第93話「鋼メンタルで禁断の真実を知り抜く」

「顔を上げてください。そんなことわざわざ頼まれるまでもない」


 僕の手を固く固く握りしめたドラパパは、その言葉に弾かれたように顔を起こした。

 その顔を見ないようにしながら、僕は呟くように続ける。


「ドラコは僕の生徒です。あいつがこれからする行動のすべては、師である僕の責任だ。そこから逃げ出すつもりはありません。約束します、いつどんなときでも僕はあいつの味方をしますよ」


「先生……」


 僕が顔を背けているうちに、早いとこ顔を拭ってほしい。

 なんでドラパパの顔を直視しないかって?

 決まってるじゃないか、尊敬する人が泣いてる姿なんて見なかったことにするのが男の嗜みだからだよ。


 僕はもうはっきりとドラパパへの尊敬の想いを自覚していた。

 ゼロから自分の才覚だけでここまでの偉業を成した人だよ。そりゃ尊敬に値するでしょ。


 そんな人から頭を下げて頼み事をされるなんて、それは名誉だよ。

 誰かに自慢するようなものではないけれど、自分の魂に誇りを持てる。人生の中で燦然と輝く宝物だ。

 三国志とか戦国時代の武将が命をかけて君主に仕える気持ち、わかっちゃったな。すごい傑物って、男性なら支えたくなるもんなんだ。そんな人からお前の力が必要なんだって乞われたら、そりゃ命を懸けて尽くしちゃうよ。

 漢気に惚れるっていう文化がこの世界の男性にもあるかどうかはわからないけど、僕はドラパパのことを断然応援したくなった。


 いっそこの人の下で働きたいくらいだけど、ドラパパが僕に期待しているのはそんなことじゃないよね。ドラコの先生であってほしいというのなら、そうあろうじゃないか。

 報酬だって教育費をもらう約束を既にしているしね。なんでもしてくれるとは言われたけど、このうえ彼から何かしてもらうことなんて


「ん? 今、なんでもするって言ったよね?」


 じゅるりと舌なめずりするデボ子の顔面に爪を食いこませて黙らせる。

 お前……お前さあ……。本当にいい加減にしろよ。

 やっぱり連れて来るんじゃなかったなこいつ。


「いだだだだだだだ! やめろ眼鏡が歪む! なんだ今更無欲ぶりやがって、もらえるものはしっかりもらっとけばいいんだよ! ちゃんとした対価が発生しない関係は不健全だぞ!」


「うむ、そやつの言う通りだ。吾輩も商人育ちだ、空手形は信用しないことにしている。信頼できる相手というのは、互いに利益で結ばれているものなのだよ」


 まさかドラパパがデアボリカに同意するとは思ってなかったな。

 仕方ない、解放してやるか。


「ぷはっ……よしマネー! マネーだ! お金くださいお金! あればあるだけいい!」


「やっぱ黙ってろお前!」


 顔から手を離した途端にこれだよ。

 そもそもお前が何かを要求できるような立場じゃないだろ。

 ほらみろ、ドラパパもちょっと引いた顔してるじゃないか。


「先生。吾輩は複数の女を侍らせるその好色ぶりを、男性としてとても羨ましく思ってはいる。ただその、人の好みにケチをつけるつもりはないが。なんでそんな女を妻に選んだのだ?」


「こんなのを嫁にするわけないだろ!? いくら貴方でもぶっとばすぞ!?」


「あ、よかった……。ウチの里によくいるメスみたいな女を嫁にするような悪趣味な性癖だったらどうしようかと思ったぞ」


 この世で考えうる中でおよそ最悪の侮辱に瞬間的にブチギレたら、なんかほっと胸を撫で下ろされた。

 いや、デアボリカみたいな性格の女がゴロゴロしてんのここ? この世の終わりみてーな里だな。

 いや、実際あと100年ほどで滅ぶって想定なんだっけ。


 まだマネーマネー叫んでるデアボリカをどうしようかと思ってたら、アミィさんが後ろからコキュッと首をひねってくれた。


「ぐえっ」


「妹がお恥ずかしい……。どうぞ気にせず話を続けてください」


「そちらも、うちの里に負けず劣らず過激な環境なのだな……。それで先生、何か欲しいものはないだろうか? もちろん貴方のペットが言うように金でも構わん。約束している教育費もまだ用意できていない状態でなんだが、将来的には大体のものは用意できる」


