第15話 ギルド・《八咫烏》
通りの道から少し外れた区画にある長屋へ案内された俺たち。中に入ってみると、和風な内装がそこかしこに広がっていた。俺たち3人は木目の床板を少し歩いた廊下の先にある和と洋が融合した部屋へと通される。
「ここがギルド・
「ほぇ~、凄いっすね!」
おい、ギルド・《八咫烏》っていえば、最前線ギルドとして有名なギルドじゃねぇか。俺たちが3ヶ月掛けてやってきた攻略を、たった2ヶ月でこなしたって俺たちの間でも話題になっていたが、まさか華南先輩がリーダーを務めていたとはな。
「家具も結構揃ってるやん」
「そこら辺にはかなり気を配ってるからねぇ。まぁ、適当に座ってくれや」
北斗に勧められ、俺たちは長椅子へ腰掛ける。ぐるっと辺りを見回してみると、焦げ茶の木材を基調とした空間の中には、俺たちが今座っている長椅子やテーブル、本棚ちょっとした座敷などが設置されている。
また、旅館などによくありそうな障子のついた丸い窓もあり、座敷の上には高さの低い長方形のちゃぶ台や座布団といったものも置かれていた。
「私は過ごせる分には何でも良かったんだが、北斗は昔っから凝り性で聞かなくてな。……それで、どうして私らがダンジョン攻略に参加しているかについてだが、天界から神社省を通じて直々に私と北斗の方へ依頼があったんだ」
「……そうなんですか?」
神社省とは、神社を運営していくにあたって俺たち神職をサポートする機関で、日々のお務めやそれぞれの神社の人事財政のサポートは勿論、天界や一般人からの依頼を受け付けており、代報者はそれぞれ割り振られた依頼をこなすことで生計を立てている。
天界というのは、神様が住まう場所で、神社省は原則現世に干渉できない神様たちと俺たちの橋渡しの役も担っているのだ。
だが、天界から直々に依頼が来るというのは滅多にない。一体、何を依頼されたって言うんだ?
「具体的に言うと、二の丸御殿がダンジョンと化した原因の究明及び、何とかして二の丸御殿を元に戻せと頼まれてな」
「けど、とても2人だけじゃ攻略なんて無理ってことで、こうしてギルドを結成したってわけさ。ギルドの構成員は全員が代報者。この拠点もいわば、秘密裏に話し合うために作ったようなもんだ」
普通に考えてこんな話、一般人がいるようなところで話せないもんな。それならこっちも何かと気を遣わなくて済むから楽だ。それに、構成員全員が代報者ってんなら、最前線ギルドなんて言われるのも分かる。
でも、このダンジョン内はいわば祟魔の巣窟のようなもの。そう易々と俺たちの目的を話してしまえば、向こうにも内容が筒抜けの状態になるんじゃないのか?
そのことを向かいに座っている華南先輩と北斗へ伝える。
「それなんだが、色々試してみたところ、攻撃系以外の祓式は発動できるみたいでな。この拠点全体に外部からの情報を遮断する祓式を展開してあるから、ここでの会話は私たち以外には聞こえないようになってる」
「あ、だから僕の祓式は使えたんっすね」
通りで俺とサナの祓式は発動せず、優希の祓式だけが発動していたわけだ。多分、外部への情報を遮断する祓式はギルドメンバーの誰かが持っているものなのだろう。
流石、そこら辺は抜かりないな。
「そこで私から提案なんだが、お前たち遺産迷宮攻略課もこのギルドに入らないか?」
華南がそう告げた瞬間、横にいたサナとユウキの顔が一気に強張った。それもそうだろう。俺たちは一度も自分たちが攻略課の人間だなんて言ってないからだ。
「な、なんであたしらのこと知ってるん?」
「まぁ、華南先輩は忍びだからな。情報収集はお手の物なんだよ」
「えっ、そうなんすか⁉」
ユウキとサナは目を丸くして華南先輩の方を見る。聞いた話によると、先輩は伊賀出身で幼い頃から修行を受けていたのだそう。伊賀にある愛宕神社の神職として活動しながら、たまに情報収集も行っているらしい。
「あぁ。ここ2か月イノは捜査部に出入りしてないし、その
「も、もう良いっす……」
「お、お腹いっぱいや……」
あまりの的確さに、疲弊するサナとユウキ。
