姫様を助けて、村も救う爽快ストーリー

御社を守っている最後の砦の屋敷に『敵』が流れ込むのを感じた。


一刻も早く、姫を連れて逃げなければならない。


自分は夢の中独特の、ここにないものが見える状態を感じながら、


「『敵』が近づいてきます、姫」


と小さい声で囁いた。


姫は、最初はどうやら死のうとしていたらしかった。


声をかけて御社に入った時、護身刀を持って震えていた。


しかし、そんなことをされては自分も後を追わねばならないので、説得したのだ。


姫はまだ幼い。


黒い髪は、大人顔負けに艶々していて長く。切り揃えられた前髪の下には、理知的な黒い瞳が不安に揺れてる。


それなのに、生贄など、この方が望んだ訳ではないのに。


「行きましょう。さぁ、乗って」


自分は黒豹になりながら、背中に姫を乗せた。


この御社も、屋敷も、水に囲まれた土地に建っている。


自分がもっと泳ぎの上手い動物に『変化』出来ればよかったのに、と思いながらも『変化』できることに違和感は覚えなかった。


「姫、落ちないように私と紐で巻いてください」


「いいのだ、捕まりそうになった時は、私はお前から降りる」


強情な姫様だ、本気だろう。


自分はそんなことはさせねぇよ、と思いながら、ざぶんと水の中に入った。


黒豹というのは、意外と泳ぎが上手いのだなぁ、と背中に意識を向けながらスイスイ水の中を潜っていた。


そしたら、どうも自分はペンギンになっているようだった。


凄いじゃないか、自分。


『敵』はまだやって来ない。


ここで、距離を稼いで完全に引き剥がしてやる。


「姫、スピードを出します! しっかり捕まって!」


「む、むぐ!」


今でも速すぎて水の勢いが苦しいのか、姫は返事も出来ないようだった。


しかし、自分は少しでも遠くに行こうと思って、まだ頭の『トサカ』が掴めるペンギンから更に『変化』して、シャチに変わった。


「わわっ! 落ちる!!」


(だから、紐でくくっとけって言ったのに)


姫に舌打ちしながら、まぁ、まだ小さいからな、と思い直した。


カバにでもなれればいいのだが、どうやら黒い色がある生物縛り? らしい。


全く難儀な体質だよ、と思いながらも、姫と同サイズのペンギンよりは速度を上げて、水の中を突き進む。


陸地が近づく感覚を肌で感じる。


草原に辿り着くと、自分は再び黒豹に変わった。


本当は馬がいいんだけど、あぶみもくらも無い状態で、姫が乗れるとは思えない。


「な、なぁ。もぅ来ないんじゃないか!?」


「いえ、草原を抜けて森に入るまでは油断してはいけません」


休憩したいのだろうか、姫の楽天的な言葉に否定で返す。


「姫、お召し物が濡れています。風邪をひかれては困りますので……」


「やだ! このままでいい!」


姫は服を脱ぐくらいなら死んでやる! というぐらいの勢いで水色ベースの、桜がしとどに降り注ぐ絵羽柄着物をギュッとした。


本当に強情だ、可愛くなかったら見捨ててたぞ。


「護身刀とお守りを忘れなければ、私は構いませんよ。さぁ! 乗って!」


姫は服の上から大事な二つを確認して、黒豹である自分の背に乗った。


その瞬間トップのスピードで走り出す。


『敵』の動きは解らないが、自分の走っている草原の見え方が細かく解る。


草の一本一本が、低い視界の中で拡大されて後ろに流れていく。


風を感じて、どんどん速さは増していく。


(夢の中はやっぱ疲れないな)