 ふうむ。

 ペット認定されたデアボリカが目を覚まさないうちに、決めちゃった方がいいな。

 別に欲しいものとかないけど、強いて言うなら……。


「精霊石がほしいんです。そもそも今回この里に来たのも、ドラコを里帰りさせるだけじゃなくて精霊石を分けてもらいに来たので」


 もっけの幸いだ、これを要求しておこう。

 そもそも精霊石っていくらくらいが相場なのかわかんないけど、アルシェさんの話では結構貴重なものみたいだし。


「おお、それは我が息子から聞いておる。炎のと氷のが欲しいということだな? しかし炎ならわかるが、氷のものなど人間が何に使うのだ?」


 僕の言葉に膝を打ったドラパパが、こちらの顔を覗き込むようにして訊いてくる。

 まあ別に隠すようなことじゃないけどね。


「冷蔵箱を作りたいんですよ」


「冷蔵箱とは?」


「えーと、紙とペンあります? こういう感じの箱で、上の方に氷の精霊石を入れたらその冷気で下に入れた食材や水を凍らせて長持ちさせられるというものなんですけど……」


 ちょうど客室に置かれていたデスクに紙とペンがセットで配置されていたので、軽く図を描いて説明した。

 さて、ドラパパに通じるかなこれ。アルシェさんも結構理解するのに時間かかってたけど……。


 ドラパパはしばし僕が描いた図面を凝視すると、ふうむと唸り声をあげた。


「これ、いいな」


 おや、意外と理解がスムーズな感じ?

 ドラコなんかは食材を冷やしたから何なんだよみたいなこと言ってたし、この里って標高が高いせいか既に真冬みたいな寒さだから良さが伝わらないかなと思ってたけど。


「なあ、相談なんだがこれの大きいものを作ってもらうわけにはいかんか? でかければでかいほどいい。そうだな、小屋くらいのサイズのがほしい。もちろん費用はこちらが工面するし、先生にも仲介料をお支払いしよう」


「ええと……?」


 良さがわかってもらえるどころか、まさかの発注依頼を受けて僕は目をぱちくりさせた。

 そんな僕の顔を見て、ドラパパは顎ひげを撫でる。


「吾輩が貿易で儲けていることは先に言ったとおりだが……生の品物を運ぶと途中で腐ってしまうことがあるのが困りものでな。うちはインディスパイスやら新大陸やらにも翼を伸ばして仕入れにいっているのだが、どうにもあそこらはナーロッパと違って暑く、品物がすぐ腐ってしまう。そこで大きな仕入れをするときは、氷山で採った氷の精霊石を箱に入れて腐りにくくはしていたのだ」


「え!?」


 マジかよ。この人、クール便を発明してる!?

 本当に現地人? やっぱ現代から何か受信してたりしない?


 ぽかんとする僕を見て、ドラパパは苦笑を浮かべる。


「そう驚かなくてもよかろう。さすがに吾輩とて、ものを冷やせば腐りにくくなることは知っておるよ。氷室は割とどこでも使われているものだ。ひんやりした洞窟を倉庫にするくらい、理屈はわからなくても経験で編みだすよ。ものを冷やせば腐りにくくなるのなら、氷の精霊石を使えば鮮度を落とさずに運べるという発想になるのは自明の理だろう?」


「そ、そうっすね」


「ただなー、やっぱ暑いところに持ってくとすぐ石の力が散ってダメになっちゃうんだよ。箱に閉じ込めてひんやりした空気を逃がさないようにすれば長持ちするというのは目から鱗だったわ。さすがは先生だ、感心したぞ」


 いえ、僕なんかよりあなたの方がずっとすごいです。

 僕なんて所詮現代知識を知ってるだけだからね。

 本当に頭がいい人から物知りだって褒められるの、すっごく居心地悪いわ。


「ドラゴンにはそんな精密な箱を作る技術などない。ドラゴンって図体だけはデカいけど、本当に不器用でな。ものづくりの才能がちっともないのだ。この屋敷も人間の大工に発注して、少しずつパーツに分けて運んで組み立てたくらいでな。まったく、そういう機転が利かせられる奴がドラゴンにはまったくおらんから困ったものだ」


 だからそういう発想が出てくるのがすごいんだって! モジュール設計を閃いてるじゃん!

