第6話未だスタートラインで足踏み

「身分を明らかにできない方は乗せることができません」


 変態マントの行き先が分かり、いざ海外へと思っていた矢先、俺は船に乗る前段階で躓いていた。

 船に乗るために搭乗手続きをしていた際である。国外に行く際は船に乗る前に自身の身分とその国に行く目的を記載する必要があったのだ。もちろん絶賛性別転換中のわが身である。身分を証明できるものなど持っていようはずもない。

 変態マントが国外にいると聞いて内心「わー、国外だって。もう冒険じゃん!冒険者じゃないけど冒険できんじゃん!」と思っていたがやっぱり冒険者ではない奴は冒険できないみたいです。


「いや、この子実は捨て子で、私の義理の妹なんです。この子が小さいときにうちの親が拾ってきて、今回の旅ではこの子を捨てた両親を見つけ出して、なんで捨てたのかを問いただしてやりたいんです。このままじゃこの子は、リンは過去にとらわれて生きていかなくちゃあいけないんです。どうか、渡航を許してくれないでしょうか」


「お願いします!!」


 ちなみに今は即興で考えた設定である「捨て子リン、義理の姉と実の両親に文句を言いに行く」を搭乗受付のお姉さんの前で上映中である。

 フェアリスがいきなり、俺のことを捨て子だとか言い出した時は焦ったがフェアリスの演技が案外うまかったので、俺もそれに触発される形で演技に熱が入っていた。見よ!この涙をためた悲しそうな顔!アカデミー賞はもらったか……


「ダメなものはダメです。戸籍がないのでしたら国に申請して、戸籍を作ってから再度来てください」


「「そんなあーー」」


 残念ながら受付のお姉さんの心をつかむことはできなかったようである。そこそこうまくいったとおもってたんだけどなあ。



   ◇


「さてと、こっからどうしますかねー」


船に乗れなかった俺たちはその日はもう遅くなっていたということで一晩明かし、次の日の朝から二人で解決策を考えていた。


「馬鹿正直に戸籍とってたんじゃ時間がかかりすぎるし、かといって他に方法があるわけじゃないのよね」


 フェアリスに聞いて知ったのだが、近年このマドモアゼル王国では冒険者産業が活発になっていくのに準じて商人や武具屋、その他もろもろの商業人が国外から集まってきているらしく、それらをさばくのに手いっぱいで国民の戸籍登録などがすぐに終わらないケースが増えてきているらしい。どれだけかかるか定かではないが、少なくとも一か月はかかるのだとか。


「一月もあったら絶対に逃げられる……何とかして三日以内に解決法を考えないと」


 ちなみに変態マントが乗った船と同じ行き先の船が次に出るのは三日後、だから俺たちは三日で解決法を探す必要があるのだった


「俺はともかくフェアリスは船に乗れるんだから最悪フェアリスだけ先に行って探せばいいんじゃないか?」


「本当に最悪の場合はね。でも実際に顔をみた目撃者がいないとあっちに行ってから見つけるのに苦労するし何より間違う可能性が高くなるわ、できるなら二人で行きたい」


「やっぱそうかー」


 俺はうなだれる。せっかく冒険らしくなってきたと思っていたのに、いまだ最初の町から出ることもできていない。全く、冒険も簡単じゃない。

 現代において冒険者が人気を伸ばしている理由の一つがまさにこの冒険がしやすい、と言う点である。冒険者なんだから冒険にしやすいもくそもねえだろふざけんな、と思うかもしれないが、実際に冒険するとなったら今回のケースのように海外や禁止区域など、普通なら許可が必要な場所に行くことも多い。この時冒険者なら例外はあるものの、基本的には全ての場所に顔パスで行くことができるのである。このよう特権があることで若者は冒険者になり、国は金を稼ぐということなのだ。


「俺が冒険者のままだったらかんたんだったんだけどなー」


 思わず考えていたことが口に出る。やめやめ。未練がましく過去のことを考えても無駄だ、今は建設的なことを考えないと。フェアリスは何やら一人で考えているみたいなので、とにかく思いつくままに案を出していってみる


「どうにかして無断で国を出る方法とかないのかな。いけない取引してる船とか探せばありそうなもんだけど。あとは賄賂とか。まあその金がないんだけどさ」


 やはり俺一人で考えても碌な案が出てこない。そもそもが世間知らずのガキである。ルールも知らないのにルールの抜け道なんて考えつくわけがない。

 すると突然フェアリスがなにか思いついたような顔で尋ねてくる。

 

