第43話 権威の象徴

 第壱ノ間から第弐ノ間へと移動した俺たち。フィールドはさっきとほとんど変わっておらず、金襖に畳を模した床の構造になっていた。

 ここで、視界の左上にタイマーが表示される。第壱ノ間同様、制限時間は5分。この分じゃ、ここのボスも家康ではなさそうだ。

 すると、上空に2つの黒い靄が発生。そこから全長5メートルの大きな鳥が2体出現した。

 

「あれは鷹っすね……」

「鷹言うたら、二の丸御殿になんかなかったっけ?」

「それなら松鷹図のことかねぇ。鷹は徳川幕府の権力の象徴として描かれているっていう話もあるぐらいだ。第弐ノ間のボスとしては相応しいだろう」

 

 松鷹図はその名の通り、大きな松と鷹が描かれた障壁画で、二の丸御殿の大広間にあったはずだ。加えて、家康は鷹狩り好きとしても知られる。そこから由来されている可能性は大いにあるだろう。

 現れた2体の鷹にはそれぞれ髑髏マークがついている。ということは、第弐ノ間のボスで間違いない。2体の鷹はそれぞれ雷属性と風属性。互いにレベルは86、気力は30万。

 唐獅子戦より、味方の人数も6人減っているし、レベルや気力も上がっている。クリアできるか怪しいところだが、やれるところまでやるしかないだろう。

 すると、タイマーが作動。同時に上空で旋回していた双鷹が大きな口を開けた。


 何か来る……。

 

 そう身構えた直後、地上にいる俺たちに向かって放射状に風属性と雷属性のビームが放たれた。直撃を避けるため、みんなその場から離脱。

 今度は雷属性の鷹が上空から突撃し、メンバー1人がぶつかった衝撃で壁に叩きつけられ、絶命。何とか逃げ切れた俺は抜刀し、上空へ再び飛んでいく鷹目掛けて斬撃を放つ。しかし、瞬時に避けられてしまった。

 

「あんな高いところに飛んでちゃ、いくら斬撃飛ばしてもまともに当たんねぇな……」

「こりゃ、俺たち前衛は不利かねぇ……」

 

 風属性の鷹の放った竜巻を盾で塞ぎ防御する北斗。その背後に隠れながら、フィールドを滑空する2体の鷹を見つめ、反撃の隙を伺う。

 

「そういうことやったら、ここはあたしらに任せとき」

「そうっすよ。後衛が主力の戦いの場なんて滅多にないっすからね。たまには譲ってもらわないと」


 ライフルを構えたサナと杖を構えたユウキにそう言われる。

 

 ……適材適所。ここはサナやユウキたちに頼るしかなさそうだ。

 

「ならば攻撃は後衛に任せた! 私たち前衛は後衛組を守りつつ、降りてきたところを迎撃する!」

 

 華南も同じ判断をしたようで、フィールド全体に彼女の声が響いた。

 地面を蹴ったタイミングで広間には銃弾や矢、魔法攻撃が一斉に飛び交う。その合間をすり抜けていると、鷹が両翼に雷を纏って接近してきた。逃げていた足を止め、振り向きざまに抜刀。斬撃を右翼に向けて飛ばす。

 すると、鷹が地面に落ちた。刹那、至る所から斬撃やら遠距離攻撃が飛んでくる。巻き込まれないよう、一旦安全圏へ退避。退避し終えた頃には、雷属性の鷹の気力が残り3割まで減少していた。と、鷹が再び飛ぶのを阻止すべく、攻撃が止んだ隙に前衛組が接近。この気を逃すかと俺もそこに混じって、風を纏わせた刀身で鷹の中核である心臓に向かって突きを入れる。直後、鷹は黒い靄となって消滅した。


「後、1体だ! 最後まで気を抜くなよ!」


 盾を構えていた北斗がそう告げる。

 残り3分。もう一方の鷹の気力が残り半分を切ったところで、近くで風属性の鷹に向かってライフルを構えていたサナが不意に呟く。

 

