第4話 頼もしいけど気持ち悪い
必要分のセンニチソウを採取し終えたリリアは地上へと戻り、クエストの依頼人である花屋のオーナーの元を尋ねていた。
「これ、今回の納品分です」
「ありがとう。いつも悪いねリリアちゃん」
花屋のオーナーの女性がリリアにお礼を告げた。
彼女の名はセラ、リリアに対して信頼を寄せる町の住人の一人であり、リリアの配信のリスナーでもある。
「ねえリリアちゃん。昨日の配信見てたんだけど、急に出てきたあの真っ白な鎧の人って誰なの?」
「えっ」
セラに訊ねられてリリアは硬直した。
リリアとユニコーンはそれまで何の接点もない赤の他人であり、ましてやリリアはユニコーンの正体どころか素顔すら知らない。
リリアからすれば『いきなり配信に映り込んだ何か強い人』でしかなかった。
「あー……あの人は、その……誰なんだろう」
「知らないの?」
「はい。全然」
リリアはここで冷静になってユニコーンについて考え始めた。
初対面でオオトカゲから助けてもらった時、ユニコーンは自分のことを名前で呼んだ上に呼び捨てにしていた。
つまりその正体は以前から自分のことを知っている、それも近い距離にある人物である可能性があった。
「知らない人なのに家にあげちゃったの?」
「えっ、あの人家に来たんですか?」
「昨日オオトカゲのステーキ作る配信してたでしょ。その時にお酒に酔って寝ちゃったリリアちゃんを抱きかかえてどこかに連れて行くのが映ってたけど」
セラからそれを聞いたリリアの背筋にゾワゾワと悪寒が走った。
話が本当ならユニコーンはどういうわけか自分の家を知っている上に無断で上がり込んできたということになる。
該当の配信のアーカイブが残っていないため自分で確かめることはできないが、朝起きたときにベッドにいたのも、配信がちゃんと切られていたのも、台所が片付いていたのも、すべてユニコーンがやったのだと考えれば辻褄が合う。
「怖……」
「リリアちゃんのこと助けてくれたみたいだし、悪い人じゃないとは思うけど。一体誰なんだろうねぇ」
リリアは自分の知らないところで繰り広げられていたユニコーンの所業にドン引きさせられた。
窮地を助けてくれたり、酔った自分を介抱してくれたり、言い寄ろうとする男たちを追い払ってくれたりと悪い人ではなさそうだがそれを差し引いても自分の家に入って来たという事実は気持ち悪くてならなかった。
「念のためにもう一回聞いておくけど、本当に知り合いじゃないの?」
「まったく身に覚えがないです」
「気を付けた方がいいわよー。リリアちゃんも冒険者とはいえ女の子なんだから」
セラはリリアに忠告した。
セラの目からすればユニコーンの行動は『リリアを付け回す正体不明の不審者』でしかなかった。
そして今、リリアも半分ほどその不審さを疑っている状態である。
毎度自分の前に現れるということは自分の近くで正体を隠して過ごしているのかもしれない。
そう考えたリリアは日が暮れるまで町の人たちにユニコーンのことを聞いて回ることにした。
「白い鎧の冒険者?この辺じゃ見たことないなぁ」
「ダンジョンの中でも見かけたことないな。そんな奴がいたのか」
「そんなに強い冒険者がいるならとっくに他の冒険者がパーティに誘ってるんじゃない?」
町の人たちに訊ねてもユニコーンに関する有力な情報は何一つとして得ることはできなかった。
そんな中、有力とはいいがたいものの気になる言葉があった。
「君のユニコーンっていうんだから、君の前にしか現れなかったりして」
それは若手の男性冒険者が茶化すように言った一言であった。
これまでユニコーンがリリアの前に姿を現した三回はいずれもリリアが危機に陥った場面である。
つまり自分が求めればユニコーンは自分の前に姿を現すのではないかという仮説がリリアの中で浮かび上がった。
「はは、まさかね」
リリアは自分の頭の中に浮かんだ仮説を一蹴した。
自分が危険に晒されたときに姿を現すユニコーンに会うために自ら危険な目に遭いに行くのは馬鹿馬鹿しい話であった。
「ユニコーンって人、どこにいるんだろう」
陽が沈みかけて夜を迎えようとする中、リリアはユニコーンのことを考えながら家に帰るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます