃は、神隠しなのだから当たり前だというような顔をしている。



「なら、その部屋に入って彼女を拉致できる人間は限られてきます」

「あっ!なるほど!」



そう、あの部屋に入れるのは、彼女の関係者とマスターキーを持っている管理人くらいしかいない。そして、彼女の関係者でスペアキーを持っている人間はいなかった。



その証言は、隣の部屋の丸山貴史から得ていた。何故、その事を丸山が把握していたかは訳がある。



「なので、一番怪しい人間から潰していこうと思ったんです」

本当のところは、この言葉はウソだ。オレは最初から、この森下が犯人だとわかっていた。



それは黒猫も一目見て気付いたらしい。そうだ、オレ達は気付いていたのだ。この管理人の森下亮二に悪霊が憑いている事に。



「それでGPSの話を森下さんの前でしたんですね」

「ええ、GPSを回収しにくると思ったんです」

内山莉乃の言葉にオレは答えた。



「こちらの会社が正式に動き出す前に回収しなければならないので、すぐに動くとは思っていたのですが」

「思っていたのですが?」

内山莉乃がオレのセリフの語尾を復唱して、続きを促す。



「こんなに簡単にひっかかるとは思いませんでした」

オレは、少し拍子抜けをしたというようなリアクションをとる。



「クソ!クソ!クソ!クソ!」

森下は、別人になったように叫びはじめた。そして、頭に血がのぼったのか、なりふり構わずオレに突っ込んできた。



オレは、右脚で森下のお腹の下の方を蹴る。爪先を外に開き、脚の裏全体でストッピングをかけるように蹴っていた。



八極拳という武術の「斧刃脚」という蹴り技だ。本来、相手の膝を前方から蹴り、へし折るように使う蹴り技でもある。ここでは、ケガをさせないように腹を狙った。



オレは、勢いがなくなった森下の左腕を自分の右手で押さえ、左手で森下の首の後ろを下方に押さえた。その勢いで森下の、オレから見て右側に入り込みながら左肩関節をキメつつ、投げた。森下は、左肩関節をキメられた状態でうつ伏せに押さえつけられた状態になる。



「キャ!えっ?すごい!」

オレが、一瞬で森下を取り押さえたのを見た内山莉乃は、そんな声を出していた。



「どけ!どけ!どけ!」

森下は、押さえつけられた状態にもかかわらず、暴れ出していた。



「おい!離れろ!」

黒猫がオレに向かって叫ぶ。オレはその言葉を聞いて、森下から離れた。



「イーーーーー!」

そう叫んだ森下からは、黒いモヤのような物が溢れ出ていた。



「え?何アレ?」

内山莉乃が目の前の森下の変容を見ながら呟いていた。



「追い詰められて、出てきたか」

「ああ、そのようだな」

オレのセリフに、内山莉乃の腕から地面に飛び降りた黒猫が同意した。



「なんなんですか?アレ!」

「内山さんにも見えるんですね」

内山莉乃の言葉にオレが言った。そして、さらに言葉を続ける。



「アレは、悪霊です」

それを聞いた内山莉乃は、固まって動けないでいた。



「ノウマクサマンダバサラダンセンダマカロシャダソバタヤウンタラタカンマン…」

オレは、両手の指を絡め、不動明王の印をとる。そして、不動明王の真言を唱えた。



「フドウ!」

そうオレが叫ぶのと同時に、オレの分身である人型(ヒトガタ)が姿を現す。



「ニャー!」

同時に黒猫も、鳴き声と共に昨夜のヒョウのような分身を出現させる。



「イーーーーー!」

森下は、同じように叫び声をあげていた。そして、それに合わせて黒いモヤは人の形に変わった。白い服を着た黒髪が長い女性の形をとり始める。悪霊が姿を現したのだ。



「ハァー!」

オレは気合を入れるように息を吐き出す。それと同時に、フドウの左腕の縄のような炎が、ヘビが獲物に飛びつくように伸びる。



そして、女の悪霊に巻きついた。それを合図にしたように、黒猫の分身は尻尾の一つから炎を打ち出す。同時に、フドウも炎の縄から炎を吹き出させた。二つの炎を受けた女の悪霊は、身体全体を焼かれ消えていった。



「どうなったんですか?」

「悪霊を浄化しました」

内山莉乃の言葉に、オレは静かに答えた。森下は、糸が切れたマリオネットのように気を失い倒れこんでいた。



「あなた達は何者なんですか?」

内山莉乃は、オレと黒猫を交互に見ていた。



「それに、あなた達の後ろのも悪霊なんですか?」

どうやらフドウと黒猫の分身が見えているようだ。



悪霊の力が高まり、霊的な力が高まった場所では、普通の人でも悪霊やオレ達の分身が、一時見えるようになる場合がある。今の内山莉乃がその状態なのだろう。



「これは、悪霊ではありません!悪霊にあらがう物です」

オレは、内山莉乃にそう語った。




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