 この人、人間の世界で商人続けてても大成功したんじゃないかな……。


「そういうわけで先生、吾輩の商隊のためにこの冷蔵箱を小屋サイズで作ってもらえんだろうか。とりあえず2つくらいはほしいが、予算と期間はどれくらい必要だろう。というか、先生はこれを量産する予定はお持ちか? なんならその事業に吾輩が出資しても構わぬが……先生、どうかな」


 そう言って僕の顔を覗き込んでウキウキした調子で笑うドラパパは、完全に商売人の顔をしていた。

 あ、この人元々商売が好きで好きで仕方ない人なんだな。

 でもこっちは冷蔵箱の量産なんてまるで考えてもなかったのに、いきなりそんなこと言われても困るよ。それって工場を作って冷蔵箱を大量生産しようってことでしょ?


 まあ……売れるんだろうなあ。だって地球では発明されてから100年で全世界に広まったほどのベストセラー商品だよ冷蔵庫って。

 ただ、僕は現代知識チートで大儲けしようなんてまるで考えてなかったからね。


 ドラパパは期待を込めた目でこっちを見て来るけど、何と答えたもんか……。あーうー。

 いや、頭真っ白で何も出てこないわ。こちとらただの大学生だぞ? いきなりこんなビッグビジネスの話を持ち掛けられても、何から手をつければいいかもわからない。


 それって僕に工場用地を用意して、人を大量に雇って、素材やマニュアルを用意して、販路も整えてくれってことでしょ? 無理無理無理のかたつむりだよそんなの。

 大学時代からいくつもの会社を起業しては売却して転がしてきましたみたいな青年実業家ならまだしも、僕みたいな世間知らずの若造にはちょっと荷が重いよ。


 まったく想定外の提案をされて僕がフリーズしていると、ウルスナが助け舟を出してくれた。


「……閣下、横から失礼します。夫は発明品を作ることを趣味にしているのですが、そこまでで満足してしまって、商売っ気がまるでございません。ですので、突然そのようなご提案をいただいても、イメージができないと思われますわ」


 バンダナを解き、サラリとした金髪を流した令嬢モードだ。ちょっと口調を改めてお行儀よく座っているだけなのに、存在感が突然増したように感じる。バンダナ以外の服装はまるで変化がないのにね。

 その気品は、ドラパパをして目を留める価値があると思ったようだ。


「ふむ、そうか。なるほど、人界の塵を纏わぬ無欲さはいかにも先生らしいな。では、銭の話は君を通じてすればいいのかね?」


「はい。わたくしが夫に代わり、お耳汚しをさせていただきましょう」


 ついては、とウルスナは言葉を続ける。


「閣下のご厚情を受けて量産体制を整えることは、間違いなく夫のためになるとわたくしも信じております。ですが、まだこの発明品は試作段階ですので、量産や運用についてお話しするには時期尚早ではないでしょうか。まずは試作品の完成を目指すべきかと存じます。どうか氷の精霊石のご提供をいただけませんでしょうか」


 しゅごい……。

 立て板に水といった感じでぺらぺらと交渉するウルスナ。いつもの俺っ子チンピラとはまるで別人のような知性を感じさせる話しぶりに、僕はぽかんとするばかりだ。

 アイリーンとアミィさんも、目を丸くしてウルスナを見つめている。


 なんというか、こう。普段ぐだぐだと頭の悪い下ネタばかり話しててこいつと僕は同レベルなんだと思ってたOBの先輩が、取引先から電話がかかってくるなりシャキッとした社会人ムーブで喋り始めたときの気分だこれ……。


「なるほど、もっともだ。もちろん提供はしよう。しかし……」


「閣下のご懸念は承知しております。試作品の開発に成功し次第、閣下のご依頼に着手します。もちろん、量産の話を他に持ち込むことはしません。出資については閣下を最優先に扱わせていただきます。閣下と我が夫の友情にかけて」


「君は話ができるな。さすが先生の細君だよ」


「光栄です」


 そう言って頭を下げながら、ウルスナはぱちっとウインクを送ってきた。

 おお……僕が呆然と見ているうちに、いい感じに話がまとまった。

 本気出したウルスナってハイスペックだなあ……。この子、もしかして僕と全然釣り合わないレベルの子なんじゃなかろうか。こんな子をお嫁さんにできるなんて、貞操逆転世界最高だな。


