第5話
「推し活ってのは、その推し……俺にとっちゃ汀ちゃんだな……、推しの誰かと自分の間に明確で強固な境界線を持ってるべきなんだよ。『推しに自分の事を認識して欲しい』『自分が推しにつぎ込んだ金額の分だけ、推しから自分だけへの見返りが欲しい』という欲を持ってしまって、境界線を曖昧にしてしまうヤツ等が多すぎてイヤになる」
大量の蝉の声を背負いながら光本は滔々と語りだす。背後には濃い緑を湛える森、前方には水平線から波を運んでくる青い海。その海と光本の間には砂と土と岩で出来た地面の突端、そして、その上に一人の男。
「その点、あんたは立派に境界線を明確に強固に守っていた。そこは評価出来るよ。偉い。推しにあんた自身を認識してもらおうって姿勢はゼロだ。あれだけつぎ込んだ金への見返りを推しの子に求めたりもしていない。うん。推し活とは自己完結できるスタンスが美しいし、正しい。行き場のない推しへの愛が捻じくれてSNSなんかへ向けば誹謗中傷に堕ちてしまう事もある。推しを傷つけるなんてのは、下の下。最も卑しい推し活だね」
海面までそれなりの距離がある地面の突端、つまりは崖の上で、光本は男に話し続ける。足元には煙草の吸殻が二本。三本目の煙草をくゆらせながら、光本は持論を展開する。
「ミリア……、あんたがそう名付けたごく普通の大学生の女の子は、不幸にもあんたの目にとまってしまい、投資家であるあんたはその持っている資本にものを言わせ、練った計略に彼女をハメてアダルトビデオに出演させた」
波の音と蝉の声が風でかき混ぜられる空気の中に光本の声が差し込まれ続ける。
「うちの八木橋がお宅にお邪魔した際には失礼したね。大量の段ボール箱が積み上げられたあんたの家の玄関、無造作に開いていた一つの段ボール箱から覗かせていたその子のビデオディスクのパッケージが八木橋の目に留まったのは我々にとって幸運で、あんたにとって不幸だったな」
光本はチラと後ろに控えている八木橋に目をやる。
「八木橋は馬鹿で独身だからね。大量に並んでいるそのディスクのパッケージの背表紙に見えたその女の子をかわいい、見たい、欲しい、と思ってしまった。それで、一つ譲って欲しいとあんたに」
光本の背後で八木橋は額に手を当てる。目を覆おうとした手を直前で額にやった形だ。
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