第6話 そして振り出しへと戻る
スゥーっと寝起きのように意識の戻る感覚がする。
確か罠に嵌まって、サナとユウキを抱えて脱出したけど、その先の穴に落ちたんだったよな……。って、ことは俺死んだのか?
思考していたら、微かに話し声が聞こえてくる。試しに目を開けてみると、木でできた茶色い天井が見えた。
ん? ここはどこだ? 穴の中って訳でもなさそうだし……。
ゆっくり身体を起こしてみると、すぐ傍で床に座った状態のサナとユウキが話をしていた。起きた俺に気づいたようで、真っ先にユウキが声をかけてくる。
「あ、起きたんすね。なかなか目覚まさないんで、本当に死んだかと思いましたよ」
「おはようさん。なかなか起きひんからどついたろかいなって思てたところやで」
「す、すまん。で、ここは何処なんだ? なんかロビーに似てねぇか?」
白の漆喰壁に木造の床、正面には先ほどと同じような松の描かれた金色の襖が見えた。
これ似てるって言うより、ほぼ一緒じゃねぇか?
眉を顰めながら辺りを見回していると、ユウキが口を開いた。
「イノさんの言う通り、ロビーっすよ。僕らイノさんのせいで穴に落ちて死んだんすよ。覚えてないすか?」
「いや、それは勿論覚えてるが……」
死んだんならなんでロビーにいるんだよ? 普通死んだらそこでお終いじゃねぇのか?
「何難しい顔しとんねん。あたしらは1回死んで生き返ったんよ」
「そ、そうなのか?」
「えぇ。試しに自分の基本情報の画面を見てみてほしいっす」
ユウキに言われるがまま、指を鳴らして《窓》を開ける。基本情報のところをタップして確認してみたら、7つあったハートが1つ減って6つになっていた。
「ハートの数が減ってるな」
「ユウキの話やと、死ぬごとに1つハートが減っていくんやって」
ってことは、後6回死んだらマズいってことか。一応、他の2人の基本情報も見てみるが、同じようにハートが1つ減っていた。
「ちなみに、ユウキは最高で何回死んだんだ?」
「確か5回だったはずっす。一応、何が起こるか分からないんで、死ぬのは6回までにしてるっすよ」
「体調に変化とかは?」
「あー、特にはないっすね。でも、死ぬごとに気力ゲージの数値が減ってはいたっす」
数値が減ってる? あ、確かに1番初めに見た時よりも少し気力ゲージの数値が減ってるな。んー、何なんだこれ。死んだことによるペナルティか何かか?
自分の気力ゲージに書かれている数値を凝視していると、サナがメニューを閉じて立ち上がる。
「最低でも後5回は大丈夫ってことやろ? こんなところでちんたらしてんとはよ進もーや」
「それもそうだな」
「イノさん、今度は気をつけてくださいっすね?」
「わ、分かってるよ」
目が笑ってないユウキにそう念を押され、顔を引き攣らせながら返す。
いや、こればっかりは幸運度が悪いというか……。せめて罠の特徴とかが分かったら、回避のしようはあるんだろうがな……。
再び、襖を開けて外に出る。また矢が目の前を通過したが、予測できていたのでダメージを負うことなく回避。さっきの鶯張りのところも、何とか罠を踏まずに通り抜けることができた。
その後も一層、周囲に気を付けながらダンジョン内を進んでいくと、道のどん付きに宝箱を発見する。
「お、宝箱」
「開けてみようや」
「っすね」
宝箱を開けると、《窓》が表示され、そこに宝箱の詳細が記載されている。宝箱にはこのダンジョンの通貨である銭貨1500文が入っていた。よく見ると1枚1枚に寛永通宝と掘られている。
どうやら探索中に手に入った銭貨はパーティ内のアイテム倉庫へ送られるようだ。そこから3人で山分けして、1人500文が手に入った。宝箱は中の物が無くなると消える仕組みのようで、銭貨を受け取った瞬間消滅した。
その後も探索を続けること2時間。ここまでで回復ポーション3本、魔力ポーション1本に、炎属性の手榴弾1個が手に入り、ユウキのレベルが7から8へ、俺とサナは3から一気に6に上がった。
と、前を歩いていたサナが立ち止まって、通路の左側にある部屋を指差した。見てみると、畳を模した床の上に大きめの宝箱が置いてある。
「あ、さっきよりもデカいやん!」
「サナさん、待つっすよ~!」
宝箱を目にしたサナが部屋の中へ入っていくと、慌ててユウキが追いかける。俺も続いて中へ入る。中は比較的大きめの空間が広がっており、中央に宝箱がポツンと置かれている以外は何もない。
「ん……? おい待て。ここなんかおかしくないか?」
「あー、確かにそうっすね。なんか妙に広いというか……」
空間の大きさと中にあるものが釣り合ってないように見える。
なんか怪しい……。
そう思った瞬間、何の前触れもなく後ろの襖が締まり、部屋の中に10体の鎧武者が現れた。咄嗟に2人の方を見ると、宝箱へ近づくサナに待ったをかけるように手を伸ばすユウキの姿があった。
「何やってんだお前!」
「あー、もうっ! ごめんやん!」
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