第5章 本丸御殿・第2層攻略編
第26話 長い間一緒でも知らないことはある
あの後、無事にDランク戦域まで辿り着き、情報解禁をしてから約1カ月半。現在、Bランク戦域の攻略が9割方終了し、残り1割となった。ギルド・《八咫烏》は、Aランク非戦域の解放に向け、レベルアップ期間に突入している。
そんな中、もうすぐでLv18からLv19に到達する俺とサナは、クエストを受けるため、Bランク非戦域にある組合へ向かう。第2層を探索していくうちに、ここは南蛮文化や安土桃山文化が盛んな安土桃山時代をモチーフにしているらしい。組合までの道のりを歩いていると、カステラの甘い匂いが鼻を掠める。
これは課長が居たら、真っ先にカステラの方へ向かってるやつだな。
激務に追われている甘党の課長を思い出しながら、前へ進んでいたら組合へと着いた。
「んー、なんやええクエストないやろか。どうせなら一気にレベル上げたいんよな」
「それはそうだな」
組合の中にある掲示板を見ながら、どれにするか思考を巡らせる。
掲示されているクエストには、南蛮人が運んでいた荷物が盗賊に奪われたから、退治して荷物を取り返してほしいだの、Cランク戦域に出没する鷹の群れを討伐してほしいだの、Bランク戦域にたむろしている5体の鉄砲兵を倒せだの書かれているが、どれも一気にレベルを上げるには不向きだ。
あんまり難易度が高すぎると、何かあった時が怖い。2人で受けるんだったらそれに見合った難易度で経験値が貰えるものの方が良いだろう。
そう悩んでいたら、俺たちの様子を伺っていたのか受付にいた女性がやってきて、クエストの書かれた紙を指さす。
「それでしたら、これとかどうです?」
「……鵺討伐?」
「えぇ、そうです。最近、Bランク戦域の最奥に出没しては、道行く行商人や旅人を襲ってるんです。懸賞金をかけて討伐依頼を出してはいるんですが、如何せん皆さん怖がって受けようとしないんです」
「ほぇー、なるほどな……」
女性の話を聞いて、興味を持ったように声を漏らすサナ。
おい待て。まさかとは思うが受けようだなんて考えてないだろうな? Bランク戦域の最奥なんて2人で攻略できるわけねぇ。
絶対受けるなよという目でサナへ視線を送る。すると、考え込んでいたサナが軽く頷いた。
お、これは俺の念が通じたか?
「よっしゃ、その依頼受けたるわ」
「いやお前、何考えてん――」
「――よろしいんですか⁉ それではさっそくこちらにサインをお願いします」
「おい……」
依頼を受けると耳にした女性は、光の速さで契約書と筆を俺とサナへ差し出した。サナはさっそく契約書にサインをする。
だって相手はあの鵺だぞ? しかも最奥に居るということは、Bランク戦域でもかなりの強敵。第2層で戦ってきたどの敵よりも強いことは予想できる。それなのに、受けるだなんてどういう思考してんだよ……。
「はよサインせんかい。時間無くなるやんか」
「あー……はいはい分かったよ」
サナにギロッと睨まれ、もはや説得するのも面倒になって来た俺は仕方なく筆を執る。
全く……どうなっても俺は知らんからな。
契約書にサインを終え、クエストが正式に受注される。念の為、アイテムを一式ギルド倉庫から手持ちのウエストポーチに移してから、俺とサナは第2層のBランク戦域へと向かった。
◇◆◇◆
「っと、案外ここまで来るん楽勝やったな」
「あ、あぁ……」
戦域に入ってから1時間が経過。最前線のセーブポイントからここまで歩いてきたが、驚いたことにここまで1度も罠に引っかかっていない。部屋にいた森蘭丸を倒し終え、先へ進む。
普段ならもう既に5、6個は罠に掛かってるはずなんだがな……。一体どういうことだ?
そう疑念を抱く俺の隣で、愛用している二丁拳銃のトリガー部分を人差し指でくるくる回しながら歩くサナ。
「そういや、お前。何で銃が好きなんだ?」
「えらい急やな。どしたん?」
「いや、長い間行動を共にしてる割に知らねぇなと思って」
「あー、話したことなかったっけか……」
思えばこいつ、捜査部の時からずっと銃携帯してるんだよな。トリガーハッピーだからと言えばそれまでだが、何故なのかよくよく理由を聞いたことが無かった。この際だから聞いておくのも悪くないだろう。
「まぁ、簡単に言うたら兄貴の影響やな」
「……兄貴の?」
「おん。何年前やったかな……。いつやったかは忘れたんやけど、中学入る前に、大神学園に通っとった兄貴がお父さんと一緒に射撃しとったんよ。何やえらい音するから気になって見に行ってな。で、そん時に見た銃のフォルムがかっこようて。あんな小さいもんであれだけの威力出せるんや思たら自分も撃ちたなってな。そこからやな、銃が好きになったんは」
なるほど。こいつの銃好きにはそういう経緯があったのか。銃そのものって言うよりはフォルムに魅入られてるのはある意味面白いな。……あ、だからよく銃のカスタムに時間が掛かってるのか。
でもそのサナの兄貴、俺も知ってるような気がするんだよな。
俺が大神学園にいた頃、織部っていうサナと一緒で自由奔放で終始何考えてるか分からん傍迷惑な先生が居たんだが、もしかしてその兄貴ってその人だったりするのか?
織部先生もサナの兄貴と同じく大神の生徒だったらしいし、得意武器も同じで銃だしな……。
「……お、もしかして此処やない? 見るからに居そうやん」
サナが立ち止まった先には今までとは雰囲気の違う、雑木林のような空間が広がっていた。多分、行商人や旅人を襲った鵺はこの先に居ると見て間違いないだろう。
今は鵺討伐が優先だ。サナの兄貴については、また今度改めて訊いてみることにしよう。
「取り敢えず、入ってみるか。死んだら死んだでまた挑めば良い」
「せやね」
俺とサナは、取っ手が丸に二つ引両紋になっている木製扉の間を通って雑木林の中へと入る。次の瞬間、木の扉が自動的に閉まり、視界の左端に5分のタイマーが表示された。
木の幹に全長2メートル弱の鵺が出現。こちらをじっと見ている。
「あ、出てきよった」
「こいつが鵺か……」
目の前の鵺は伝説の通り、猿の顔に狸の胴体、四肢は虎で尻尾が蛇の容姿をしていた。鵺の気力ゲージはおよそ5万で、雷属性ときた。青の髑髏マークが表示されていることから、中ボスである鵺を倒さないとこの部屋から出られないのだろう。
幸いにも俺の刀は鵺の弱点である風属性。指輪アイテムや属性ポーションもあるから、今の俺たちでならまぁいけないこともない。
俺とサナが武器を持ったタイミングで、タイマーが動き出した。直後、目の前にいた鵺は猛スピードで木の枝を伝いながら雑木林の奥へと駆け出す。
「あっちや!」
「あ、おい待て!」
逃げる鵺を躊躇なく追いかけるサナ。彼女を見失わないように俺もダッシュで後を追うのだった。
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