第22話 油断

 二人は少し歩いて岩がたくさん転がっているところまで来ていた。気づけば雨は止んでいて雲の隙間から青空が見えていた。

「アンナちゃん、大丈夫?疲れてきてない?」

 ワルトが疲れているか心配して声をかけてくる。足場は岩がたくさん転がって歩きにくく、それに加えてさっき魔法を使ったことによりアンナは少し疲れていた。

 しかし、病に侵されているワルトのために急いでいるアンナは休憩しようとは思えなかった。

「大丈夫です、まだまだ動けますよ」

 実際にアンナは少し疲れていたけれど、まだ進むことができるほど体力が残っているのは事実だった。

 だからアンナは進み続ける、そのことがワルトのためになると疑っていなかった。

「あれだけ魔法を使っても動けるんだ、すごいね。でも無茶はしないでね」

「それ、ワルトさんが言いますか!」

 一番無茶している人に無茶をするなと言われて腹が立った。病に侵されているのに安静にしないで依頼を受けているくせに、上位種の魔法を一人で受け止めていたくせに。

「はぁ、そういう人でしたね」

 心底あきれてそんなことを呟いていた。でもその程度のことで憧れは一切消えなかった。

「私のことよりワルトさんは大丈夫なんですか?」

 あれから少しも休まずに歩いていたので、ワルトのことが心配になった。あれだけ血を流していたのにポーションを飲んだだけで完全に元気になると思えなかったからだ。

「大丈夫だよ、本当に。戦う前と比べても体調は全く変わってないから」

 その言葉を聞いてアンナはワルトをじっと見つめた。もし体調が悪かっても、ワルトは本当のことを言わないと思っていたから。

「……本当だよ、嘘じゃないから。そんなに僕のことが信用できない?」

 体調のことに関しては全く信用できなかった。なにより病のことを隠していた前例があるのになんで信用されてると思っているのか理解できなかった。

 でもアンナはこの時のワルトの目を見て、今言ったことは嘘ではないと思った。そう信じさせるくらいにはワルトの目は真っすぐアンナの方を見ていた。

「わかりましたよ、ワルトさんのことを信じます。元気ならこのまま進みましょう」

 

 二人はしばらく歩いていていた。そこは急斜面で少しでも足を滑らせると無事では済まないことは明白だった。

 この時アンナはまだ元気で今までと同じように歩けていると思っていた。けれどそれは間違いだった。疲れのせいか、それとも焦っていたのか、ほんの少し周囲のことに注意することを怠っていた。

 だから足元の地面が崩れやすくなっていることに気が付かなかった。

 地面が崩れる、体が沈む感覚がする。踏ん張ろうとしてもそこには地面がなく足は空振るだけで何もできなかった。

「アンナちゃん!」

 ワルトが気付いて飛び込んできて、アンナを抱え込んだ。

 しかし状況は何も変わっていない。アンナはワルトに守られながら急斜面を転がり落ちていた。

 「ぐっ!」

 ワルトの体が木や岩などにぶつかっていき、その衝撃はアンナまで届いていく。

 アンナの身体強化はワルトのものとは違い体を固くすることはできない。だから衝撃を受け続けることにより、体はダメージを蓄積していった。

 しばらくして平面の場所にたどり着いて二人は止まった。転がっていた時間は永遠に続いたように感じられ、やっと止まったことにアンナは安堵のため息を吐いた。

 「……ごめんなさい、ワルトさん。大丈夫ですか?」

 転がっている間、ずっとアンナを守り続けていたワルトに呼び掛けた。自分の不注意のせいで後戻りするどころか病に侵されているワルトにさらにダメージを与えたことにアンナは取り返しのつかない後悔に苛まれた。

「……大丈夫だよ、それにこうなった責任は僕にもあるから」

 事実、上位種との戦いの前のワルトなら地面が崩れる前に気付いて、事前に防ぐことができた。それができなかったのはワルトも上位種との戦いの疲労が残っていたからだろう。

「でも……」

「この話はおしまい、そんなことよりこれからどうするかについて話そうよ」

 その時だった。ワルトが急に口から血を吐き出した。

「ワルトさん!」

 今まで元気そうに見えたのに急に吐血をして地面に倒れこんだワルトを見て、驚いて声を上げた。しかもその吐血の原因は地面を転がり落ちたことではなく、病のせいであるように感じられた。

「だ、大丈夫ですか⁉どうして急に。とりあえず休みますよ」

 アンナはワルトの肩を支えて、木のそばに座らせた。

 ワルトはとても弱っているように見えて今すぐに死んだとしてもおかしくなかった。

「……ごめんね、急にこんなことになって」

「ワルトさんはじゃベらないでください、死にますよ!…………どうにかしないと、ワルトさんが死んじゃう」

 アンナは焦っていた。ワルトを助ける方法を必死に考えていたが、こんな状態だともうどうしようもなく、何も思いつかなかった。

「そんなに焦らなくていいよ。どうせ一か月後に死ぬ命だったんだし、隠せなくなっただけだから」

 「え?」

 頭が真っ白になった。

 (隠せなくなっただけ、ということは今までずっとこんな状態だったってこと?確かに昨日の夜は似たような状態だったけど、その時以外は元気そうに言えたのに。)

「……どういうことか説明してください」

「いいよ」

 そう言ってワルトは病のことを説明し始めた。

 

 

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