プロトタイプ・ゼロ~特殊部隊員の探索譚と出会い

いちのさつき

第1話 20××年 アメリカ合衆国ホワイトハウスにて

 20××年秋頃。アメリカ合衆国ホワイトハウスのウェストウィングのとある個室。連絡を受け取った黒人男性がタブレット端末で操作をしつつ、白髪染めをし始めたばかりの上司に報告をしている。


「アフリカ駐在の大使から、メカニックトゥーの探索に手間取っているという報告が来た」


 端的な報告に上司は傾げる。


「ん? あれは世界初のダンジョン、奥多摩ダンジョンができてから数か月後に出現したものではないのか。進捗はどうだね」

「信じられないことに全く進んでいない」


 上司はため息を吐きつつ、頭を抱える。


「いくつもの国家が既に滅んでいる。感染症や餓死で激減したのも大きいか。いや。それがあっても、探索者の質が悪いのか」


 上司は部屋に入ってきたばかりのアジア系の若い男に視線を送る。若い男は天井を見上げながら、指で何かを描く仕草をする。


「んー。どちらも理由としてあるだろうね。ヴィクトリア湖と一部被っているケニアとエジプトもダンジョンがある。どこもフォローする余裕なんてないだろ」


 上司は数世代前の折り畳み式のパソコンを開ける。過去のデータの海に繋げ、話題のダンジョン出現に関する記事を探し始める。素早く眼球を動かし、言葉を見つけて、すかさずクリックをする。


「それもそうだ。あそこが出現した際、三百人程度の犠牲者が出たと過去の記事に記されている。計算よりも早くに飛来して、対策する暇もなかったのが原因だそうだな」


 話し声を聞き、興味を持ったラテン系の細身の男が混じってくる。


「失礼するぜ。おっさん。廊下から聞こえてきたが……とりあえずは何か要請が来たらしいじゃないか」

「誰がおっさんだ!」


 上司が声を荒げるものの、ラテン系の男はカラカラと笑う。黒人男性は二人のやり取りを見て、ため息を吐く。


「まだ報告を受け取っただけだが。と思っていたら来たな。派遣要請だ」


 ラテン系の男にとって慣れているパターンで、全く驚いていない。


「派遣か。珍しくもない要請だな。アメリカが何度もしてきたことだ」


 上司は別の情報を見て、眉間に皺を寄せる。


「だがドローンを飛ばしても速攻で破壊される時点でかなりやばい匂いがする。これを見てくれ」


 映像を部屋にいる彼らに見せる。撮影してダンジョンに突入したと同時に頭が割れそうな音と同時に、真っ暗になっていた。


「これほど早くブラックアウトするのはないな」


 アジア系の男の頬に汗がひとつ流れる。ラテン系の男は縦に頷く。


「ああ。初めて見たが恐ろしいな。これだとトップが許可を出すとは思えないが」


 何かを思いついた男は指で鳴らす。


「ああ。いいことを思いついた」


 興味を示した上司は急かす。


「言ってくれ」


 ラテン系の男の口角が上がる。


「特殊部隊の例の人間を出せばいいのさ。成果を出せるほどの実力があるし、仮に亡くなっても、我々にとって損害にならないはずだ」


 彼らは感嘆の声を出す。上司は特殊部隊の例の彼の人物データを抽出する。コードネームとしてPZと付けられている、アルビノの青年のプロフィールが画面に映し出される。


「例の彼か。確かにどう転ぼうが我々の益となる人材と言える。だが彼は探索者の資格を持っていない。それが課題だな」


 上司が言った通り、ある程度の危険性のあるダンジョン探索は資格を持つ人しか立ち入ることができない。


「特殊な事例のケース出してくれないか」


 アジア系の男の頼みを聞き、上司はすぐに探索者の資格を持たないまま、危険度の高いダンジョンに入った事例を探す。


「なるほど。一定の功績がある場合、テストを合格することで一定期間の許可を貰えると。過去に三人がそれをしていたと。よし。それで行こう。アメリカ探索者連合組合とアメリカ軍特殊部隊に連絡をしてくれ」

「イエッサー!」


 彼らは何故か力強く返事をし、部屋から出ていった。


「元気のあるクソガキだな」


 上司は朗らかな笑みになったものの、一瞬で冷たい顔に切り替えた。


「さて。PZ。アメリカのために働いてもらおうか」

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