第1話

「えっ…?」



それは、大学からの帰り道だった。


見間違いだったのだろうか。

体格や顔つきはあの頃より少し変わっていたものの、中学の先輩とすれ違った気がした。



もしかしたらと思って、来た道を必死に走った。


先輩のようなクラウチングスタートがきれたら、直ぐに追いつけたかもしれない。

風を味方に出来たらもっと早く走れる気がする。



「あれ…?」



辺りを見回すも、笛吹うすい先輩らしき人はいなかった。


来た道以上に戻っても戻っても、先輩は見つけられなかった。


瞬時に思い出された、私のにがい初恋の思い出達は、頭の中からそう簡単には消えてくれなかった。



頭の中に流れ出す、先輩のソロコンサート曲。



レガートのかかった音符を滑らかに吹き上げるあの音、あの少し角張った手を、もうずっと忘れられない。



本当に好きだったから、理由がわからずに距離をとられてしまった後も、どうか幸せに。と、心の奥底で願っていた。




「…………」




逢坂 花音おうさか かのん 20歳。


私はあなたと再開してしまったら、また好きになってしまう自信があります。

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