第45話 御座ノ間戦・第二幕

 家臣討伐から十数秒。気力が残り半分になり、怒りに燃えた家康は2振りの刀を立て続けに振るった。四方八方に飛んできた斬撃を躱しながら、ボスへと走る。

 先に到着した北斗が盾で降ってくる刀を弾き、豪快に槍斧で家康の腹部を薙いだ。と、家康の周囲に無数の土属性の矢が出現する。

 

「全員、櫓の裏に退避……!」


 華南がそう言い放ったと同時に、矢がフィールド全体に放たれる。即座にスキルを足に発動させ、近くの櫓に向かって走る。だが、あまりの矢の多さに回避しきれず、左肩と脇腹に矢が突き刺さった。痛みに耐えながら、降り注ぐ矢を刀で捌いて櫓の裏へ避難する。


「はぁ……死ぬかと思った……」

「いやもう死にかけやん」

「うるせぇよ」

 

 櫓の壁に背中を預け、突き刺さった矢を抜いていたら、同じく矢の攻撃で数か所から血が出ているサナから突っ込まれ、反射的に返す。

 

「おいそこ2人。そのまま野垂れ死にたくなかったらこっちに来い」


 プリーストへクラスチェンジした北斗に声を掛けられ、そっと駆け寄る。北斗が錫杖を地面に叩きつけると、俺とサナの周りに緑の靄が現れた。みるみるうちに気力が回復し、全快する。

 ふと隣を見れば、同じく避難してきたのかユウキと華南が他のプリーストに回復魔法をかけてもらっていた。


「今ので4人も脱落とかヤバいっすね……」

「どうする? 華南。撤退するなら今だぞ」

 

 メンバーの回復を終えた北斗が真剣な眼差しで華南を見やる。今の攻撃で一気に4人脱落して、現在12人。

 

 今後の味方の損害とアイテムの消費を考えたら、今が一番の引き際だが……。

 

「……ここまで来て引き下がるなんて選択、この私がすると思うか?」

「いや、無いねぇ。あんたならいかなる状況であっても、死に物狂いで将軍の首を掻き切るだろうよ」

「だろ? さて、こうなったら出し惜しみは一切なしだ。アイテムに武器にクラスチェンジ、使えるものは全て使って構わん。どんな形でもいい。最後にボスを討伐した者がこの戦いの勝者だ」


 やっぱりな。華南ならそう言うと思った。


 他のメンバーも元より撤退するという選択肢は持ち合わせていないようで、やる気満々の様子。

 と、ここで矢の雨が止んだ。俺たちは一斉に櫓から出て、攻撃を仕掛ける。

 対する家康は飛んでくる攻撃を次々と刀で捌き、防御。続いて、太刀を横一線に振るったかと思えば、突如周辺の地面が割れ、とてつもない速さで隆起する。

 

「うおっ⁉」

「何やこれ……」

 

 その場にしゃがみ、踏ん張って落ちるのを耐える。すると、家康がこちらに狙いを定め、斬撃を飛ばしてきた。俺とサナは咄嗟に近くの隆起した岩柱へ跳躍。同時にさっきまでいた足元の柱が破壊された。

 華南や北斗、ユウキのいる柱へ飛び移り、難を逃れた俺とサナは家康を注視する。

 

「出て早々、地面が変形するなんてねぇ……」

「あっちも手段を問うている場合じゃないってことっすね」

「へぇ、面白くなってきたじゃないか」

 

 華南はそう言い放つと、炎を纏った剣を手に躊躇なく地上7メートルもある柱から飛び降りた。それに続いて、俺たちも飛び降り、ボスへ接近。クラスチェンジでファイターに戻った北斗がボスの頭部へ斬りかかる中、俺は家康の巨大な腕に着地。そのまま頭の方へ駆け上がりながら、風属性の刀身を振るって着実にダメージを与えていく。

 

「設置完了! 誘導お願いするっす!」

「あぁ!」


 エンジニアにクラスチェンジしたユウキがフィールドに複数の対ボス用の巨大地雷の設置を終えたようで、ボスの周囲にいる俺たちへ声を掛けてきた。

 一旦、斬りかかるのを中断し、ボスの肩から飛び降りて誘導開始。家康は狙い通り、幸運Eの俺を真っ先に狙って追撃してくる。

 地雷の合間をすり抜けながら攻撃を回避。直後、家康に反応した近くの地雷が次々と爆発する。黒煙が辺りに発生し、誘導していた自分の気力まで減少するが、何とか仲間のプリーストへ継続回復してもらい、大ダメージを負うのを防ぐ。

 黒煙が晴れるころには、気力ゲージが3割にまで減少。だが、またしても矢が展開される。すぐにその場から離脱。一斉に放たれた矢を避けつつ、櫓へ走る。

 

「にしても間に合うかこれ……」

 