 そのまま会話のテンポを握るかと思いきや、ウルスナは役目は果たしたとばかりに僕の後ろに下がる。あくまでも僕を立ててくれるつもりのようだ。

 不安そうな顔をしてるアイリーンにひとつ上品な微笑みを向けてから、ニイッと口元を吊り上げていつもの下品な笑顔で肩を組みに行ってるね。


 その姿を見て、ドラパパはさらに笑みを深くした。


「分も弁えているな。君のような人材が吾輩の部下にもほしいよ、まったく……。さて、では精霊石は無償でご提供しよう。ただ、炎の精霊石はこの里にも在庫があるのだが……氷のはちょっと切らしていてな」


 ドラパパはちょっと切り出しにくそうに顎ひげを撫でる。


「あれ? ドラコは精霊石はいくらでもゴロゴロしてるって言ってたけど」


「何分、我々の里でも輸送に使うくらいしか需要がないので、旅に出るときについでに採りにいくようにしておるのだ。ほっといても力を失っていくしな」


 なるほど。まあ氷もほっといたら溶けてなくなっちゃうしね。


「配下にまとまった数を採ってこさせるので、数日この里で待っていただけるだろうか」


「もちろん大丈夫ですよ。ちなみに、どこで採れるんですか?」


「ああ、この近くに万年雪が積もる山があってな。吹雪の日に山頂に氷の力が集まると、凍り付いた岩肌を突き破るように生えてくるのだよ。あと数日もすれば吹雪が来るだろうから、それ待ちだな」


 へえー。なんかすっごい面白そうな光景だな。

 地球の物理法則ではありえない現象だ。まさにファンタジー世界って感じだね。

 ぜひこの目で見てみたい。


「興味あります。見学させてもらうわけには……」


「いや、やめておいた方がいい。少々危険なのでな」


「精霊石堀りってそんな危険な仕事なんですか?」


「んん……堀ること自体は大した問題ではないのだがな。炎の精霊石なら火山の火口に飛び込んで、溶岩の海から掬わないといけないから掘り自体が割と危ないのだが」


 マジかよ。そりゃ高くつくわ。

 そんなもん燃料にしちゃっていいんですかね。

 溶岩の海から拾った石で燃えるストーブに想いを馳せていると、ドラパパは首を横に振っていかんいかんと呟いた。


「ともかく、先生に万一のことがあっては申し訳が立たない。この里でごゆるりと過ごされるといい。とはいえ、見るものもあまりない鄙びた里で退屈かもしれんが……」


「いえいえ、じゃあお言葉に甘えて観光させてもらいます」


 ドラパパにとっては何もなくてつまらない田舎なんだろうけど、少なくとも異郷ってだけで僕には物珍しいよ。広い牧場もあるみたいだし、そこに行くのもいいな。

 ただドラコとは早いところ合流したいところだけど……。いつになったら会わせてくれるんだろう。

 ドラコと合わせてくれるようにお願いしてみようかと思った矢先、ドラパパは何やらため息を吐きながら顎ひげを撫でた。


「しかし、まさかこんなに早く戻って来てしまうとは。正直なことを言うと、半年くらいは預かっていてほしかったな」


「えーと、それはドラコが過保護な環境に逆戻りして生意気になっちゃうから、という意味で?」


「逆、逆。我が息子がいない環境に、メスどもを慣れさせておきたかったのだよ。いい加減に子離れさせておかないと面倒なのだ」


 僕の質問に、ドラパパは頭を振ってそんなことを口にする。


「まったく、あいつらときたら我が息子を囲んで媚びを売ることに余念がなくてな。子供の頃から覚えをよくしておけば、あいつが大人になったときに子種をもらえるかもなどと考えておるのだ」


「へえー、ドラコもやるなあ。まだ10歳でしょ?」


 おねショタハーレムかよ。

 大人のお姉さんにチヤホヤされまくりとか天国じゃんね。

 ドラコにはお前の周囲の女はお前を種馬ならぬ種ドラゴンとしか見てないぞなんて言って叱ったけど、男として羨ましくないかと言われたら正直羨ましいに決まってんだろ。


 まあ僕には元の世界だと絶対お近づきになれないようなとびっきりの美少女と美女3人に囲まれたハーレムがありますけどね! ふふん!


