〜猫ときさらぎ駅~ACT4
「たしか、もう一人の行方不明者の戸山正広は、三村綾女を探してたんだよね?」
前田美穂と別れた私達は、きさらぎ駅につながった大学の最寄り駅に向かって歩いていた。その途中、健吾は雪菜に話しかけていた。
「はい、いろんな人に聞き回っていたそうです」
「そして、前田さんにきさらぎ駅について聞いた」
雪菜の答えに続けるように健吾は言う。
「やっぱり、戸山は彼女を探して、きさらぎ駅に向かったんだろうな」
そう言いながら、健吾は横を歩く雪菜に視線を移した。
「戸山は、きさらぎ駅に行くための方法を見つけたのかもしれない」
その健吾の言葉に、雪菜は目をまわるくしていた。
「きさらぎ駅に行く方法があるのですか?」
「あるいは、きさらぎ駅の方がその男を誘い込んだかだな」
雪菜の問いに対して、健吾ではなく私が答えた。もっとも、いつもの通り雪菜には猫がニャ〜ニャ〜鳴いているようにしか聞こえていないだろうが。
「源之助?」
雪菜が、さらに目をまわるくして私の顔を覗き込む。今、私は雪菜に抱きかかえられている状態である。雪菜は自分の腕の中でくつろいでいる私の顔を凝視していた。
「きさらぎ駅が、わざわざ戸山一人を呼びよせたっていうのか?」
不思議な顔をしている雪菜をほったらかして、健吾は私に答えていた。
「この界隈で行方不明者は二人だけなのだろう?」
「ああ、二人以外に話は聞いてないな」
そう言った後、健吾は雪菜に話を振る。
「そうだよね?この大学近辺で、行方不明者って、今のところ二人だけだよね?」
「あ、はい。二人以外の話は聞いた事ないです」
私との会話の内容がわからない雪菜は、しどろもどろしながら答えた。
「ならば、行方不明になった二人の方に何かあるのかもな」
本当の事を言うならば、私には少し心当たりがあった。健吾や雪菜は、まだその可能性を考えていないようである。
人間と違って、猫である私には違った視点があるのであろう。健吾は、よくこのような事を予知というが、猫特有のカンのようなものである。
「二人の方を調べるか?」
そんな事を考えていると、健吾が尋ねてきていた。
「いや、きさらぎ駅を探した方が速いだろうな」
「オマエ、何か気付いているのか?」
私の答えに健吾は何かを感じたのか、そう問いただすように言う。
「まだわからん」
「いつもの予知ってやつか?」
健吾のいつもの返しを聞き流しながら、私は雪菜の腕の中で身体をくねらせる。
「とりあえず、この駅から終電に乗ってみるか」
健吾はそう言いながら、目の前にまでせまった大学の最寄り駅に視線を移した。雪菜は、私達の話が一段落したのに気付いて、私の頭をなではじめた。
普通、大の男が猫と会話していれば、変な目で見るものである。だが、このようなところを何度も見ているからか、雪菜は通常の出来事のように受け流していた。まあ、この女が常識はずれな程のド天然女だからでもあるが。
「大貫さん達は、これからきさらぎ駅を探すのですか?」
健吾の言葉に、私を撫でながら雪菜は尋ねてきた。
「そうだね、きさらぎ駅への行き方はハッキリしないけど、終電に乗ってみようと思ってる」
「じゃあ、私も一緒に行きます!!」
私と健吾は、一瞬凍りついたかのように停止した。そして、私達は視線を合わせる。
私達は、思いがけない雪菜の言葉で、一瞬頭の中が真っ白になったようであった。
「えっと、もしかしたら危ない思いをするかもしれないから」
健吾は、なんとか絞り出すように言う。
「大丈夫です」
どんな根拠があるのかはわからないが、自信たっぷりに雪菜は言い、さらに続ける。
「それに、私が大貫さんに頼んだ事ですし、友達の事も心配ですから」
「ほら、夜中の探索になるからさ」
雪菜の言葉に対して、健吾が答える。
「迷惑なんですか?」
「いや、迷惑って訳ではないけど」
雪菜はどうしても私達について来たいようである。
「私、大貫さんのお手伝いをしたいんです。それに凛子さんはお手伝いしてたそうじゃないですか」
凛子とは、ライターの立花凛子の事であろう。
前にバラバラ殺人事件(猫の悪霊退治〜猫とバラバラ殺人~を参照)の時に知り合った。こないだのお化けトンネルの事件(猫の悪霊退治2〜猫とお化けトンネル~を参照)の時に、色々調べていたそうである。
「いや、立花さんはライターだし、資料を集めたりしてくれただけだから」
そう言った健吾を雪菜はじっと見つめる。
その時私は気付いた。なるほど、この女は凛子に対抗心を持っているのである。いや、どちらかと言うと嫉妬に近い感情だろう。
少し前に私達がかかわった、お化けトンネルの事件の時、凛子はトンネルについて調べてくれていた。犯人の素性について知れたのは凛子のおかげだとも言える。
また、その前にかかわったバラバラ殺人については、凛子と一緒に事件解決をしたとも言える。おそらく雪菜は、その事を凛子本人から聞いたのだろう。お化けトンネルの事件以降、凛子と雪菜は顔を合わせる事が多い。
時々凛子が健吾の働くコンビニに顔を出すようになったからである。職場が近いという事と、私を撫でるのが目的らしい。なんでも、凛子は猫好きらしいが、住んでいるマンションがペット禁止らしく飼えないそうである。
そのため、時々私を撫でに来るのである。まあ、私としては毎回チュルルを持ってくるので大歓迎である。また、おそらくであるが、私達にかかわっていれば、何かの事件のネタを得る事ができるとも考えているのかもしれない。
「どうしても、お手伝いしたいんです」
雪菜はさらに健吾を追い詰めていた。これは、雪菜に押し切られるだろうと私は思った。やれやれ、今回の事件も厄介な事になりそうだ。私は雪菜の腕の中で欠伸をしながら、そう考えていた。
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