『もしもあの時、僕が20歳だったなら』

ひまえび

第1話……プロローグ

★ 『僕の“推し活”は、あの日、終わったはずだった』


前書き

※ここでは、2025年のある朝、主人公が目覚めると兄と入れ替わっていたという“すべての始まり”が描かれます。その日を境に、運命は大きく動き出す――。


https://kakuyomu.jp/users/happy-isl/news/16818622172154424360


タイムリープ以前の人物相関図です。


https://kakuyomu.jp/users/happy-isl/news/16818622172362090550


タイムリープ以後の人物相関図です。


2025年5月12日。

しとしとと降る雨の音が、窓辺にたたき続けていた。

僕はノートPCの前で、ただ呆然と座っていた。


画面に映るのは、かつて僕が全身全霊で応援したアイドルのニュースだった。


「元・星見坂46 小坂真瑚、俳優・八代光輝との結婚を発表」


その文字を何度読み返しても、胸の奥の痛みは薄れなかった。


彼女は確かに幸せになった。けれど、それでも、心のどこかがぽっかりと空いたままだった。


こさかまこ──いや、小坂真瑚。


2013年の夏、小学6年生だった僕は、兄の部屋のPCで偶然ひとつの映像を見つけた。


《星見坂46研究生ユニット「ルミナス7」初披露映像》


その中央で踊っていた少女。白いワンピースがひらめき、笑顔が光る。


彼女の名が“真瑚”だと知った時、なぜだか胸が高鳴った。


その日から、僕の人生は変わった。


彼女を“推す”ということが、僕の毎日を色鮮やかにしてくれた。


だが、それは画面の向こうの応援にすぎなかった。


チケットも遠征も許されず、小学生の僕にできることは限られていた。


隣で大学の課題に没頭する兄が、羨ましかった。


「僕があの年齢だったら、どれだけのことができただろう」と何度思ったか分からない。


──ならば、もし僕があのとき、20歳だったなら?


そんな願いが、ある日突然、現実になった。


激しい頭痛とともに、世界が歪み、意識を手放したその先。


目を覚ました場所は、10年以上も昔の、あの夏の部屋だった。


鏡に映った顔は──兄のものだった。

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