はじめての弟子


◇◆◇◆◇


 朝6時、未だヒトのまばらなギルド前の広場で待っていると、ベイルらしき人物が広場にやってくる。

 昨日はかなり強引に約束してしまったから、来てくれない可能性もあったけど............

 次からは上手くやろう。きっと俺への心象も良くないだろうし。そんなことを考えているうちに、ベイルは俺の元へ辿り着く。


「来たね、ベイル」


「あなたが私に来いと言ったのだろう?それに──あんな終わり方、気にならない方がおかしい」


「誘い方が良くなかったから、怒って来ないかもしれなかったから。さて、ベイル。きみがここに来たということは、俺の話を聞くということだよね?」


「当たり前だ。それで......どういうことか話してくれるか?」


「まぁ待ってよ。とりあえず、場所を移動しよう。人は少ないとはいえ、周りに聞かせる話でもないし。」


「.........分かった」


 不承不承といった感じでベイルは頷く。武装もしてるし、なかなか警戒してるな。まあ俺だってこんな怪しいヤツと人目のないところに行くことになれば警戒するね。


 とりあえず、宿の俺の部屋に入ってもらう。場所が宿だとわかった瞬間目に見えて警戒度が上がった。ヤメテ!俺にそんな趣味は無いから!


「安心してよ、俺は女が好きだからさ。」


「.........」ジト


 苦笑しつつベイルに声をかけるけと、ジト目が返ってきた。


「さて、俺がきみの素質について話す前に条件がある。俺の目的に協力すること。」


「その目的とは......?」


「──魔王討伐だよ」


「!!.........正気か?自殺願望でもあるのか?」


「もちろん正気だよ」


「私の命は保証されるのだろうな?」


「きみが俺に着いて来れる限りは、ね」


 彼が俺につくなら、鍛え抜いてみせよう。死なせない自信はある。


「...............分かった、とりあえず協力はしよう。だが、危険だと判断したらすぐに

降りるからな」


「その辺はお好きにどうぞ。協力してくれるなら構わないよ。」


 数秒間の沈黙の後、ベイルは承諾した。ちなみにこの世界における魔王討伐とは正気を疑われるほどの目標だ。


 魔王とは、超強力な魔物が特別なスキルにより指揮能力を得た個体だ。不思議なことにどの時代を見ても同時に2体以上存在することはなく、倒されたあとも、数百年経つと再び発生する。その力は大地を割り、天を裂くという記述もある。

 魔王が存在する時代は魔物の力が1段階も引き上げられる。そのためそれらを突破して魔王を討伐するのは至難の業だ。


 この世界のおもな地理は、北大陸と南大陸、それと西部諸島が存在する。三つは正三角形の位置関係だ。北大陸は形は前世のオーストラリア大陸に似ているが、中央に大きな湖がある。南大陸はロシアみたいに横に長い形をしている。今代の魔王は西部諸島で生まれ、魔王自体は今のところ動きはない。


 ここアルヘイヤは、北大陸の中央付近に位置し、アークティア帝国の都市だ。帝国は大陸北西部から中央にかけて領土を持つ実力主義の大国で、さまざまな人種がいる。軍事力もなかなかで、帝国主導で西部諸島からの強力な魔物の流入を防いでいる。


 周辺は、北東から東にかけてアズマリア王国、南東から南部にかけて、エルフたちの暮らすウォード森国、西部に獣人たちのレオガード獣王国、南西部は神聖ルクシア皇国があり、現在戦争はない。ただ、帝国と王国との仲が、険悪とまでは行かないが、少々悪い。王国で普人族至上主義、王国で言う人間至上主義が王族貴族を中心に広まっていて、ヒューマン以外のヒト族が奴隷として扱われており、奴隷狩りも行われているからだ。

 商人や地方貴族はそんなことないので、で済んでいる。一方王国以外の国との仲は良い。皇国は表向き中立を謳っているが、人間至上主義は教義に反するので、帝国、森国、皇国の共同で奴隷解放に動いている。


 閑話休題



「それで、私の素質とはなんなのだ?」


「それはね.......槍だ。それも、圧倒的なまでの。」


「槍だと!?つまり私は前衛で戦えるということか!?」


「!?ッ、近い近い近い!離れて!」


「──ッハ!?すまない、あまりに嬉しくて取り乱してしまった。」


 ベイルは至近距離に来て俺の肩を掴んで揺らしてきた。あまりにも近いので手が出るところだった。


「良かったじゃないか。まあまずは、自己紹介をしよう」


「あ、ああ。分かった。知っていると思うが私はベイル=カートだ。見ての通り魔人族で、魔法士だ」


「俺はクレイ=ユーグラント。普人族で、今はB級だよ。戦い方は後で見せるけど、槍もその辺の奴らよりは使えるから、俺が鍛えよう」


「それは嬉しい。ぜひご教授願おう」


 聞けばベイルは、小さな頃は英雄譚が好きで、それで前に出て戦うことに憧れ冒険者になったらしい。しかし剣では上手く立ち回れず、当時のパーティメンバーから後衛にコンバートするよう言われたそうだ。種族柄魔法の適正の高い魔人ということもあり、大人しく後衛になったそうだ。その後、魔物との戦いでリーダーが戦死、そのまま解散し、アルヘイヤに拠点を移し現在はソロだそうだ。


「──というわけで、訓練をしよう。さあほら、行くよ!」


「ぇ?ッてなに、は!?、ちょ、ま──」


 俺は[時の支配者クロノス]で最初に作ったような異空間を作り、呆然としているベイルを連れて異空間へ飛び込んだ。















<設定>

世界、転生者、転移者、召喚者について。

世界は上位世界、中枢世界、下位世界に分かれており、主人公は下位世界出身。上位世界は一つしかなく、そこは上位存在の住む世界。上位世界と下位世界の間に中枢世界があるため、上位存在は余程の力がない限り中枢世界にしか干渉できない。魔力は神力などのエネルギーは、上位存在の持つチカラ由来なので、上位存在との関わりがない下位世界には存在せず、中枢世界に広く存在している。ただ、中枢世界からまれにそれらのエネルギーがわずかに下位世界へ流れ、いわゆるが起こる。起こるのが良いことか悪いことかはわからないが、強大な世界由来のエネルギーなので、起こることも、死者蘇生や天変地異、あるいは雷を落としたり、空を駆けたり、海を割ったりといった超常の能力を持つものが生まれるなど本来あり得ないことが起こる。

転生は神の類や世界の法則によるもので、生物如きでは観測すらできません。ただ、一部の上位存在が気まぐれに知的生命体を記憶と能力を持たせた状態で転生させることがあり、下位世界から中枢世界への転生がブーム。

転移は上位世界以外の世界同士が接触した時に極々まれに起こる現象。生命体が転移に巻き込まれるのは、さらに珍しく、その上で転移先で生き残ることは難しく、転移者は実質存在しない。

召喚は、その世界を含む、それより下位に位置する世界内の、全ての生物を対象に、あらかじめ設定した条件を満たすようにランダムに召喚すること。召喚者は、ヒトが召喚された場合における被召喚対象の呼称。


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