疲れないのはいいが、今までの感覚ではこのままいけば夢から覚めてしまう。


せめて姫を安全な所に連れて行かねば。


気づくと、草の生い茂る藪に入っていた。


「姫、口元を覆いください。薮の中の虫がつきますゆえ」


「むぅー」


幼い姫には辛いだろうが、耐えてもらうしかない。


薮を抜ければ森の中だ。


危険な動物がいないとは断言できないが、人間よりはマシな筈だ。


自分は森の中に入るとすぐに、木を登った。


「きゃ! 怖い……」


たかだか3メートル程だが、姫は落ちないようにしがみついてくる。


走っていたさっきまでもしがみついていた筈だが、木を登ると体重が更に感じられて、本当に姫が小さくて良かった。


そうじゃよ、ロリコンじゃよ。


しかし、これからどうするべきか。


自分が夢から覚めて姫が一人になったら、こんな森の中で生きていけるとは思えない。


しかし、『敵』以外にも人間は姫を殺そうとするものばかりだろう。


高く売れる護身刀とお守りと着物と、あと『姫自身』を搾取して、それでお終いだ。


まぁ、とりあえず。


「食事を取ってきます、春なので果物があるかもしれません……」


「早く戻ってきてね」


不安そうなところが可愛いね。


その言葉に発破をかけられ、黒豹のまま木をぴょんぴょん伝っていく。


姫の所まで帰れないと困るから、ちゃんと跡もつけておく。


自分は匂いはあまり感じないのだ。


(そうだ、目で探せばいいんだ)


自分はカラスに『変化』して、上から探すことにした。


いや、黒鷲の方がいいな。


目が良いから『敵』が近づいてるかもよく解る。


そう思ったが、そこまではよくわからない。


とりあえず、ベリー系の果物がちらほらあったので、人間になってむしって取った。


やはり、採取系は人間に敵うものはないな。


しかし、ほぼ全裸だ。


姫が気絶でもしたら結ぼうと思ってた、腹に巻いてるサラシのみがある。


サラシだけでもあってよかったと思って、ベリーをたっぷり包んで、黒鷲になって脚で掴んで空を飛んだ。


あまり情報量が多くなって夢から覚めないように、空の青さを見上げるのみにする。


しばらく雨は降りそうに無い快晴だ。


よかったと思いながら、姫の所に戻ると……


《うわぁ、鷲だぁ!》


《タスケテや人間ちゃん》


猿の二匹がキーキー言っていた。


「このものは大丈夫だ。安心しなさい」


「姫、遅れて申し訳ありません。楽しい仲間が出来たようで、嬉しい限りです」


猿とはいえ仲間になったのは良いことだ。


自分がいつまでも居られる訳では無いのだから。


自分は猿の上位でそんなに怖がられない動物と考え、ゴリラになった。


《うわぁ! なんだこいつ! 化け物か!?》


《怖いこわい!!》


この猿ども失礼すぎんかな?


まぁ、無視して姫にサラシに入ったベリーを渡した。


熟してるけど潰れないように硬めのを選んだから、大丈夫だと思うけど、毒とかは無いよな?


「おい、猿二匹。先に食うか?」


《ありがとな化け物》


《優しいとこあんじゃん化け物》


自分の名称は『化け物』で固定されたようだ。


まぁ、間違ってない……か?


猿どもはもりもり食べていて、姫もちょっと食べて安心したようにため息を吐いた。


自分は後で生肉でも食べればいい。


「なぁ、猿。この子を預かってくれる母猿とか、ボス猿とかはいないか?」


《えー! 俺らぁ、そっから独立してきたんだよなぁ》


《なぁ、これからは一匹……もとい二匹で生きていくって豪語して、涙なみだのお別れ会までしたんだぜ!》


「頼む、そこまで姫を連れて行ってくれ。ここからどのぐらいかかる所なんだ?」


《なんだよ! もう決まってるような話ぶりじゃねぇか!?》


《猿の話を聞けよ!》


「私からも、頼む……」


姫が、ポツリと呟いた。


解ってるのだろう、自分と長くは居られないと。


猿どもは、二匹でコショコショ話してる。


こいつらも、女の子に弱いといいんだが。


「姫。『敵』を蹴散らしたら、真っ直ぐにお守りに戻ります」


「そんなのいいから、側にいてよ……」


姫が腕を伸ばす。


抱っこしての感動シーンなのに、ゴリラは如何なものかと思うし、ここは黒い犬になって、抱きしめられると同時に姫の涙を舐めてあげる。


「まったくお前は……人間の姿でもよかったのに」


あっ! そっか! しまったな。


でも絵にならないから、いいよ。


負け惜しみじゃ無いよ。


このままここに居ると別れが名残惜しくなくなるから、風と共に行くことにした。


『変化』できるという確信があった。


自分は『黒龍』になって、蒼天に昇って行った。


かぁっこいい!! てか、これで姫を乗せて逃避行すれば良かったぜぃ!


