第16話 聖なる者

 「聖女さまだったの!?」

 「違うし!あくまで王国のじじぃ共がそう言って来ただけだし!」


 少し聖女と呼ばれるのが恥ずかしいのか、夏未ちゃんは頬を真っ赤に染めながら全否定して来た。

 だが、なるほど。だから先輩は気持ち悪いと言っていたのか。


 「多分、本当に聖女としての適性があるんだよ。その証拠に闇の者である先輩は弱ってるし」

 「オイコラ、誰が闇の者だよ」


 確か、悪魔や魔族といった闇に準ずる者達は皆、軒並み聖女や天使といった光の者に対して、非常に弱いと聞いた事がある。


 「先輩・・・悪魔悪魔呼ばれて可哀想だと思ってたけど、本当に悪魔だったなんて・・・」

 「ちげーって言ってんだろうが!!コレのせいだよ!コ・レ!!」


 先輩は両指にはめている十個の指輪を見せて来た。これが何なのだろうか?


 「この"ソロモンの指輪"はなぁ!悪魔を召喚する力を与える反面、光魔法や天使、聖女とかそっち系の奴らに弱くなる呪いもあるんだよ!」

 「へーつまり、あんたは私には勝てないってわけだ」


 さっきまでキレてた夏未ちゃんは、今度は逆にイタズラな笑みを浮かべて、先輩の前の席に座った。


 「ほら、どう?目の前に来てやったけど?」

 「ぐっ、」


 夏未ちゃんが前に座った瞬間、先輩の体は一瞬だけ、ぐらっと体をふらつかせ倒れそうになった。


 「テメェ、調子なんじゃねーぞ・・・。その気になれば、お前なんかチョチョイのちょいだからな・・・」

 「目の前に来ただけで倒れそうなのに何言ってんの?」


 夏未ちゃんも段々調子に乗って来たのか、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 側から見たら、ただイチャコラしてるようにしか見えないんだけど、先輩が苦しそうなので流石にもう止めることにした。


 「夏未ちゃんもその辺にしない?そろそろ先輩が倒れそうだからさ?」

 「・・・チッ、まぁいいや。少しは気が晴れ、」

 「夏未!!」


 その時だった。ギルドの扉を大きな音を立てて彼女の名前を呼びながら、一人の男性が入って来た。


 「うわ、最悪・・・」

 「あれ?何で勇者さんが??」


 ギルド内は入った勇者さんは、食事中だった冒険者達を押しのけながら真っ直ぐにこちらに向かって早歩きできた。


 「夏未・・・良かった心配したんだよ?」

 「別に私の勝手、」

 「そんなのダメだ!!」


 ギルド内に響き渡る声で夏未ちゃんの声を勇者さんは遮ってきた。

 夏未ちゃんも思わずそれによって押し黙ってしまっていた。


 「君は僕のパーティーメンバーなんだよ!?なのに僕に何も言わずに行くなんて、どれほど心配したと思ってるんだい!?」


 何だろう何故かわからないけど、あの勇者さんには優しいという印象よりも怖いという印象の方が強い。

 もしかしたら、先輩ならこの答えを知っているだろうが現在、先輩はアメーバのようになって動く事すら出来ない状態になっている。

 相当無理していたのだろう。


 「よぉ、今朝は世話になったな坊主」

 「君達は?」


 いつの間にか、私達を囲うようにして何人かの冒険者達が立っていた。

 その内の一人が勇者の肩を掴んで無理矢理後ろを振り向かせた。


 「今朝、お前の仲間の一人に殴り飛ばされた男だよ。そのお礼参りに行こうとしたら丁度、お前らがいたからな」

 「・・・その責任をとれ、とでも言いたそうですね?」

 「話が早いじゃねーか。歯ぁ食い縛れよ」


 これはまずい状況に陥った。

 普段はラーナさんや先輩が抑止力となっている冒険者達だが、今ラーナさんはここには姿がなく、先輩も聖なる力でアメーバ状態だ。

 暴走した冒険者達を止める人がいない。


 「あ、あのギルドでの私闘は禁止されて、」

 「何か言ったか?」

 「いえ、何も言ってません」


 無理無理無理。ラーナさんならいざ知らず、私なんかが彼らを止める事なんて、出来るわけがない。


 「ん?・・・そっちの金髪の女も確か勇者パーティーにいたな」


 夏未ちゃんを見て、冒険者の一人が手で顎を触りながらニヤニヤし始めた。

 他の冒険者達もその意図に気がついたのか、下卑た笑みを浮かべ始めた。


 「おい坊主、いい提案があんぜ?」

 「碌な提案ではなさそうだね」

 「簡単な話だ。俺達にそこの女を好きにさせろ。そんなけでお前は俺達にボコされずに済む」


 あの戦士の人一人に負けた人達が、何を言ってるのだろうと思う人もいるかも知れない。

 しかし、あの時と今とでは冒険者の人達の状況も違う。

 そもそも冒険者の強みは事前に準備をしておけると言う事だ。事前情報があり、しっかり準備を行える事は相手の二手、三手、上にいけるという事だ。

 だから冒険者は強い。と王都のギルド研修で学んだ。そして今の彼らは武具も防具も完璧に整えられている。反対に勇者さんは武器も何も持たずにいる。

 いかに勇者と言えど、これでは勝ち目は薄いだろう。


 「へへへ、さぁどうする?」

 「取り敢えず、この女は俺達が先に遊ばせてもらうぜ?」

 「ちょ、勝手に決めんな!」

 「いてッ!」


 夏未ちゃんは肩に触れて来た大柄な冒険者を裏拳を使って殴り飛ばした。

 と言うか夏未ちゃんも意外と力があるんだ。


 「いてて、へへっ気が強くていいじゃねーか。余計に欲しくなったぜ!」

 「痛ッ!ちょ、」


 起き上がった大柄な冒険者は夏未ちゃんの腕を掴んで無理矢理、自分のところに引っ張ってきた。

 流石にこれは見過ごせないと思い、声を上げようとした瞬間だった。


 「おい」

 「あ?お前、いつの間にッ!?ゴハッァァァァ!!」


 大柄な冒険者は突如、自分の眼前に現れた勇者さんによって、ギルドの壁を突き破って空の彼方へ飛んでいった。


 「夏未無事かい?」

 「ッ、こんなの何でもない」

 「テメェよくも俺達の仲、」

 「黙れ」


 周囲に響いたその声で冒険者達は一斉に押し黙った。

 それもその筈、勇者さんから発せられた声色には明確な殺意が籠っていた。


 「"天装"」

 「うわっ!?」「何だ!」「眩しっ!!」「攻撃か!!?」


 天装、その一言と共に眩い光の柱がギルドの天井を突き破って勇者さんに降り注がれた。

 目を開けていられないほどの光に誰もが混乱した。そして暫くして光が消え、皆んなが目を勇者に向けるとそこには、金と白銀の鎧で身を包み、手には剣が収納されている銀の盾を持った勇者が殺意の籠った冷たい目で冒険者達を睨みつけていた。

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