《エンド : 夜を継ぐ者 ― 孤独と赦しの果てに》

yoU

夜が始まる場所で

第1話 エンド

『東京喰種』『昏き宮殿の死者の王』といった作品に影響を受けながらも、

 本作は“孤独と赦し”を軸に、私なりの物語を紡ぎました。


 敬意を込めて、けれど確かに“自分の声”で描いた物語です。


 序盤には影響作の色が強く出ているかもしれませんが、

 物語が進むにつれ、主人公の選択や葛藤を通じて、

“自分自身の問い”へと歩みを進めていきます。


 その変化と深化を、どうか見届けていただけたら幸いです。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「ねぇ、母さん。……“本当に”この話、最後は光が勝ったの?」


「ふふ、また? 本当にこのお話が好きなんだねぇ」


「だって、好きなんだもん。――ね、聞かせて?」


「だって……あの頃はさ、こうして、母さんの声が聞こえるだけで……安心できたんだ」


 シーツの匂い。消毒薬の匂い。いつも聞こえてた心電図の“ピッ、ピッ”って音。

 あれが、僕の“日常”だった。


 それでも僕は、そのベッドの中で、ただただ――騎士に、なりたかったんだ。

 血を吐いても、腕が動かなくても、

 本の中の彼らみたいに、誰かを――母さんを、守れる“強さ”がほしかった。


「仕方ないわね……じゃあ、少しだけよ。――昔々のこと、」


 ⸻


 かつて――

 世界は、闇に呑まれていた。


 魔物。魔王。そして、吸血鬼ヴァンパイア

 夜に蠢く異形たちは、人の血肉を貪り、希望を奪い――

 人間という種そのものを、ゆっくりと滅ぼしていった。


 だが、その時代に一筋の光が生まれた。


 聖なる力を宿す戦士たち――『光滅騎士団こうめつきしだん』。

 彼らは闇を裂く者。

 その一閃が放たれるたび、魔物は叫び、塵と化した。


 しかし――


 魔王だけは違った。

 その存在はまさに“災厄”。

 光すらも飲み込む、黒き王。


 人類は抗い、祈り、七日七晩の果てに――

 たった一人の“神のような戦士”が、光の剣を掲げて魔王を討った。


 そして、闇は退けられた。


 ……ほんの、一時だけ。


 ⸻


「『光滅騎士団』かっこいいー!」


「そうね……でも、あんまり興奮すると体に障るでしょう? 今日はこのくらいで、もう寝なさい」


「はーい……おやすみー」


「おやすみ。――いい夢を」


「……でもね、本当は、光が勝ったかどうかなんて、誰にもわからないのよ。だって――物語の続きを決めるのは、生き残った人間なんだから」


そう、ポツリと呟いた母の声は、眠りに落ちる僕の耳に、静かに溶けていった。


 ⸻


 あの日、光は確かに勝ったはずだった。

 けれど、それはほんの一瞬の煌きに過ぎなかった。

 今――世界を歩いているのは、“夜”だ。


 ⸻


 だが、現実はいつも、物語よりも残酷だ。


 18世紀。太平洋に忽然と現れた伝説の地――『ムー大陸』。

 同時に起きた大地震と地磁気異常。調査隊が目にしたのは、理を超えた悪夢。


 砲弾を笑い飛ばす魔物たち。人の形を模しながら、人ではない“異形”。

 文明の力が通じぬ、“本物の災厄”。


 だがその地には――聖なる力の“核”も眠っていた。


 ムーは同時に、“抗う力”を世界にもたらしたのだった。


 ⸻


 そして現在。

 騎士団に憧れていた、一人の少年が――静かに、息を引き取った。

 夢の続きなど、見る暇もなく。


 ⸻


「――『起きよ』」


 死の淵から、声が響いた。


 (……母さん……また、あの話を……)

 (“騎士団はね、光の刃を持ってたのよ”……)

 (……あれ、なんで……こんな……寒い……)


 凍りつく肺に針が刺さるような痛み。

 血が逆流するような感覚。何かが、体の奥底で“裏返った”。


(……僕は……死んだんじゃ……)


 だが、意識は“無理やり”引きずり上げられた



 ⸻


「お前の名前は『エンド』だ。世界の終わりに生まれた、始まりの素材。

 いいか、これはようやく手に入れた優秀な素材だ……無駄にするなよ」


 体が、勝手に頷いた。


(どこだ、ここは……?)


 立っていたのは、一人の老人。

 その瞳は底なしの深淵。氷のような視線で、俺を“道具”のように見下ろしていた。


「ついてこい。王は――最も深い闇から生まれるものだ」


 拒否は、できなかった。

 まるで糸で吊られた操り人形のように、体は動き出す。


 ⸻


 朽ちた洋館を出て、深い森の中へ。

 森はまるで、世界から色も音も奪ったようだった。

 足元の枯葉がぐしゃりと鳴き、ぬかるみに靴が沈む。

 冷たい夜露が首筋を這い、腐葉土と血のような匂いが鼻を刺す。

 空には月もない。ただ、夜があるだけだった。


「お前には『進化』してもらう」

「まずは屍鬼しきとして、魔物どもを倒し、その存在を吸収するんだ」


(魔物を……倒す?)


「どうした、行け」


 身体が動く。心とは裏腹に、足が勝手に森の奥へと進む。


「そしていずれは……吸血鬼ヴァンパイアとなれ」


 ニヤァ……

 老人の口元に浮かんだのは、狂気と期待が混ざった笑みだった。


 ⸻


 ――けれど、僕はまだ知らなかった。

 この老人が何者で、何を創ろうとしているのかを。


 彼は吸血鬼に憧れ、崇拝すら超えた者。

 “新たな夜の王”を創り出そうとしていた。


 そしてその王こそが、“夜”を継ぐ者となる――僕だったのだ。


  これは、“夜の王”が、“人間でいようとした”物語だ。


 闇に染まった力を持ちながら、

 誰かの手を離せずにいた僕の、

 孤独の果てで、赦しを求める物語。


 光に憧れ、夜を背負った少年の、

 決して救われなかったはずの、

 ――それでも救われたいと願った、物語だ。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 本作は、さまざまな作品から影響を受けつつも、自分なりの問いや想いを込めて書いています。

“孤独”と“赦し”をめぐる物語として、少しでも何か届くものがあれば嬉しいです。


 よろしければ、評価・ブックマークを頂けるととても励みになります。

 感想も大歓迎ですが、どうか優しいまなざしで読んでいただけたら幸いです……。


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