 タイマーは4分を切り、刻一刻と制限時間が迫ってきていた。すると、同じ櫓へ隠れていたサナが口を開く。

 

「徳川家康の弱点をつけばまだ削るスピードは上げられそうやけどな……」

「弱点……つまりは死因か。確か家康の死因って色々あったよな?」

 

 櫓の裏に隠れて未だに矢を放ってくる家康の様子を見つめる。

 

「一番有名なんは天ぷらの食べ過ぎによる食中毒やな。他にも胃がんとかヒ素とか水銀とか……中には毒殺なんていうんもあった気が……」

「つまるところ、どの説を取っても弱点は腹部と毒ってことには変わりねぇな」

「せやね。見たところ水晶は腹部にある。毒が弱点やったらちょうどええもんあるし、いけるやろ」

 

 サナが瓶に髑髏マークが描かれたポーションを手にした。確か今回の攻略に際して、念のため購入していたものだったか。まさかここで役に立つとはな。

 同じ櫓に潜んでいた仲間にも家康の弱点を通達。全員、髑髏マークのポーションを飲み、矢が止んだタイミングで一気に家康へと駆け出した。

 

 

 その後も削っていくこと1分。途中4人が脱落し、8人にまでメンバーが減少。しかし、例のポーションのおかげで攻撃ダメージが1.5倍になったおかげで、家康の気力は残り1割を切った。

 と、家康の動きが止まった直後、無数の鷹が家康の周りに発生。鷹たちは家康の周囲を超スピードで旋回し、鷹柱が形成される。突然の事に一同困惑していると、家康の気力が3割にまで上昇した。

 

「ここに来て回復するとかどう考えても設計ミスだろ……」

「まだ時間はある。やれるところまでやるぞ」

「あぁ」


 傍にいた華南からそう言われ、刀を構え直した俺はスキルを足に発動。地面を蹴り上げ、家康の眼前まで飛ぶ。強化した刀で眉間へ刺突。家康が暴れる中、即座に刀身を抜き、腹部へ回転斬りを撃ち込む。と、家康が2振りの刀で俺を狙ってきた。

 瞬時に受け止めて踏ん張る。あまりの重量に耐えきれず、地面が割れる中、俺は前身の力を腕に集中させ、押し返して刀を弾く。体勢を立て直すため、後ろへ下がったタイミングで遠距離攻撃が家康に炸裂。気力ゲージが2割になった瞬間、またしても無数の鷹が周囲に出現する。

 

「何とかしてまとめて撃ち払えねぇか……」

「それなら任せるっすよ!」

 

 上の方から声がしてそっちを振り返れば、杖を振り上げスキル・《光弾》を発動させたユウキがいた。彼の周囲には巨大な陣がいくつも展開されている。

 

「おい待てユウキ。それって……」

「巻き込まれたくなかったら、全員ボスから離れてくださいっす!」


 ユウキが杖を振り下ろした瞬間、陣から光属性のビームが無制限に発射される。思わず、ボスから逃げる俺たち。ビームの間を掻い潜り、跳躍。優希のいる柱の上へと降り立つ。

 

 マジで味方の損害考えねぇやつ多すぎだろ……!


 放射されたビームはあっという間に家康へ到達。周囲にいた鷹たちが一斉に焼き払われ、一瞬のうちに消滅する。鷹が居なくなったおかげで回復することなく、気力は残り1割のままとなった。

 

「これで回復は阻止できたっす!」

「何はともあれありがとな」

「どういたしまして。……と言いたいところっすけど、お礼を言うにはまだ早いみたいっすよ」


 ユウキの視線の先を見てみれば、家康に20万の土属性のバリアが付与されていた。と、同時に家康の周囲にどんどん矢が展開されていく。俺とユウキはすぐに柱から飛び降り、櫓の屋根へ着地。矢が発射された瞬間、屋根から櫓の裏へ急降下し、隠れる。

 

 なんか矢の放たれる頻度が早くなってねぇか……。今ので3人やられて、残るは俺とサナ、ユウキ、華南、北斗の5人だけ。このままじゃボスを倒しきる前に全滅しかねんぞ。

 

 耐え忍ぶこと30秒。そろそろ収まる頃かと思い、櫓の裏からフィールドの中央にいる家康を覗く。すると、矢を放ち終えた家康が大きく回転斬りを放ってきた。瞬間、四隅の櫓の上半分に切れ目が走り、隠れていた俺たちに向かって残骸が降ってくる。

 

「何っ⁉」

 

 スキルで足を強化。ユウキと共に櫓の外へ出る。倒壊して原型を留めていない櫓を目にしていると、他の3人も巻き込まれる前に脱出したようで、こっちに近づいてきた。

 

「もう逃げも隠れも許さねぇって訳か」

「やね。残り1分半、できることは全部やろうやないの」

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