あ! しまった! かっこいいのはいいけど場所がバレる!!


これは、皆殺しにしなきゃだなぁ!!


夢特有の残忍な思想で、未だに水辺を探してる『敵』を襲撃する。


だが、こういうのは雑兵より、大将を倒さなければならないんだ。


身体全体でぶつかって、雑兵を散らばらしながら、来た道を戻っていくと、煙を吐く御社と屋敷が見えてきた。


生き残りはいるのか?


「馬鹿者! 何故戻ってきた!! 姫様はどうした!! ぐっ!」


良い服を着たジジイが大将の前でボロボロの状態で縛られてる。


発言の途中で蹴られて、可哀想とも思えるが、安心しろ、助けてやるよ。


「ジジイ! 生きてるのは手前だけか!?」


「儂、以外は……ぐぅッ!」


「お前がここの護人か。中途半端な仕事だな。姫もこの地も、我々がもらうぞ!」


ふさふさの髭のおっさんが語る。


「残念だったなぁ、何の対策も無しに来る訳ないだろ?」


「なにい?」


自分は黒龍の姿から人間に変わる。


見られるが、まぁジジイは別にいいし、このおっさんは、そして周りの雑兵は……今から死ぬ。


「なんだ? ストリップか?」


「女の姿だからって、盛んじゃねぇよ。最後にいいもん見せただけだ。ジジイ、お前は言ったな。黒いものなら、自分は何でも成れるってな」


「? 龍より、強いものが……あるのか……?」


「この『土地』はその為のものだろがよ」


「「??」」


おっさんもジジイも呆けたように口を開けてる。


まぁ、自分もなれるかどうかは一か八かだが、確信がある。


一手先が、見える。


「なれ! 黒の焔!!」


最終手段は! 自分自身が、焔となることだ!


「ぎゃぁー!!!」


「こ、こんなことが……お前って奴は……」


おっさんの髭と甲冑が燃えて、ジジイを縛っていた縄だけが焼け落ちる。


元々水に包まれた土地だ、ここだけ焔で焼かれても問題はない。


屋敷が焼けるのは少々問題だが、黒の焔の自分は燃焼範囲をだいぶ絞れる。


「あちっ! あっつ!」


「逃げろ!! 水に飛び込め! うわ!」


雑兵はほっとくか。


真ん中にいる偉そうな奴と、強そうなのは軒並み燃やしていく。


それにしても、雨も降りそうにないのも幸運だったし、どうやら人質にするつもりで仲間も女子供は殆ど生きてるみたいだ。


男は知らん。


「だいたいこんな感じか?」


自分が元に戻ると、少し屋敷は焦げていたが、偉そうなおっさん共がブスブス肉が焼けて灰になってるのよりは火力は低かった。


雑兵以外は念入りに燃やしたからな。


「おい、ジジイ! 姫は猿のとこにいるからよ。この土地捨てて姫のとこに行くか、姫ほっとくかだぞ!」


「この土地が、大事なのだ……」


「姫は!!」


「姫様も、大事なのじゃ……」


この呆けジジイ!!


仕方ねぇ、姫も救って村も救う、両方やらなきゃならないのが、ヒーローの辛いとかだぜ!!


「じゃあ! やっちまうぜ! 『敵』殲滅だ!!」


自分はとりあえず疾風迅雷でこのまま『敵』の本拠地まだ行って倒そうと思っていたが、流石に疲れが出たようで気絶するように倒れた。


(起きたら、まずは、猿のとこ行って姫の様子見なきゃかもな……)


おわり



後書き


夢で見た奴のより、だいぶ脚色してますが、楽しいゆめだったので、筆が進みました。


これは、ちょっと短編ファンタジーのネタになるかも!! と喜んでいます。


長いのを読んで下さって、ありがとうございます!!

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