第5話 再会 前編


『……はじめまして、私は滝野 鈴って言います。伊織とは幼馴染です』


淡々と、作ったような笑みを浮かべて自己紹介した彼女。

最初の印象は”クール女子”。


――でも、


鈴が『Ruo』に来て、男に拉致されそうになったって報告してくれた、あの時。


「っ……はぁ」


小さく、本当に小さくため息をついて……不安そうな顔をしていたのを、俺は知ってる。

知らない男に拐われそうになって本当は怖かっただろうに、そんな素振りを一切見せずに過ごすんだ。


(言えばいいのに。怖かったって)


自然と、興味がいた。

どうして、自分の本心を隠すのか。どうして、伊織以外は一線を引くかのように敬語なのか。


「ねぇ、伊織」

「……なんだよ、優弥」


鈴が帰った後、さっきまで鈴が座っていた席に腰を掛けて、尋ねる。


「伊織から見て、鈴ってどんな子なの?」


伊織は少し考えてから、口を開いた。


「小学生の時は明るくて、よく笑ってたな。……だけど、中学が分かれて高校で再会して、久々にあった鈴は雰囲気が変わってた。あんまし笑わなくなったし、なぜか周りには敬語で話すようになった」

「……なんで、伊織だけ敬語じゃないの?」


ああ。でも、幼馴染なら当たり前か。

と、頭の中で自己完結じこかんけつした後、伊織が予想外のことを言った。


から」

「はい?」

「……”なんで敬語なんだよ、今すぐやめろ”って睨み聞かせながら言ったら、やめてくれたんだよ」


うわぁ、と思わず声を漏らす。

俺でも、伊織に睨まれたらメチャクチャ怖いのに。


「……俺にも、急に鈴が敬語になった理由は分からない。鈴が話してくれないしな」


少し寂しそうに、伊織が目を細めた。


(ふぅん……)


幼馴染の伊織にも話したくないのか。


(これは、なんだか複雑そうだなぁ)


俺はポリポリと頭をかいて少し考えたあと、「ありがとう」と言って伊織に微笑んだ。



   *  *



ひま……」


今日は土曜日。

なにもすることがなくて、ただただベットでボーッとしている。


(今日は一日中家にいようかな)


そんなことを思っていた時。


ピコン


部屋に、ラインの通知音が響いた。


(誰からだろう)


私はスマホをもって、通知を確認する。

通知画面には「Youyaユウヤ」というアカウント名とラインの内容が表示されていた。


”鈴おはよう! 今日って暇?”


私は少し考えたあと、返事を返した。


”特に用事はないです”

”じゃあルオ来る? 今日は伊織以外みんないるよ!”


(みんないるのか……)


暇だし、行こうかな。

文字を入力して、送信ボタンを押す。


”行きます”


既読がつき、少しした後、また通知音が鳴った。


”じゃあ伊織にも声かけといて!”


私は可愛らしいインコが敬礼のポーズをして、「了解です!」と言っているスタンプを送る。そして伊織に一言ラインを入れてから、外に出る準備をした。


かばん持った、スマホ持った、かぎ持った……よし、大丈夫)


ガチャ、と玄関のドアを開けて部屋から出た後、鍵を閉めたのを確認する。


「……いってきます」


小さな声で呟いた後、私は伊織の家に向かって歩きだした。




ピンポーン


『……』


インターホンを押していた手を下ろして、私ははぁっとため息をついた。


数十分前からずっとこの調子だ。

ラインも見ないし電話もでない。嫌な予感がして優弥に遅くなるって伝えておいたけど、流石にこれ以上は待てない。


一瞬、家にいないのかとも思ったけど、家のカーポートにバイクが置いてある。


(家にいるけど反応無し。絶対寝てる)


またため息が出そうになるのをおさえて、もう一度だけインターホンを鳴らした。

これででなかったら、もう置いていこう。


『……』


よし、置いていこう。

そう思って、方向転換ほうこうてんかんしようとした瞬間。


『…………どちらさまですか?』


機械越しに、眠そうな声が聞こえた。

やっと出た。正直ずっと外にいたから足が辛い。


「伊織、私」


インターホンのカメラに顔を近づけると、『鈴?』と返事が返ってきた。

これは絶対寝起きだ。小さいけど、欠伸をしている声が聞こえる。


「開けて」


少しして、ガチャ、とドアが開いた。

寝癖のついた前髪から、伊織の眠そうな目がのぞく。


「おはよう」

「……はよ」


目があって、伊織は嬉しそうに、優しく微笑んだ。



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