「リンリン、今なんて言った?」


「リンリンやめろ。」


「それはいいから。ほら、早く」


 俺にとってはよくはない。ただでさえ周りから女の子扱いされるせいで心がどんどん女の子に浸食されそうになっているんだ。呼び方はせめて普通にしてもらわないと。

 と、そんなことを言える雰囲気でもなかったのですぐさま答える。


「俺が冒険者のままだったらよかったって?」


「じゃなくてその前!――じゃない!あってる!」


「ど、どっちだよお」


「それであってるわよ!、テンプレ外してきやがって」


 そんなことを言われても困る。せっかく合ってたんだから誉めてくれてもいいだろう。


「そうよ、冒険者になればいいんじゃない!冒険者登録ならそこまで時間はかからないし、何より簡単よ!」


「いや、でも俺ギルド追放されたばっかだぞ?いまさら新入りの顔してギルドに行くのは無理だと思うんだけど……」


「なんでまた『ガリバーの船』に行くのよ……そうじゃなくて!新しく他のギルドに入ればいいでしょ!」


「えー俺ガリバーさんのとこ以外で冒険者やりたくないんだけど」


「んなこと言ってる場合じゃないでしょうが、とにかくつべこべ言わずについてきて。ちゃっちゃと冒険者登録しに行くわよ」



    ◇



 無理でした。

 思い立ったが吉日、俺たちは俺の新たな所属先を探すべくこの町中の全てのギルドを訪れた。しかしどこに行っても昨日の『ガリバーの船』での話は伝わっていたらしく、身分詐称の疑いのある俺はギルドに入れてもらえなかった。


「詰んでるのか……俺?」


「詰んでるわよーー!!」


 もはやどうすることもできないという状況に二人して肩を落とす。なんならフェアリスは声を荒げて叫んでいた。

 めちゃくちゃ街中なのにやだなあ。連れだと思われたくないなあ。

 それにしても、である。作戦その1である冒険者になっちゃおう作戦が失敗に終わった今、俺の中にはもう密出国作戦というがっつり犯罪のプランしかなくなってしまった。もしや、もうこれしかないのか?俺はもうこの手を真っ黒に染めることでしか目的を果たせないのか?

 猛烈に不安になりフェアリスを見ると、いつのまに取り出したのか、三冊ほどの本を頭、胸、腹にかぶせ、仰向けになって寝ていた。


「おーいなに寝てんだよお、フェアリスも一緒に考えてくれよ」


 そう言いながらフェアリスの方に近づいていく。すると自然、その体に掛け布団のように被せてあるほんの表紙が見えてくる。いや、本のように見えたそれは本ではない。

 そう、彼女はお気に入りのアイドルの写真集を布団にして寝ていた。


「あの、何してんの?」


 俺は恐る恐る尋ねる。


「これはクリス君のファースト写真集、『煌めき』よ。ちなみに頭に乗ってるのが通常版、胸のがライブ限定販売版、お腹のがクリス君直筆サイン入り写真集よ」


「普通顔に一番いいの持っていかないか?」


 あまりの動揺にそんなどうでもいいことを聞いてしまう俺。


「顔につけたら汚れちゃうかもでしょうが!」


 とのことだった。心底どうでもいい。

 その後もフェアリスは今後どうするのか考えているのか、写真集でふて寝しながら黙ってしまう。そうなると俄然俺はすることがなく手持無沙汰になってしまう。

 空を見上げてこれからのことを軽く思案する。

 船で国外に渡れたとして、そこから先はどうなるのだろうか。変態マントがまだそこにいるとは限らないし、そもそも見つけたとて俺たちに捕まえることができるのか?ふざけた格好にふざけたことを抜かす、ふざけた目的の変態だが、只者ではないのは確かだ。あの本格的にふざけた魔法の力といい、本当に得体のしれない奴である。

 そんなくだらない将来の不安を考えていたからだろう。俺は真横から走ってくる人影に気が付かず、またその走ってきた人影も俺に気が付かなかったのか、俺たちは盛大に頭をぶつけて衝突した。

 最も俺からはぶつかりに行ってはいないので衝突された、と言う感じだが。

 ゴチン、と固いものがぶつかり合う鈍い音がその場に響く。


「痛ってえ!なにすんだよ!」


 俺は豪快な音を響かせた頭をさすりながら相手に怒りをぶつける。ちなみに相当痛かったので、両の目からはすでに涙がにじんでおり、はたから見たら転んで泣いているかわいい女の子に見えたことだろう。


「ご、ごめんなさい。急いでてつい」


 衝突相手は早口でそう言って謝ってくる。にじむ涙を拭きとり相手を見ると、そこには俺と同じくらいの背丈の少年が俺と同じように頭をさすりながら立っていた。

 声は成長期をまだ迎えていないのであろう、少し高めの幼い声。顔は女の子だといわれたらギリギリ納得してしまいそうなぐらい中性的で、美少年、と言うのが一番合っていそうな少年だった。

 

「そんなに急いでどこに行こうっていううのよ、少年」


 いつの間に起き上がったのやら、フェアリスが隣に並び少年に尋ねる。まあ結構大きな音でぶつかったし、その音で気が付いたのだろう。まだ頭痛いし、たんこぶできたかもしれない。

 突然の出現に少年は少し驚いたようだったが、フェアリスの格好を見て何かに気が付いたのか、またもや早口でまくし立てる。まるで何かに追われてでもいるかのように

 

「もしかしてお姉さん冒険者ですか?」


「ええ、そうだけど。それがどうかした?」


 少年はそれを聞いて覚悟を決めたような顔をする。

 ああ、予感だ。嫌な予感だ。これからまたなにか面倒ごとに巻き込まれそうな、そんな予感がする。

 少年は意を決して息を大きく吸い、そして口を開く


「僕を匿ってください」


 冒険者になり切れない俺の、冒険とも呼べない何かの幕が、とうとう切って降ろされた。


 


 




 


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