第24話 悪魔的

 「ぐぁぁぁぁ!」

 「猛くん!ちょっと待って今回復魔法と再生魔法をかけるから!」


 戦士さんの腕が潰されたのを見た、魔法使いちゃんは急いで魔法を唱え始めた。

 その間、先輩は追撃をする事なくじっとそれを見つめていた。


 「回復させてよろしいので?」

 「あぁ、いいぜ?あの魔法使いがどの程度なのかも見たいしな」

 「ちょ、何を言ってるんですか!」


 悠長なことを話す先輩に流石の私もこれは黙っていられなかった。


 「今のうちに倒しちゃったほうがいいじゃないですか!」

 「大丈夫だ」


 何が大丈夫なのだろうか?

 確かにあの牛顔の悪魔は強いがそれでも、勇者さんにもし、デザイアゴーレムがもう倒されていることを知られればまずいと言うのにやっぱ馬鹿なのかもしれない。


 「坊ちゃんあの方は?」


 そんな時だった。

 牛顔の悪魔は私の方を指差して先輩に質問をした。

 

 「あーリスだ。俺の後輩。自己紹介しといてやれ」


 後輩だと言うのならば、その後輩の名前くらいしっかりと紹介してもらいたいものだ。

 最近なんて、リスの方が浸透し始め、前までアイリスと呼んでくれていた人達でさえ、リスと呼び始めているのだ。

 だが、先輩にしては珍しく、律儀に挨拶を促してくれた。


 「もっもっもっ、坊ちゃんの後輩でしたか。これは失礼しました。私は、ソロ様の専属執事隊の執事長をやっております。モラクスと申します」

 「あ、えっと先輩の後輩のアイリスです」


 深々と頭を下げる牛顔の悪魔さんに対して、私もお返しに頭を下げた。

 それにしても専属執事隊とは何なのだろうか?

 先輩の癖に執事がいるってことだろうか?と言うか悪魔なのに執事??


 「これで大丈夫だよ猛くん」

 「クソが!あの野郎、ぶっころしてやる!」

 「おや、終わった様ですな」

 「あ、しまった」


 最大のチャンスを思いっきり逃してしまった。というか先輩によって意図的に逃してしまったっぽいな。

 だってこっち見てニヤついてるし。


 「先輩わざとうし、モラクスさんに紹介させましたね」

 「さぁ?何のことだ?」


 こいつ!

 絶対わざと私が気になるようなワードを出すと思って牛顔の悪魔に自己紹介をさせたな!


 「先輩のそういうところ死ぬほど嫌いです」

 「俺は自分のこう言うところ好きだぜ」

 「もっもっもっ、仲睦まじいですなぁ」


 どこを見たらそう思うのだろうか?そもそもこの悪魔のせいだと言うのにこの悪魔は悪魔で全く反省すらしていない。


 「テメェらぁぁぁ!」

 「おやおやうるさいですなぁ」

 「あ、すごい腕治ってますよ先輩」

 「うるさい見たらわかるだろ」


 どうやら魔法使いちゃんの腕は相当なものらしい。

 牛顔の悪魔に潰された戦士さんの拳は元の形に治っていた。

 それには流石の先輩も驚きを隠せないようで「へぇ」と感心していた。


 「流石だな。だてに勇者パーティーを組んでないってか」

 「もっもっもっ、それに比べてあの貧相な男は何ともパッとしませんなぁ」


 貧相て、戦士さんも十分・・・というかかなりガタいがいい人なんだけど。

 まぁ明らかに挑発してるのが見え見えなんだけどね。


 「ッ!ぶっ殺してやるよ! 危険な香りオーバードラッグ!!!」


 先程、出ていた赤い湯気が再び湧き出したかと思えば、戦士さんの肉体が更に大きくなり、肌も赤く変色し始めた。

 それは奇しくも、先輩が召喚した悪魔と似た風貌を持つ怪物へと変貌した。


 「フゥゥゥゥ〜」


 吐息は黒く、地面は戦士さんの重さに耐えきれなくなりひび割れ、一帯の空気はピリつき、その凄みに私は愚か、冒険者さん全員がそのプレッシャーによって、身動き一つ取れなくなっていた。


 「イマノオレハ、サッキマデトハチガウ。コウカイスルンダナ」

 「もっもっもっ、やはり三下も三下。セリフまで小物ときた」

 「ウガァァァァ!」


 大地を一歩一歩歩くだけで地面はヒビ割れていき、その勢いで思わず飛ばされるんじゃないかと思うほどの風が巻き起こった。


 「オマエカラシネェ!!」

 

