第5章: 別々の戦場、心は一つ

ギルドの掲示板に掲示されたクエストを見たカイルは、その内容に驚いた。町の近くで強力な魔物が目撃され、急遽、三つの冒険者パーティが合同で討伐に向かうことになったというのだ。情報によると、その魔物は普段は見られないような異形の存在で、町の周辺を荒らし、住民たちは恐怖におののいているという。


「これで町が壊れでもしたら、何のために冒険者をやっているのか分からなくなる…」カイルは独り言を呟き、ギルドで依頼を受けると同時に、仲間たちとの集合場所へと向かった。


町の外れに集まったのは、カイルがよく顔を合わせるパーティメンバーたち。だが、今回は少し様子が違った。三つのパーティが集まり、討伐隊は総勢で十人ほどになる。


「魔物の姿が確認されたのはこの辺りだ。みんな、気を引き締めて行こう。」ギルドの職員が指示を出し、カイルもその後に続く。


周囲は静まり返り、異常な気配が漂っていた。魔物の足跡や痕跡はすぐに見つかるが、その姿はまだ現れなかった。しかし、カイルの心はどこか落ち着かない。足を進める中で、何度もふと思い浮かぶのはティアのことだった。


「ティア…」そう、彼女のことがどうしても頭を離れなかった。


カイルは確かにティアと共に戦ったことがある。あの時の戦闘の連携、無言のうちに通じ合う感覚、戦後の安心した表情…。あの心地よさが忘れられない。


そして、突然、その瞬間が訪れた。目の前に、ティアの姿が見えたのだ。


「ティア…?」カイルは思わず声をかけそうになる。しかし、彼女は気づかない。ティアは別のパーティメンバーたちと共に動いていた。カイルの心は一瞬、引き裂かれるような気持ちになる。


「どうして…こんなところで…」カイルは足を止め、再び目の前のティアに視線を送りながら、心の中でつぶやいた。


ティアは確かにカイルのことを覚えているだろう。しかし、彼女が今、どのパーティと共に動いているのか、それは彼女の選択だ。カイルはその選択を尊重しなければならない。それに、今は任務に集中しなければならない。


「くっ…!」カイルは自分の気持ちを抑え込む。再び目を前に向け、仲間たちと一緒に進むことを決意した。


しばらく進むと、ついに魔物の姿が現れた。それは一目見ただけでただならぬ気配を放っていた。巨大な体を持ち、鱗が光り、数本の尾を持つその姿は、まさに想像を絶するものだった。


「みんな、注意しろ!」ギルドの職員が大声で叫び、魔物を目の前にして戦闘が始まる。カイルはすぐに自分の立ち位置を決め、冷静に戦術を考えながら動く。


だが、その時、カイルはふと視界の端にティアを見つける。彼女もまた、戦闘の中でしっかりと動いている。だが、彼女はカイルに気づかないまま、無邪気に戦っているように見えた。


「ティア…!」カイルは胸の中で叫ぶが、すぐに自分を振り返らせる。今は仕事だ、任務を果たさなければならない。


カイルは、ティアと再び一緒に戦いたいという強い想いを抑え込み、仲間たちと共に魔物に立ち向かう。だが、どこかで違和感を覚えながらも、冷静に戦闘を進めていく。


戦闘は一進一退の攻防を繰り広げる。魔物は強力で、攻撃を仕掛ける度に周囲の空気を震わせる。そのたびにカイルは身を引き締め、攻撃を防いでは反撃を加えていった。周りのパーティメンバーたちも必死で戦い、連携して魔物を攻撃する。


カイルはその中でも冷静に、戦況を見極めながら行動していた。しかし、その度に、ティアがどこかで自分と同じように戦っているということが気になって仕方がなかった。彼女の姿が見えるたび、彼の心は少しだけ動揺し、再び戦闘に集中することが難しくなる。


「今は、我慢だ…」カイルは自分に言い聞かせる。ティアと戦いたい、その気持ちが抑えきれない。しかし、今はその感情に溺れている場合ではない。魔物の討伐を最優先しなければならない。


しばらくの激闘の後、ついに魔物は討伐された。カイルは肩で息をしながら、魔物の残骸を見つめる。


戦闘が終わると、周囲が静まり返る。その静寂の中で、カイルは改めて自分の気持ちを整理しようとした。しかし、その心の中には、ティアと再び戦った時の感覚が鮮明に蘇る。


「次は、必ず彼女と…」


カイルは戦闘が終わった後、ティアの姿を探したが、彼女はすでに自分のパーティと共に帰路についていた。カイルはその背中を見送りながら、心の中で決意を新たにする。

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