「……何やおかしない?」

「そうっすよね。さっきから風属性の鷹を狙ってるんすけど、全くと言って良いほど攻撃が通らないんすよ」

「え? それはどういう――」

「――おい! そこ避けろ!」


 俺が尋ねようとした途端、後ろにいた北斗がこっちに向かって叫んだ。 上を見ると雷属性の鷹がすぐ目の前まで来ている。咄嗟に足へスキルを発動させ、ギリギリで回避。だが、後ろにいたメンバー2人が鷹に攫われ、そのまま壁に叩きつけられて絶命してしまった。

 

「……はっ?」


 2人が死んだこともそうだが、それよりもなんでさっき倒した鷹が生きてる? きちんと消滅を確認したはずだ。それなのに何故……。

 

 今の事態に困惑していると、ユウキが何か思いついたように「あっ」と漏らした。

 

「もしかしてこれ、秀吉戦の時と同じなんじゃないすか?」

「どういうことだ?」

「秀吉戦の時も今みたいにボスを1体倒したら、もう一方が復活したの覚えてます?」


 確か秀吉戦の時は秀吉を先に倒した途端、ボスを表す髑髏マークが猫又に切り替わって、秀吉が復活。その時はボスになら絶対ついている水晶も見当たらなかった。だが、今回の場合、髑髏マークは2体とも着いている。なら水晶はどうだ。

 

 そう思い、上を見上げてみる。と、傍でスコープを使って鷹を視ていたサナが口を開いた。

 

「視てる限り、水晶らしきもんが2体とも見当たらへん。ってなったらやっぱり……」

「えぇ。2体同時に叩く必要があるっす」

 

 ユウキがニヤリを笑みを浮かべて話すと、鷹の放射攻撃から逃れていた華南と北斗が合流する。

 

「話は聞かせてもらった。2体同時なら、私とイノを筆頭とする軽装備の前衛メンバーは2班に分かれ、囮になりつつ鷹を誘導及び追撃だな」

「俺たち盾持ちは今まで通り、守りに徹するってことで良いかねぇ?」

「あぁ、頼んだぞ」


 

 制限時間まで残り1分半。挑発しながら、スキルを用いて鷹を誘導していると、双鷹そうおうの気力が2割を切った。後ろから迫ってくる雷撃にヒヤヒヤしながら鷹と一定の距離を保つ。

 あまり、近づきすぎたら敵味方の攻撃を喰らうし、遠すぎても別のメンバーに標的が移る。

 今までの戦闘で囮を務めているおかげか、その辺の塩梅は分かって来たな。不運とは一言で言うが、なかなか利用できるものだ。

 

「おーい、そろそろだぞー!」

「言われんでももう準備しとるわ!」

「こっちはいつでも撃てるっすよ~!」


 サナとユウキたち後衛組はバフポーションで火力を上げ切ったようだ。ユウキが腕で大きく丸を描いているのを確認した俺と華南は、狙撃地点へと走り出す。双方が交差するまで、残り5秒。


 4・3・2・1……。


「「今だ!」」

 

 ゼロになった瞬間、もう一方の囮を務めている華南たちと交差。鷹同士がぶつかったと同時に、周囲から遠距離攻撃が発射される。ぶつかった影響で身動きが取れなくなった2体の鷹は、直撃を喰らい、黒い靄となって消滅していった。

 間もなく、生き残ったメンバー全員の前に《窓》が表れ、経験値をゲット。86から87へと探索者レベルが上がった。

 

『第弐ノ間、突破おめでとうございます。ギルド・《八咫烏》22名の皆様は御座ノ間への挑戦権を獲得。先へお進みください』

 

 アナウンスが流れ、第壱ノ間と同様、フィールドの奥の襖が開く。御座ノ間とはすなわち、将軍がお出ましになる部屋のことだ。

 

「やっぱり今までは前座。伏見大広間の大将はこの先のようだな」

「第4層最後の戦い。思う存分楽しもうやないの」

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