第7話。「beginning」
窓の外から微かにキジバトの鳴き声が聞こえる。簡素な部屋だからかとても良く響く。
寝巻きなんて持ち込む暇もなかったからそのまま寝たが、案外ぐっすり眠れたらしい。コンクリートの打ちっぱなしのような内装と何もない部屋の組み合わせが独房っぽい気もして嫌だったが、割と平気だ。
ん? コノカはどこだ? さっきから身体を動かしつつ当たりを見渡すが影も形もない。もしかして夢だったんじゃなかろうか、ありえない話でもない。
高校生の引きこもりの脳内である。もしかしてそんな感じのイマジナリーガールフレンドを生み出していた可能性も捨てきれない。いたたまれないけど……。
夢であって欲しいくらいだ。ここ数日で起きた出来事があまりにも現実離れしていて、目覚めた先が自室だったらどれ程良かったかなんて思う。
はぁ、とため息を着いて軽く身体を伸ばそうと上体を起こす。
おこ、す。あれ? 起こせない。
もう一度、ふんっ! ……あれ?
「あ、おはようカイ!!」
「のわぁっ!?」
「おっと」
いきなり目の前にバンっ!って現れるコノカ。ほんと何言ってるか分からないと思うけど、目の前に急に現れた。
顔が近すぎて昨日の出来事が軽くフラッシュバックしたが、あまり考えないようにしよう。朝だしな……。
「あははは!」
何が愉快なのか……。
空中から突然現れたコノカさん。そういえば言ってたな、実態がないデータ生命体なんだっけか? 正直、話の流れ的に聞き流していた気もするが、全くもって突拍子もない。理解もできないけど。
「なぁ、実態がないってのは何となく分かったけどさ。それじゃあどうやって飯とか食うんだよ」
「飯?」
「飯」
「飯ってなに? それはどんなもの?」
ふよふよ浮きながらキョトン顔である。
さすがにこれは惚けてるだろ……。いくらデータとはいえ生命体なんだろ? 何かしらエネルギー的なものはあるよな。じゃないとどうやって動いてるんだ。
「ねぇ!それはなんなの!」
「わぁー!」
実態があれば、ばふっ!という音がしただろうという何とも柔らかなタックルを食らった。
「飯ってなに? どんなものなの?」
「うーん。こ、こう。なんだ...それ食わないと身体が動かないんだ」
「あ、エネルギーなんだね! そっか……まだアナログな人類だからエネルギーを作物から得ているんだね」
勝手に納得したのか一人でうんうん頷いている。
何が通じて何が通じないのか分からん! こいつの星と地球はどれくらい似てるんだろうか。どれくらい共通点があるのかも分からないし、この先こういう説明が増えるのだろうか。結構憂鬱だなおい。
「ねー!!」
「なんだよ!?」
「カイがその飯? を食べてるところ見たい!」
「はぁ!?」
また唐突に脈絡もなく……。見たいってなにか? 口に運んであーんでもしてくれるってか?
「ねぇねぇー! 食物の摂取見たい!!」
目をキラッキラさせてこちらをハイテンションに眺めやがるこの美少女はまたも変な要求をしてきた。
軽く支度をして唯一ある扉の前に立って少し考えた。
こ、これそのまま開けていいのだろうか。ちょっとというか色々あり過ぎたせいか少し敏感になってる。
そんな俺の葛藤を全く感知しない隣の宇宙人さんは目をキラッキラさせて早く早くと肩を揺すってくる。
なんかこんな感じの美少女ゲームなかったか? それにしたってもっとまともな采配をシナリオライターが考えるだろ。こんなめちゃくちゃなシナリオじゃクレームの嵐待ったナシだと思うね。俺なら言う。
実態がないのに何故か感触はあるんだよなぁ……。肩を揺すられる次いでに軽く抱きついてきたりして、朝の男にとっては飛んでもなくピンチだ。
さっきから軽くではあるが胸の感触がたまにぷにぷにしている。やめてくれ……性器無いんじゃないんですか、コノカさん。
「ハロー! 2人とも!」
「ひゃうん!」
バタン!と勢い良くドアが外側に引っ張られる。
アタフタ悩んだりぷにぷにしたりしていたらドアノブ掴んでたせいで廊下に放り出される形になった。
めちゃくちゃ情けない声が出てしまった。
「Oh……」
「いったいなぁ! 何なんだこれ」
盛大にずっこけて向かい側の壁に衝突した。
金髪巨乳の女性を目の端で捉えてエマであることを認識する。
「ちょっ、いきなり開かないでください」
「あーごめんごめん! まさかドアの前でモゾモゾしてるなんて思わないでしょ? それより……」
「は、はい?」
エマさんの視線を追うとそこには何とも素晴らしい紺色の絨毯が広がっていた。綺麗な2つの小山が美しい。
一体これはどこのブランドだろうか。そうさな、きっといい所の特注品に違いない。
ぷにぷに。
「か、カイ?」
「前言撤回するわ……。貴方にも少し興味出たかも」
「……と、いいますと?」
「いやー私なら宇宙人と2人きりの部屋でナニかをしたあげく、公衆の面前で胸を揉むなんて出来ないもの。尊敬するわ」
「大変失礼しました!!」
ドッと立ち上がって素敵な感触から手を離す。
というか、そういえばこいつのこの容姿はこちらと同じ〝作られた〟ものなのだろうか。なんで俺にだけ触れて感触まであるんだ? 実態ないんじゃないの?
「ねー、カイ? 2人ともどうしたの??」
「なんでもないさ」
「これは今後監視を強化しないと大事な保護観察対象が穢されそうね」
大変な言いがかりである。俺はただその場に手をついただけでして……。というか、なんで部屋で何かしてた体なんですかね?? 俺は童帝だぞ?
当のコノカさんはまたもやキョトン顔である。何と言うか、掴みどころのない宇宙人だよな。
いや掴めそうなものは2つあったけど。
「これは……やっぱり隔離かしら」
「あーー!何もない何もない!!本当に何もない!」
「……? 良くは分からないけど、何もないよ!」
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