よくよく考え直してみたら、確かに自分たちが攻略課だって言ってるようなもんだ。けど、これといって別に俺たちが攻略課のメンバーだってバレても、特に支障は無いんだよな。まぁ、あるとするなら、先行して探索してる戦域の情報を教えろとかそんなもんだろう。
「それでどうする?」
「んー、ちょっと時間と話し合う場所貰って良いすか?」
「あぁ、勿論。この部屋を出て右へ曲がった先に個室があるからそこで思う存分話し合ってくれ」
一旦、話し合うために華南先輩と北斗と別れ、個室へ移動する。結果が出次第、ギルドリーダーである華南先輩と副リーダーの北斗へ報告することになった。あまり長い間待たせてしまうのもあれなので、さっそく話し合うことに。
「ギルド加入な……。実際ギルドに入ったら、どんな利点があるかにもよるんじゃないか?」
「そうっすね。利点としては攻略スピードの上昇とか、強敵に遭遇した際、数で攻められるという点すかね。僕的には今後ボス戦なんかも控えてるでしょうし、入っておいた方が良いんじゃないかと思うっすけど……」
「あたしもそうやな。話聞いてる感じ、悪い人らやなさそうやし。何よりあたしらと目的が合致しとるしな」
「イノさんはどう思うすか?」
ユウキにそう振られ、俺は唸り声を上げる。
現状を鑑みるに、入った方が良いのは良いだろう。さっき、ユウキとサナが言っていたように、ダンジョンにはボスがつきもの。たった3人だけで倒せるような相手じゃないのは、ダンジョンゲームをやったことがない俺でも分かる。それに目的も俺たち攻略課が掲げるものとほぼ同義だ。加えて、ここ1週間ほど攻略できていないから、その分の情報はあっちが持っていることだろうしな。
何より、華南先輩はあれでも頼りになる方だ。好奇心旺盛過ぎるが故に、よく周りを振り回して困らせるようなことがなければ完璧と言ってもいいぐらいにはな。
「俺も加入には同意だ。けど、入る前に一度課長へ報告しとくべきじゃねぇか?」
「それはそうっすね。一度ダンジョンの外に出て、課長に念話飛ばしましょうか」
このダンジョン内では祓力の使用がある程度制限されている。だから、祓力を身体の内から外へ放出する攻撃系の祓式は勿論、祓力を使って念じて話す念話もほとんど使えない状態だ。
ちなみに、優希みたいな外に祓式を放出しない祓式は制限なく使えるらしい。そこら辺の基準も華南先輩と北斗から教えて貰って明確になった点だからな。情報を提供してくれた2人には恩もあることだ。尚更加入しないわけにはいかない。
個室から出た俺たちは、華南先輩と北斗に一旦外へ出て課長に報告する有無を伝える。
30分後。無事に報告を終えた俺たちは華南先輩と北斗が待つ部屋へ向かった。
「お、戻ったか。どうだった?」
「加入に賛成してくれましたよ」
「そうかそうか。それじゃあギルド加入の手続きに移るとしよう」
ギルド加入が決定し、さっそくギルド登録へ移る。基本的にパーティ単位で登録する際は、パーティリーダーのユウキがやらなければならない。ユウキは《窓》のメニュー欄からギルド登録の項目を開け、ギルド一覧から八咫烏の欄をタップ。
ギルドへ加入したことによって、ギルドメンバーの基本情報が閲覧可能になった。
「3人とも、これからよろしくな。それとイノ。学園時代から何度も言ってるが、そろそろ敬語外してくれても良いんじゃないか? もう先輩後輩って立場でもないんだ。これからは同じギルドの仲間なんだから、ラフにいこうじゃないか」
今までかれこれ10回以上このやり取りをしているが、これまでは先輩後輩という関係だからという理由で断れた。だが、今はそういうしがらみも無くなって、言い訳の材料がほとんどない。華南先輩のことだ。また断ったらまた面倒なことになるに違いない。
「分かった。これからよろしく頼む華南、北斗」
「あぁ」
「よろしくな、イノ」
こうして俺たち遺産迷宮攻略課はギルド・《八咫烏》へ加入することになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます