【前編】嫌われ者と、同級生たち

 ◆


 俺はM(仮名)、12歳。中学生だ。

 そして、周りからは基本、”ヤバいアホ”って思われてる。


 縦にデカい、目つき悪い、声低い、せすぎてて気味が悪い……とかって、昔から怖がられて生きてきた。



……お化け屋敷のラスボスか何かか? 俺は。



 声変わりして、数少ない友達には


「ビターな仕上がりやな~」

「最後まで威圧感たっぷりやね」


とかって言われた。


……おやつ感覚で楽しむなよ !!


 いや、怖がられるよりはマシだけどさ……話がれた。



 んで、実際アホだから、色々やらかした。

 最初のやらかしをきっかけに、知らない奴らが続々と喧嘩ケンカを売りにきた。

 逃げても逃げても追っかけられて。でも痛いのは嫌だから、全員返り討ちにしてた。


 それがダメだった。



 気がつけば、周りから不良ヤンキー扱いされていた。身近な人たち以外には嫌われて、遠ざけられてる。それはもう、めちゃくちゃに。

 学校さぼったことも、夜遊びしたこともないのに! 何で !??



 俺はプロ野球選手になりたいんだよ! 喧嘩の強さとか面子めんつとか、どうでもいいのに !!

 どいつもこいつも暇だな !? 勝手に怖がったり、まつり上げたり !!!



 挙げ句、


「目が合っただけで女子が泣き出す」


って何なんだよ !? 可哀想に !!



 あ、何やらかしたの? って気になるだろうけど、また今度。

 それを書くには、この余白はせますぎる……ってことで。



 ◇


 さて、お遊びはここからだ。

 ある日の昼休み。俺は小用を済ませて、教室に戻ろうとした。


「ゑ?」


 何か見た。あれは……自力で動く、提出物の山?

 などということはない、落ち着け。提出物を山盛りかかえた女子――うちの学級クラス委員のK――が1人、こっちに歩いてくるだけだ。


 それ同じ組クラス全員分? とか、前見えとん? とか色々気になるけど、問題はそこじゃない。



 ”何でアイツ1人なん?”、それが問題だ。



 で、その答えはすぐ分かった。向こうから勝手に来る。


「Kさん、手伝おか?」

「いや俺が手伝うで」

「は? ここは俺が」

「いやいや俺が」

「いや俺が」


 ………

 ……

 …



 同じ組の野郎どもだ。Kの後ろで揉めてる。最近はずっとこう、”誰がKを手伝うか”で揉めてる。

 で、迷惑なことに……彼らは殴り合いまでおっ始めて、廊下をふさぐ。野郎の喧嘩ケンカなんか、犬も食わねぇよ……


 決着を待ってたら日が暮れる。かといって、他の女子が手伝うわけでもない。

 だからKひとりで運ぶ羽目になってる、ってわけだ。美人って大変なんだなぁ……み○を。



 ……いやアホくっさあ! ラブコメかよ !?

 現実見ろ現実。どいつもこいつも、俺より頭いいんだろ ??


とか偉そうに言ったけど。じゃあ俺はというと……いつも見て見ぬフリだ。他人のことは言えない。

 だからって、巻き込まれてたまるか!



 俺はいずれ、◯神○イガースの4番打者バッターになる男。

 かかわるだけ時間の無駄むだだ、こんなバカさわぎ。



……というわけで、ゴメン! 今日も無視して通ろう。


「K、それ手伝おか?」



……ん !?



 ◇


「ええの? ありがとう!」


 ありがたいことに、Kは俺とも普通に接してくれる、いい奴だ。


……だが、今問題なのは、その後ろだ。


「はぁー !? おいM、抜け駆けとか卑怯やぞ !! 」

「「「『せやせや、卑怯や !! 』」」」


 ああクソ〜ッ、何で声かけた !?

 嫌われ者のくせに! 揉めるだけ、って分かってたのに !!


……いやそうか。こいつらうるせぇくせに、何もしねぇからだ。

 俺、腹立ってたんだ……


 なら、ちょうどいいや。言いたいこと、言わせてもらおう。大きく息を吸って……


じゃかまっしゃあ! 誰のせいじゃ誰のぉ !? ダラッダラしょーもない喧嘩しよって !! お前らアホみたいにめとぉ場合か、あ゛ァ !? またK1人に全部持たすんか !? んな暇やったら、とっとと運んだれやボケェ !!! 」



 ヤバい……何年ぶりだろうか? ってレベルの大声を出しちまった。

 心臓がバクバク言ってる。



 落ち着け、声をおさえて……


「……じゃんけんであと2人、10秒で決めろ。10秒や、それ以上は待たん。ええな?」

「「「『ハイッッ !! 最初はグー、じゃんけん……』」」」



 あ゛~゛、 怖゛か゛っ゛た゛ぁ゛〜゛……



 よかった、何とかなりそうだ。こういう時、嫌われ者って便利だよな?



 ◇


 その後、じゃんけんで決まった2人が来た。彼らと俺とK、4人で提出物を分けて、無事に職員室まで運べた。

 で、その次の日。放課後に、また提出物がある。


「Kさん、手伝おか?」

「いや俺が手伝うで」

「は? 割り込むなや! ここは俺が」

「いやいや俺が」

「いや俺が」


 ………

 ……

 …



 ま~た揉めてるぅ~……


「昨日の今日やぞ? もう当番でも決めろや」

「それええやん、ナイスM!」


 思わず一言、言っちゃってから気がついた。何も”ナイス”ではない、日直でいいだろ!


「はぁ……帰るか」

「待てM、どこ行くねん?」


 なんか呼び止められた。


「は? 何 ??」

「順番決めるぞ!」

「えぇ……そんなん、やりたい奴で好きにしたらええやん?」

「はぁ? 言い出しっぺが入らへんとか卑怯やぞ!」

「せやせや、お前も早よ入れ !!」


 あ、キレてる……


「えぇ~……知らん……何それ……怖……」


 こいつら面倒くさいな~……



 ◇


 結果発表~!


「あーっM、明日いきなりとか卑怯やぞ! 俺と代われ !!」

「あ゛? 巻き込んどいて何やねん ??」


……ハッ、声に出てた!


「まあまあ、2人とも落ち着いて」

「はぁ? お前が仕切んなや! ここは俺やろ !! 」

「いや俺が」

「やから割り込むなや !! ここは俺が」

「いーや俺が」


 ………

 ……

 …



 そんで、またこれだ……頭に来た。


「もうええわ、しょーもない ! 帰る !! 」

「は!? 順番は」

「知るかッ! 俺抜きで勝手にせえや、そんなもん !! 」


 まとめておいた荷物を持って、さっさと教室を出よう。後ろの引き戸をバーン! と開けて……いやうるせぇな !?


「「「『やかましいッ!』」」」

「すまん……」


 あけましたら閉めましょう。今度は静かに……そっ閉じ、って奴だ。

 はぁ……さっさと帰ろう。特に何もしてないけど、今日もお疲れ~……



 ◇


 バカが治る薬って、どこにもないらしいな。今めちゃくちゃ欲しい、箱で。

 俺も飲みたいし、それ以上に、周りの野郎どもに飲ませたい――――



――――――――――――――――――――

【追記】応援ありがとうございます!

(2025/11/03)


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