 パンパンに膨れ上がった赤い腕を大きくのけ反らせ、そして牛顔の悪魔に向かって振りかぶった。

 それはさながら大砲のようで、振りかぶるだけで空気が音を立て始め、牛顔の悪魔に直撃した瞬間、ドゴンッと人から出ていい音とは思えない音を立てていた。


 「ふむ。先程よりは威力も速度も断然いいですなぁ」

 「ナ・・・ニィィィ!?」


 だけれど、悪魔はそれで倒せるような存在ではなかった。

 確かに威力は先程よりも、それどころかあのデザイアゴーレムに以上だった気もするのだが、牛顔の悪魔は一歩も動くことなく、それを受け止めていた。


 「もっもっもっ、私の戦闘スタイルは相手の技を受けた上で、私も技を打つと言うものでしてね。これくらいの威力はよく喰らうのですよ」


 つまり、相当打たれ強い悪魔ということか。見た目からは想像がつか、・・・いやまぁガタいいいし、想像はつくか。


 「さてと、次は私の番でございますね?」


 ガシリと戦士さんの頭を両腕で牛顔の悪魔は掴み挟んで持ち上げた。

 戦士さんの方も必死に動いて抵抗しているのだが、全く解けるそぶりはなかった。


 「グァ、ハ、ハナセシ、ヤガレ!」

 「もっもっもっ、それは出来ない相談ですな。なんせ、我が主人に逆らう不定の輩ですからな。少し、教育をしてあげましょう」

 「マッ!!」


 戦士さんが言うよりも早くだった。

 牛顔の悪魔を中心としてそこから、嵐かと勘違いするほどの風と雷が発生し、近くの建物はおろか冒険者の何人かは何処かへと消えていった。


 「か・・・はっ!」


 ドサリと音を立てて地面に倒れ込んだ戦士さんはそのまま、時を待たずに起き上がってきた。


 「俺は・・・今まで何を?」


 なぜだろうか?

 先程までに感じていたプレッシャーが全く感じられなくなった。


 「あの、先輩。モラクスさんは今何をしたんですか?」

 「あいつの能力だよ。あいつはああやって触れた相手を物凄くまともな常識人に変える力があるんだよ。"常識変換"ってのがな」


 何故、それを自分にやらないのだろうかと言う疑問があったが、取り敢えずそこは置いておく事にした。

 つまり、今の戦士さんはさっきまでの暴力に物をいわす暴君から、まともな倫理観と常識を持った一般人になったと言う事なのか?


 「あれ?でもそれって・・・」

 「あ、ああああああああああああ!!!」


 戦士さんが突然、頭をかかえてしゃがみ込み、声を上げて叫んだ。

 そうだ。そうなのだ。

 一見、悪魔とは思えないほど人に救いを与えるような能力に思えたが、これは悪人にとってはとてつもなく非道な行いだ。


 「ま、こうなるよな」


 当たり前だが、先輩もそれを理解している。

 悪人と言うのは一般常識の一部が欠落している人達だ。

 そして牛顔の悪魔の能力はその欠落した一部を治してくれる能力。

 つまり、それは一部が欠落しているから出来た行いを忘れる事なくまともな人に変える力だ。


 「そんな事になったら、どんな人でもああなりますよ」


 戦士さんが今までどんな事をやってきたのかは分からない。

 それでもその行いに対して、今の戦士さんにとってはあまりにも重い罪になってしまう。

 

 「どうですかな?常識的な倫理観を手に入れた今の貴方にとって過去の非道はどう映りますかな?」


 全身に寒気が走る。

 牛顔の悪魔は笑いかけながら戦士さんに話しかけているが、あれは決して優しさなんかじゃない。

 あれは誰がどう見たって人の苦しむ顔に快楽を覚えているイカれた奴の表情だ。

 今まで先輩が悪魔を召喚したのは何度も見てきたが、始めて私は悪魔と言うものを恐れているかもしれない。


 「ありゃもうダメだな。モラクスのおもちゃになっちまった」

 「魔の儀・・・"汝は偉大なる御方への供物となり永遠を生きたまえ。"」


 しかし勝利を確信していた私達は一瞬の隙を相手に見せてしまった。

 魔法使いちゃんが呪文を唱えていたのを見逃してしまったのだ。

 

 「ひやぁぁぁぁぁ!?」

 「熱ッ!」

 「チッ!モラクスッ!!」

 「もっ、もっもっ、こ、これは流石の私でもぉぉぉぉ!!!」


 戦士さんから突然、発せられた身を焦がすほどの熱は牛顔の悪魔を簡単に燃やし尽くし、跡形もなく消し去りながら街中へと飛び火し始めた。


 「な、何ですかアレ!!?」

 「魔の儀。依代を媒介に古の怪物の一部を呼び出す魔法だ。あのガキがそのレベルの魔法を使えるとは想定外だ畜生が」

 「裕也くんの為なら私はどんなことでもやる。たとえそれが仲間を犠牲にすることであっても」


 その時、私が見た魔法使いちゃんの顔は、勇者さんに可愛らしく話しかけていた顔つきとは打って変わって、目のハイライトが消え表情のない全く別のものへと変わっていた。

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