境界線の先に何を見る

@kiyokiyover2

第1章 私の瞳に写るもの

プロローグ 生存者と

 血で視界が滲む、身体中の傷が痛んでやまない。

 しかしそれが進む続ける足を止める理由にはならない。


 ここはダンジョンだ、例えここが上層階であったとしても進むことをやめてしまえば魔物の餌になるのがオチだ。

 ならば進み続けなければならない。例え血反吐を吐こうとも。例え手足が千切れようとも。


 進め、進め、進め、進め


 生きて帰りたいなら進み続けるしか道はないのだから。


――――――――――――――


 一体あれからどのくらい進んだのだろうか。今いるのが何階層なのか、そもそも今自分は前に進めてるのかすらも分からない。しかし進み続けなければならない。


 腕の傷からは絶えず血が流れ続け左手はもう動かすことすらままならない状態である。今なお動き続けている右足は足裏の皮が剥がれ冷え切った地面に触れて傷口がどんどん爛れ膿んでいる、左足は健が切れた後常に引きずってきたせいで原型が分からぬほどにぐちゃぐちゃになっておりもはや動いていることが異常と言えるほどの重傷である。


 まだ右腕が生きている。右足も動かせないわけではない。ならば進み続けるだけのこと。


 しかしそれに伴う苦痛にさらされるたびに本当に帰ることが出来るのか、自分はまた普通に生きていけるのか、そんな不安が常に頭の中で叫び続けている。


 しかし苦痛とともに進み続けたその歩みはここは止まる。本来なら気にも留めないであろう小石に足を引っかけて躓いてしまったのだ。


「あぁ…どうして俺はいつもこうなんだろ…」


 身体に力が入らない、最早ここまでだ。残された道はこのまま衰弱して死んでいくか魔物の餌になって死ぬかのどちらかだろう。


 ――まだだ、まだ終わりじゃない、諦めるな。 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け


 一歩でも前に、一歩でも多く、一歩でも先に…


 しかしどれだけ思いが強くとも、どれだけ生きる意思があろうとも現実は非情である。どれだけ努力しようと変わらぬ結末はあるのだから。


 十分よくやったではないか、こんな自分の最期としてはあまりにも贅沢なものであった、そう思えるほどに努力したのだから。


 だんだんと力んでいた身体から力が抜けていくのが分かる。だんだんと冷え切っているダンジョンの地面と自身の身体の境界が分からなくなるほどに身体から熱が失われていっているのが分かる。


「ダメだ…これ…は…死んだ…な…」


 最後にそう呟き意識を暗い闇に落としていく。しかし意識を失う最後に聞いたのは己の呟きではなく


「お前、境界線が見えてるな」


 水面を踏んだような水の音とどうしようもないほどに冷え切った声の女の意味の分からない単語であった。

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