第6章 本丸御殿・第3層攻略編

第32話 年末でもいざダンジョン攻略!

 第3層攻略開始から1カ月半が経ち、明日で新年を迎える今日。 Aランク戦域の解放を目指して、各自上限レベルの54までレベル上げを行う期間に突入していた。

 何で大晦日の日までダンジョン攻略に勤しまないといけないのかと悪態をつきながら、華南と共にBランク非戦域の大通りを歩く。今日は年末ということもあり、ダンジョン内の探索者はいつもより少ない。


「探索者も少ないし、やっぱ帰ろう。そっちだって年越し祭の準備あるだろ?」

「私は他の神職に任せてきたから問題ない」

 

 任せて来たんじゃなくて押し付けてきたの間違いだろ。ただでさえ年末年始の神社は忙しいってのに、そんな易々と抜けてくるとか何考えてんだよ。華南のことだ。どうせ他の神職がストップかける前に抜け出してきたとかそんなんだろ。


「あ゛ー、帰りてぇ……」

「今更何言ってる。そっちも暇そうにしてたじゃないか」

「あれのどこが暇そうに見えたんだ? こっちは年越し準備やら仕事納めやらで忙しい合間を縫ってやっと一息ついてたってのによ……」

「まぁまぁ、お前のとこの神職もオッケー出してくれたから良いじゃないか」

「はぁ……」

 

 このクソ忙しい中、うちの神社に忍び込みやがって……。

 猪口と御守は昔から家同士の繋がりがあって、うちの神職たちも華南の特性をよく知ってるから、半ば諦めたようにオッケーを出したんだろう。そこは意地でも止めてほしかった。

 

 鬱々とした気分で、大通りを進んでいたら組合の建物が見えた。第3層の組合は第2層よりも煌びやかになっている節がある。流石、豊臣秀吉の時代だ。街を歩いているとちらほらNPCの会話から豊太閤と漏れ聞こえてくる。

 

「さて、どんな依頼が待ち受けているか楽しみだな~」


 何にも楽しみじゃねぇよ。早く帰りたい……。


 華南の後へ続く形で組合の中へ入る。掲示板の方へ歩みを進めてみると、やけにクエストの数が増えていた。


「ほう、かなりあるな」

「流石にこの時期はクエスト受けてる余裕ねぇだろ」


 掲示板に貼られている紙には、海賊の討伐や悪事を働いているキリシタンの捕獲、農民の武器を没収せよなどと書かれている。どれも報酬はそれなりにあるし、経験値も確保できそうなものばかりだ。さて、この中からどれを選ぶべきか……。


「んー、じゃあこれにしよう。私もたまには本職らしい仕事をしないとな」

「おい、それって……」

 

 思案していたところで、隣で掲示板を見ていた華南が1枚の紙を取って受付まで持っていく。詳しい内容までは見られなかったが、間違いなく高難易度の判が押されていた。

 

 サナの時と言い、今回と言い、本当に人の話を聞かない奴ばっかだな……。

 

 受付の人によれば、依頼主はBランク非戦域の裏通りに位置する町家の一角で待機しているらしい。どうやら華南が受けたのは、スカウターやレンジャークラスが適正となっている依頼のようだ。詳しい依頼内容はそこで訊いてくれとのこと。受付の人から居場所を教えて貰った俺たちは、さっそく依頼主のいる裏通りへと向かった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「お待ちしておりました」

「あんたが依頼主で間違いないな?」

「えぇ、そうです」

 

 裏通りの町家へ向かうと、そこには翠髪の背の低い行商人が待っていた。声の調子から多分老人男性だろう。行商人の近くに荷車が破損した状態で置かれているところを見るに、この人が依頼主で間違いない。


「で、依頼内容というのは具体的にはどういったものなんだ?」

 

 華南がそう投げかけると、行商人は年寄めいた声で話し始めた。

 

「自分は商人をやっておりまして。数日前、城主様から頼まれた品を本丸御殿へ届けに行くためにBランク戦域を歩いていたら、盗賊に襲われて、品を奪われてしまったんです」

「つまり、奪われた品を取り返しに行ってほしいってことか」

「えぇ、どうかよろしくお願いします」

 

 その後、行商人から盗賊の特徴と何処で奪われたのかなど詳しいことを尋ねる。どうやら、盗賊は全部で4人いるらしく、Bランク戦域をかなり進んだところで襲われたらしい。また城主――豊臣秀吉に届ける予定だった品は刀のようで、紫の布で包んであるから見たらすぐに分かるとのこと。

 一通り情報を得た俺と華南はBランク戦域へと赴くのだった。

 

 

 ◇◆◇◆


 

 Bランク戦域で探索を始めてからかれこれ4時間が経過。お互いレンジャーとスカウターにクラスチェンジして多少探索しやすくはなったが、あちこち探し回っても未だ盗賊が何処に行ったのか手がかりすら掴めていない。

 

「はぁ……。ったく、盗賊はどこに行ったんだよ……」

「これだけ探しても見つからないということは、もしかするとどこかで入れ違ったのかもしれんな」


 この戦域は屋内ではなく屋外になっているため、なるべく盗賊たちが通りそうな路地裏を重点的に探索してはいるが、いくらでも路地裏はあるから、入れ違った可能性は否定できない。

 

 こんなことなら、もうちょっと依頼主から情報聞いとくべきだったか……。

 

 町家の立ち並ぶ細道を下っていたら、急に足元の地面が凹んだ。足をどけて視線を下してみると、地雷のような何かが埋まっている。後ろから地響きのような音が聞こえてきたと思ったら、巨大な丸い岩がこっちに向かって転がって来た。

 

「おいおい、嘘だろ⁉」

「早く逃げるぞ!」

 

 いち早く危険を察知した華南が長屋と長屋の間に逃げ込む中、反応が遅れた俺は傾斜が急な坂道を疾走する。


 どっかに細道とかぶら下がれそうな木とかないのかよ⁉

 

 左右を見回して巨大な岩から逃れる方法がないか探すも、いっこうに見当たらない。そうこうしているうちに岩も速度を増し、もう背後まで来ている。十数メートル先は不運なことに木の塀で周囲が塞がれている所謂、袋小路だ。

 もう無理かと諦めかけた瞬間、横に頑丈そうな木を発見。急いで跳躍し、太い木の枝へ掴まって飛び乗る。

 巨大な岩はそのまま勢いを増し、派手に袋小路となっていた木の塀へ激突していった。

 

「イノー、無事か?」

「な、何とか……。って、あれ……」


 巨大な岩で破壊された塀の先には、人1人分はギリギリ入れそうな細い通路があった。かなりの長さがあるようで、だいぶ奥まで続いている。

 マップを確認してみるが、その先は行き止まりのはずだ。

 

 あれってもしかしなくても――

 

「――隠し通路の類だな。よし、行ってみるぞ」

「あ、ちょっと待てって!」

 

 木の枝から降りて、先々進む華南の後を追いかける。気配遮断を使いつつ塀に囲われた細道をしばらく進んでいくと、拓けた空間が見えた。直後、人の気配がしたので、歩みを止めて塀の陰から覗き見る。

 

「ふむ、どうやら当たりのようだ」

「あぁ……。まさかこんなところにいたとはな」

 

 小声で話す俺たちの視線の先には依頼主から聞いた特徴と合致する盗賊が4人。そのうちの1人の手には紫の高貴な布で包まれた刀が握られていた。


 

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