第34話 城主からの手紙

 年が明けてからもうそろそろで1カ月が経とうとしている中、俺たちはAランク非戦域に構えられた拠点にて、ボス戦に向けての会議をやっていた。本格的に会議へ移る前に、華南から年末に受け取った手紙の件についてギルドメンバーのみんなへ伝えられた。

 

「つまり、城主――このダンジョンの創造主はずっと僕たちのことを視てたってことすか?」

「そういうことになるんじゃねぇかな」

 

 優希の問いにテーブルの中央に置かれた例の手紙へ視線を落としながら答える。

 

「念の為、色々と細工しておいて正解だったねぇ」


 北斗が部屋を見回しながら呟く。今いる《八咫烏》の拠点には、二の丸御殿の時と同様、外部へ情報が漏れないよう遮断する祓式が施されている。この祓式のおかげで、創造主の目を気にせずこうして会議を開くことができていると言っても良い。

 

「せやけど、吾なんて一人称、今どき見いひんで?」

「一応、今でも吾って一人称は沖縄辺りで使われている。あぁ、長期旅行の時に実際、沖縄に行ったからソースに関しては信用してもらって大丈夫だ」


 大神学園時代に弾丸長期旅行のせいで出席日数が足りなくて、華南のやつ1年留年してるからな。俺と同じクラスに入るって聞いた時には失神するかと思ったが、今その時の知識が役に立つとは……。最早、留年して良かったのか悪かったのかどっちか分かんねぇなこりゃ。

 

「けど、この文面の口調からして創造主が沖縄出身じゃないってことは明白だろうよ」

 

 俺は手紙の文章に目を通しながら、付け足す。


 今、読んでる限りだと創造主は老人っぽいんだよな……。

 

「吾って一人称は確か江戸以前に使われてたはずっす。それにこの規模の空間創造をするには並みの祟魔にはまず無理に等しいんで、相手は少なからず準怨級以上ってことになりそうっすね」


 代報者に階級があるように祟魔にも階級というものが存在し、準怨級というのは、祟魔の階級で全14階級あるうちの上から4つ目に値する。怨級祟魔に該当する条件には、祟魔になってから300年以上が経過していること、もしくは世間一般的に認知されているか、それなりに知られている逸話や伝承を持っていることなどがある。

 一人称が江戸以前のものとするなら、現状このダンジョンの創造主は少なくとも400年は祟魔として生きていることになるので、準怨級以上に絞ることができるのだ。

 

「イノと華南があった行商人も祟魔が姿を変えている可能性があるから見た目なんかはあまり当てにはならんだろうねぇ。祟魔は基本、噂や逸話、伝承と言ったものから生まれるが、今のところ情報が足りなさ過ぎる。現段階で創造主の正体を探るのは無理そうだな」

「やね。ま、どっちみち最上層までクリアしたら会えるやろうからそれ待つしかないやろ」


 一番手っ取り早いのはやっぱり織部の言う通り、各層のボスを倒して最上層へたどり着くことだ。そのためにはまず、目先の第3層のボス戦をクリアしなければならない。


「と言ったところで、今日の本題に入る。まぁ、ボスはもう特定できたようなものだからそこは良いだろう」

 

 そこはしっかりやるべきところじゃないのかと思うが、みんなが認識できているんなら、別に良いか。

 

「問題は敵がどう出てくるかだが……」

「やっぱり、神さんの時と同じように家臣はおるんとちゃう?」


 華南の言葉にサナが反応した。

 

「だな。前みたいに家臣を倒さないとダメージが入らないとなったら、最優先で家臣を倒すべきだろう」

 

 前回は家臣討伐でまぁまぁ時間を喰われたから、できるだけ短時間で仕留めたいところだ。豊臣秀吉の家臣と言えば、真っ先に思い浮かぶのは石田三成辺りか。他の家臣も来そうな気はするが、そこらへんは実際にやってみてからしか分からないだろう。


「秀吉の武器は刀かそれ以外かかねぇ……。秀吉は刀をあまり好んで振るわなかったらしいから、どんな武器でも応戦できるように備えておきたいところだな」

「そうっすね。後は属性っすけど、第3層は全体的に煌びやかだったんで、光属性辺りが妥当だと僕は思うっす」


 豊臣秀吉は派手好きで有名だからな。組合もそうだし、秀吉の命で鋳造されて、巷にも出回っている天正大判も金が使われている。

 属性攻撃に関しては今までの探索やクエスト報酬で銭貨とアイテムの蓄えは十分あるし、もし的外れな属性が来たとしても問題ないだろう。

 

「ひとまず、今後は何か創造主のヒントになりそうなものがあったら即報告してくれ。いつも通り、2時間ほど準備の時間を取るから用意が整ったら広場に集合。では各自解散!」


 ヒントになりそうなものか……。やっぱりダンジョンの造りが綿密っていうところはヒントになるのかもしれない。これだけ精巧に造ることができるのは、織田信長や豊臣秀吉が生きていた時代を自ら経験していないと難しいだろう。そうなったら、300年以上生きているどころか500年、あるいは600年以上生きてる可能性だってあるわけだが……。


 ギルドの拠点から出て、表通りを歩いていると、何やら人だかりができていた。通りがかるついでに見てみたら、どうやら石川五右衛門が捕まったらしい。

 

 ってことは、史実通りだったってことか。いくら義賊とはいえ、泥棒は泥棒。無事に捕まったのなら、それで良い。

 

 俺は装備を強化するために具足屋へと向かうのだった。

 

 

 ◇◆◇◆


 

 そして2時間後。今回は誰も遅れることなく集合し、予定通りの時刻にボス部屋手前のセーブポイントへ転移。道中、豊臣家に従っていた大名や猿の群れなどのモンスターと交戦しながら、何とかボス部屋へと辿り着く。

 

『新たな挑戦者を検知。認証を開始します。――ギルド・八咫烏、総勢36名を確認。聚楽じゅらくの間への挑戦を受けますか?』


 聚楽の間……? てっきり大阪城辺りがボス戦の舞台になるかと思っていたが、違うのか?

 

 華南が承認ボタンを押した直後、毎度お馴染みのアナウンスが流れ、ギルド・《八咫烏》一行はボス部屋となる聚楽の間へ転送された。

 

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