召喚獣マッチングアプリ ~召喚獣を狂わせる魅惑の稀血で次々にマッチングが成立して伝説級を多頭飼いすることになった件~

黒井カラス

第1話 魔術学園からの使者

「服従しろ」


 足で押さえ付けたモノに向けて、そう迫る。

 額に一対の角を生やし、赤い肌をしたその鬼に向けて。

 どうやらこいつも幻獣という奴らしい。


§


「僕、魔術学園の者です」


 玄関先に立っていたのは、同じ歳くらいの男だった。

 見たことのない学生服を着ていることから、この辺の高校に在籍しているわけではなさそうだ。

 わざわざ遠方から、それも夜中に来て、出てきた言葉が魔術学園? 理解不能、まるで未知との遭遇だな。


「新手の宗教勧誘か?」

「違います」

「悪いが神など信じていないし必要もない。俺は誰の指図も受けないことにしているんでな」

「だから、違うと言っとるでしょうが」

「じゃあなんだ?」

「だから、魔術学園の者ですって。魔術師です、魔術師!」

「その設定はいつ決めたんだ? 昨日?」

「設定じゃありません、本物です! あの! 話が噛み合わないんですけど、もしかしてなにも知らされてないんですか?」

「来客があるとは聞いてる」

「そう、それ! それ僕のことです!」

「自らを魔術師と名乗る頭の可笑しい不審者が来るとは聞いてない」

「人を不審者扱いしないでください! ――頭が可笑しいって言いましたか!? 今!」

「失礼。頭がおめでたい不審者と言い直そう」

「大して変わってないじゃないですか! 相変わらず不審者だし!」

「これから人が来るんだ。そろそろ帰ってもらえないか?」

「だ・か・ら! それが僕なんですってば!」


 玄関先でそんな下らない押し問答をしていると。


「こらこら、その辺にしておきなさい」


 廊下の奥から爺ちゃんが姿を見せた。

 両手には盆、その上にはお茶。


「驚いた。本当に客人だったとは」

「さっきからずっとそう言ってましたけどね、僕」

「さぁ、お客人。中へどうぞ。精一杯のおもてなしを」

「もう遅い!」


 不審者改め客人を招き入れ、爺ちゃんと一緒に客間に案内する。

 見事な掛け軸と、まだ微かに残る藺草いぐさの匂い。障子を開けば庭の池が見えるこの部屋は爺ちゃんの一番のお気に入り。

 ここに他人を入れるのは少々抵抗があるが、客人とあらばしようがない。

 不審者なら絶対に入れてないところだ。


「改めまして。魔術学園からの使いで参りました。沙花堂雅さかどうみやびです」

「話は聞いております。この度は転校を快く承諾してくださり……」

「待った。どういうことだ? 転校? 魔術学園とやらにか?」

「えっと、話してないんですか? 彼に」

「えぇ。こやつにはなにも」

「な、なぜ」

「事前に話すとこやつ、なにかと理由をつけてこの家を出て行かないので」

「話していようがいまいが、俺はここを出るつもりはないが?」

「この有様で。ならば魔術学園側から事情の説明と説得をしてもらおうかと」

「そうですね」


 しようがない、とでも言いたげな風な顔をして沙花堂は座り直し、こちらを真っ直ぐに見た。


「いいですか? 逢澤くん。逢澤桜世あいざわおうせくん。キミはいま、普通の人には見えない奇妙な何かが見えるはずです」

「……あぁ」


 たしかに、見える。

 ここ最近の話だ。他人には見えない、動物たちが見えるようになった。

 最初は幻覚かとも思ったが、その不可視の動物が動かした物を他人も認識していたことから、どうやらその線はなさそうだと思っていたところだ。

 俺にしか見えない動物は実在する。


「それは幻獣と言って超自然的な伝説上の生物です。昔から我々魔術師が管理を任されていて、その素質がある者にだけ見ることが出来ます」

「その理屈だと最近になって見え出した理由にならないが?」

「後天的に見えるようになる例は多くあります。キミはすこし事情が違いますが」

「含みのある言い方をするな。言いたいことがあるならはっきり言え」

「それは儂から説明しよう」


 背筋がぴんと伸びた爺ちゃんの声は、今まで聞いたことがないくらい真剣だった。いつものたおやかな声音じゃない。

 そのことがわかってすぐ、俺も同じように背筋を伸ばした。


「桜世。お前は生まれた時から特に幻獣を魅了し引き寄せてしまう体質だった。世はこれを稀血まれちと呼ぶ」

「稀血」

「故に儂はお前が生まれて直ぐ、遠縁に当たる魔術師を頼った。事情を話すとすぐに駆けつけた魔術師は、稀血の特性を魔術師としての素質と共に封印したのだ」

「……その封印が弱まってこうなったのなら、再び同じようにすればいいだけじゃないのか?」

「それは無理だ。その封印術はもう二度とお前には使えん。そういう類いのものでなければ強力過ぎる稀血の特性を封ずることが出来んかったのでな」


 爺ちゃんの言葉に嘘はない。爺ちゃんは嘘を吐いたことがない。

 だからわかる。今の言葉はすべて真実だ。

 幻獣も、魔術師も、稀血も。現実にある。


「そしてキミがこのままこの家に留まるとこの街が壊滅します」

「……ほう」


 どんな言葉が飛び出してくるかと思えば壊滅と来たか。


「面白い。どう壊滅する?」

「すでに見えている通り、キミの周りには幻獣が集まりつつあります。この部屋にもいますよね」


 たしかに、それもいる。

 掛け軸の裏からこっそりこっちを見ている蛇、障子の裏にいてシルエットだけが泳いでいる鯉、天井から垂れ下がっている蝙蝠。

 どれもこれもさっきまで居なかった奴らだ。


「この程度なら人に害はありません。ですが、塵も積もれば山となりますし、もっと強力な幻獣が呼び寄せられてしまう可能性も十二分にある。キミはここを離れて魔術学園に行かなくてはならないんです」

「そこなら俺の体質がどうにかなるのか?」

「断言は出来ません。ですが、すくなくとも街の壊滅を阻止できますし、学園の中なら幻獣は寄りつけません」

「……なるほど」

「受け入れられない気持ちはわかります。ですが」

「いや、いい。受け入れた」

「はやっ!?」

「それで、俺は魔術学園とやらに転校すればいいんだな?」

「は、話が早くてとっても助かりますけど、すごい切り替えの速さですね」

「どうしようもないことに時間を割くのは無駄なことだ。それよりどう受け止めて対処するかのほうが遙かに重要だろう」


 対処のしようがない以上、ここにはもういられない。


「では、最後に改めて確認を。稀血は過去に数件しか報告がない希有な体質です。学園内部に研究機関もありますが、体質改善には時間を要するでしょう。その間、桜世くんには魔術学園の生徒になって貰います。構いませんね?」

「了承した。出発はいつだ、明日か?」

「出来れば。明日にでも――」


 沙花堂の言葉を遮るように、大きな震動と音が響く。

 何事かと立ち上がって障子を開け放つと、その裏で空中を泳いでいた鯉が食い千切られた状態で漂っていた。

 散らばった肉片の向こう側には、池を踏み潰して立つつ異形の巨人が一人。

 その額には二つの角が生え、肌の色は赤。右手に鉄製の棍棒を持つそいつは、どこからどう見ても、あまりにも鬼だった



――――――――――



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