第17話 けど、やっぱり不運なことには変わらない

 目を瞑りながらなんとか耐えること1分。薄っすら目を開けると、いつの間にやら俺の周りにいた虎と豹が姿を消していた。チラッと横目で部屋全体を見回してみたら、虎と豹は見事に消滅している。

 

 ……もしかして終わった感じか?


 内心で首を傾げていると、未だぶら下がったままの俺の元へ北斗がやってきた。

 

「今降ろてやるからじっとしてな」

 

 北斗はそう俺に声をかけると、槍斧を手に出現させ、俺の足元目掛けて大きく振りかざした。直後、俺を吊るし上げていたロープが切れ、頭から床へ突っ込む。


「災難だったなイノ。まぁ、これでも飲んで戦線復帰してくれや」

「助かった北斗」

 

 いつの間にか気力ゲージは残りの数値が100にまで減少していたらしい。北斗から中級回復ポーションを2本差し出され、受け取った俺は座った状態で飲む。再び気力ゲージが全快したところで、再び立ち上がる。

 

 何だか、1日ぶりに地上へ降り立ったような感覚だな。

 

 自分の足元を見て床に立っているの感触を嚙み締める。すると、部屋全体に黒い靄が発生。さらに虎12体と豹9体が出現した。

 俺と北斗を囲むように虎3体と豹2体がにじり寄ってくる。

 

「これも幸運Eの影響かねぇ……」

「さぁな。さっさと来るぞ」

「分かってるさ。そらよっ!」

 

 大盾で飛び掛かってくる虎の攻撃を防いで押し返す北斗。直後、思いっきり地面を蹴って跳躍し、スキル《硬化》を盾へと発動。盾を振り下ろして、虎の胴体を真っ二つに裂いた。

 

 うお、すげぇな。盾ってそんな使い方もできるのか。

 

 目を凝らして見てみると、北斗の大盾には縁に刃がついているようで、防御だけでなく武器としても扱えるらしい。

 感心しつつ、俺も豹と対峙。刀身を口に食いこませている間に、スキルを足に発動させ、重ねて指輪の効果で雷を纏わせる。そして思いっきり胴体の側面に蹴りをぶち込んだ。

 すると、虎は高速で壁際へと吹っ飛んでいき、衝撃音と共に消滅。その後もギルドメンバーたちと連携を取りながら応戦すること2分。

 

「あーあ、もう1回さっきみたいなことあらへんかな。狙いにくうてしゃーないわ」

「おい、喧嘩売ってるんじゃねぇだろーな」

「さぁ?」

 

 近くにいたサナがスキルを使用し、豹に向かって氷弾を発射。怯んだ隙に俺は一気に近づき、スキルで強化した刀身で首を落とす。

 

 周囲を見回してみると、残るは華南と優希の近くにいる虎と豹のみのようだ。俺が助太刀に入る間もなく、虎は華南の炎剣に貫かれ、消滅。華南の斜め前方へ飛び掛かってきた豹はユウキの放った雷弾を諸に喰らい、黒い靄となって消えた。

 その10秒後、部屋の中央に3メートル級の大型の虎が現れた。気力ゲージには青の髑髏マークが表示されている。なるほど、こいつが虎ノ間のボスってわけか。

 

「おーい、そこの2人。多分あれでラストだ。決めてこい」

「こっちはもうポーションでお腹いっぱいなんで、頼んだっす」

「了解」「了解や」

 

 華南と優希に促され、俺とサナは大型の虎へ駆け出す。途中で弾丸を補充したサナは、腕を交差させて氷弾を発射。俺はスキルを発動させ、脚力を強化。

 一気に虎まで距離を詰めて、刀を構え直し、斜めに斬撃を入れる。と、後ろの方にいたサナの氷弾が虎の左目へ命中。視界が半分遮られた虎の胴体へ、瞬間的にスキルを纏わせた刀身でダメージを与える。

 虎の気力ゲージが半分まで減少したのを機に、まだ魔力ゲージが残っているメンバーたちから追撃が入り、気力ゲージが3割を切った。だが、ここで虎が鳴き声を発し、周囲に突風が発生。

 すぐ傍にいた俺とサナの気力ゲージが3割ほど減少し、一旦距離を取ることに。

 

 風を纏った虎は、速度を上げながら俺の方へ接近。慌てて躱そうとするが、間に合わない。

 

「おらぁ!」


 しかし、ここでサナの強烈な回転蹴りが虎の胴体の側面にクリーンヒット。襖の方へ虎が飛ばされると同時に、俺は体勢を立て直すと同時に踏み込んで、襖ごと虎の首を貫いた。徐々に気力ゲージのラインが減っていく。


 これで消滅するだろう。


 そう思ったが、まだ生きているようで微かに呻き声が聞こえてきた。


 どんだけしぶといんだよこの虎……。


 気力ゲージをよく見てみたら、赤色のラインがギリギリ残っている。再度刀を突き刺してダメージを入れるが、何故か気力ゲージは減らないままだ。

 何かあると思い、虎を観察してみると、視界の端に映った虎の眉間にキラリと光る青色の水晶が埋め込まれているを発見する。

 

「サナ! 眉間だ!」

「あいよ……!」

 

 咄嗟にサナへ声をかけた瞬間、銃弾が眉間の水晶に貫通。今度こそ虎は塵となって消滅した。俺は刀を襖から引き抜き、血を払って鞘に納める。ふと部屋の中の時計を見てみたら、残り10秒と表示されていた。

 

 おぉ、ギリギリ間に合ってよかった……。

 

 すると、報酬となる大きな宝箱が部屋の中央に出現した。

 

「これで全部か。みんなご苦労だった。新入りの3人も見事だったぞ」

「連携もばっちり。文句なしの出来だ。こりゃギルドに加入してもらって正解だったな」

「そりゃどうも。さっさと報酬受け取って先進むぞ」


 宝箱の中には、銭貨は勿論、中級のポーションや素材、武器が合わせて20個ほど入っていた。それと同時に俺、サナ、ユウキのレベルが37から一気に39へ上昇。かなりの強敵だったことからそれに値する経験値が貰えたのだろう。

 ギルドメンバー全員の気力ゲージと魔力ゲージを回復後、ギルド・《八咫烏》は「虎ノ間」を後にして先へ進むのだった。

 

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