 そんなことを思っていると、ドラパパはふふっと煤けた感じの苦笑を浮かべた。


「まあ、よくよく考えると帰ってきたのが今で良かったのかもしれんがな。少なくともこれで我が息子が人間の世界で元気にやっていることが知れ渡ったのだ。人間に虐待されているかもと騒ぎ立てることもあるまい。これであと2年もして、あいつが精通を迎えていたらどうなっていたやら」


「……精通してたらまずいんですか?」


「そりゃな、生殖能力ありとわかればまずいさ。さっきも言ったけど、ドラゴンのオスって生殖できる期間がやたら短いんだよ。そりゃもう何十匹で囲んで、金玉が枯れるまで搾り取るね。順番を巡ってドラゴンの里のメス総出の殴り合いが始まるかもしれん。まあ一応婚約者はいるけど、息子と同い年のメスだからまだ弱いし。大人が奪いに行くだろうなあ」


 …………。

 えーと。


「精通……してるかもしれないです……」


「は?」


 ぼそぼそと口にする僕に、ドラパパは顔を歪めた。


「嘘でしょ、まだ10歳だよ? そもそも先生はどうしてそんなこと知ってるの?」


「いや……この前、井戸でパンツ洗ってて……」


 はっ。

 その瞬間、僕の中ですべてのパーツが組み上げられた。


 ドラコの精通。僕が描いたスケッチ。ドラゴンはずんぐりした四角くてデカいものが好きというドラパパの発言。僕のお嫁さんたちに興味がないというドラコの証言。自動販売機が告げたバグみたいな実績解除。

 そこから見出される禁断の真実とは……!?


 僕はだらだらと滝のように汗を流しながら、ペンを手に取った。

 描くのは、簡易なスケッチ。ドラコのためにいつも3時間くらいかけて描いてるのとは違う、本当に手抜きの絵だけども。

 それでもこれを見た現代人は誰でも“自動車”とわかるような、そんな絵。


 それを食い入るように見つめたドラパパは、あらん限りの大音声を上げた。


「エッッッッッッッッッ!!!!」


 衝撃波を伴うほどの大声に、部屋の中の家具がめちゃめちゃになった。


「エ、エロすぎるだろ! え? マジで? こんなスケベなものがこの世にあったの!? やばいだろこれ!」


「……ああ、エロいって判断になるんですね、それ……」


 マジかよ。

 いや、僕もドラゴンカーセックスって概念は知ってるけどさ。

 あれってポルノを取り上げられて性欲発散の場を失い、ケモナー方面へと性癖が歪みに歪んだ欧米人が代償行為として生み出した時代の徒花だととらえてたんだよね。


 まさか異世界育ちのドラゴンに自動車の絵を見せて性的に興奮するとは思わないじゃない。

 いや、どういう理屈でそんなことになるの?

 しかもとんでもなくエロいものだと判断されているっぽいし。


「そりゃエロいよ! ドラゴンの感性へダイレクトに欲情しろと訴えかけてきてる! こんな卑猥なものをいきなり見せつけて来るとか、一体どういう了見ですかな!? あまりにも破廉恥すぎる! いや、まさか」


 ドラパパはごくりと唾を飲み下すと、信じがたいものを見るかのような視線を僕に向けてきた。


「これを……我が息子に見せたのですか……!?」


「はい……5枚あげました」


 肩身を狭くしてうなだれる僕と、怒りのあまり目を爛々と紅く染めるドラパパ。

 そこに、ドラパパの横から純白の少女がぬっと顔を出してきた。


「えーどれどれ、どんな絵なのー? ……エッロ!!」


 ドラママは口元を抑え、衝撃に目を丸くする。


「びっくりした! 本当にエッチだねこれ! ……え、これを見せたの? 私のベビーちゃんに?」


 ドラママちゃん目ェ怖ッ!


「ねえダーリン。私、あなたのすることなら何でも認めるって言ったけど。それも限度があるわよ」


「いや……吾輩も、今ちょっとこの人に息子を預けたことを後悔してる……」


 そこまで!?



≪説明しよう!

 大人物と見込んで息子の家庭教師を頼んだ相手が、ある日「実は僕、趣味でエロ漫画描いてるんですよー」と言いながらとんでもなくスケベな薄い本を見せてきたときのような衝撃が、ドラパパ夫妻を襲った!≫

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