第6話 強敵とユニコーン
その日のリリアは難しい表情をしていた。
というのも、普段リリアが活動しているダンジョンの低階層にマッドゴーレムが出現したという情報が入ったためである。
「見過ごしておけないけど、私弱いし……ぐぬぬ……」
マッドゴーレムはスライム状の生物が核となって周囲の土や泥を吸収することで誕生するモンスターである。
身体を構成する泥は肥沃だが取り込まれた注意の大地は雑草も育たない不毛の地になってしまう。
植物の採取をおもな収入源としているリリアにとってはマッドゴーレムの出現は大問題であった。
マッドゴーレムは動きが遅く脆いものの、いくら身体が壊れようと核となるスライムを倒さない限り周囲の土を取り込んで無限に再生する強敵である。
リリアにはそれと対峙できるだけの力はない。
だがそれでもマッドゴーレムを倒すために自分にできることはないかと模索した。
「そうだ!こういう時こそ!」
何かを思いついたリリアはダンジョンへと飛び込んでいった。
マッドゴーレムがいる階層へと赴き、配信を回し始める。
『【救援求】マッドゴーレムが出てます!』
そう題打ってリリアは遠くからマッドゴーレムの姿を配信に映し出した。
自分一人で戦えないならせめて配信で発信することでそれを見た有志の冒険者たちが助けに来てくれるかもしれないという希望に賭けてみることにしたのである。
『めっちゃデカくなってる』
『これは低階層メインの冒険者じゃ無理やろなぁ』
だがリリアの狙いに反してコメントは早くも諦めムードが漂っていた。
配信に映っているマッドゴーレムはかなりの大型に育っている。
ここまで育つと上級冒険者でも倒すのは難しかった。
(こんな時、もしかしてユニコーンさんなら……)
リリアの脳裏にユニコーンの存在が過った。
ユニコーンならあのマッドゴーレムと戦う力があるかもしれない。
だが自分からあてにすることに対して抵抗感があった。
マッドゴーレムは本能のままにダンジョンを闊歩し、周囲の土を取り込んでいった。
栄養を吸い尽くされた土は干上がり、草は枯れて朽ちていく。
自分の活動場所となる階層が荒らされるのはリリアといえども耐えられなかった。
こうなってはもうリリアに打てる手は一つしかなかった。
「ユニコーンさあああああん‼︎‼︎」
リリアは力の限りの大声でユニコーンを呼び出した。
もうなりふり構っていられない。
ここで自分の食い扶持を失うぐらいなら頼れるものに頼るほうが何倍何十倍、何百倍もマシであった。
リリアの呼び声がダンジョンの空高くに響いた数秒後、リリアの前に眩い閃光が走った。
閃光が消えると、そこには白い鎧と一本角の兜を身につけた男=ユニコーンの姿があった。
『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』
『マジで来るんか』
『流石リリアちゃんのユニコーン』
コメント欄はユニコーンの登場で大盛り上がりである。
しかしリリアにとってはそれどころではない。
「ユニコーンさんお願いします!あのマッドゴーレムをなんとかしてください!」
リリアはユニコーンの前で片膝をつき、頭を下げて懇願した。
ユニコーンは自ら膝を折ってリリアと視点の高さを合わせると、無言で小さく首を縦に振った。
ユニコーンは立ち上がるとマッドゴーレムの方に向き直って臨戦態勢に入った。
鎧の隙間から赤い光が漏れ出し、兜の目元からは紺色の眼光が走る。
そして次の瞬間、ユニコーンの鎧がその姿を変えた。
白い鎧は所々から赤いラインが血管のように走り、兜は目元から下が展開して真の顔を覗かせる。
この姿こそ、ユニコーンが力を最大限に開放するための形態であった。
「標的を排除する」
ユニコーンはそう言い放つとマッドゴーレムに突撃を仕掛けていった。
地面を飛び跳ねるように駆け、動き出した直後にはもうマッドゴーレムに肉薄していた。
『消えた⁉︎』
『俺の目には赤い光しか見えなかったんだが』
リスナーたちはユニコーンの能力に驚愕した。
そのスピードは人間が出せるそれを超越しており、リリアも含めてリスナーたちには彼が移動した後の赤い残光しか見えなかった。
ユニコーンはマッドゴーレムの頭上に躍り出るとどこからともなく金色の大剣を生成し、右手でその柄を握ると力強く横薙ぎに振り抜いた。
振り抜かれた剣の刀身は金色の軌跡を描き、触れたマッドゴーレムの首を軽々と刎ね飛ばす。
『つっよ!?』
『アレ本当に中身人間?』
リスナーたちはユニコーンの戦闘能力に驚愕し戦慄した。
自分より遥かに巨大な相手に単騎で挑み掛かる獰猛で勇敢なその姿はまさにユニコーンの伝承そのままであった。
マッドゴーレムの首を刎ねたユニコーンは剣を投げ捨てるとマッドゴーレムの右肩に乗り掛かり、首から下に腕を突っ込んだ。
するとユニコーンの腕からエネルギーが赤い光となって流れ込み、マッドゴーレムの身体を内部から破壊していく。
マッドゴーレムの身体はユニコーンのエネルギーに耐えられず、体表に亀裂を走らせて内部から赤い光を迸らせる。
そして数秒後、ついに限界を迎えたマッドゴーレムの身体は音を立ててバラバラに砕け散ったのであった。
『瞬殺じゃん』
『強すぎか』
『これまでの配信に映った冒険者で一番強いんじゃないか?』
コメント欄はユニコーンの戦闘を見て大盛り上がりであった。
ボス級の相手ですら歯牙にもかけず一人で圧倒するその姿はまさに一騎当千、誰も見たことのない強さであった。
だがユニコーンの活動はまだ終わりではない。
ユニコーンが片膝をついて右手で地面に触れると兜の角が光り、地表が角と同じ白い光に包まれてマッドゴーレムに栄養を吸われて枯れ朽ちていた大地がみるみるうちに息を吹き返していく。
彼は浄化の力までも持ち合わせていたのである。
「あの……ありがとうございました‼︎」
リリアはユニコーンの近くまで寄って大声でお礼を述べた。
それと同時に今回の役目を終えたユニコーンの鎧から赤いラインが消え、兜も元通りに閉じられていつもの姿へと戻る。
「当然のことをしたまでだ」
ユニコーンは謙遜したように答えた。
彼はリリアの呼び声に応じ、その想いに応えた。
ただそれだけである。
「貴方って何者なんですか?ずっと私のことを助けてくれますが……」
「前にも言ったはずだ。君の『ユニコーン』だと」
ユニコーンはリリアの問いに対して念を押すようにそう言うと、またどこかへと去っていってしまった。
結局リリアは今回もユニコーンの正体について何一つ手がかりを得ることはできなかった。
かくして、ユニコーンの手によって低階層のダンジョンはマッドゴーレムの脅威から救われたのであった。
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